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【水素社会推進法①】供給等事業計画認定の効果
2024.04.30
水素の利活用の拡大を図るため、水素社会推進法の成立に向けて法案の審議が進められています。同法案では、低炭素水素等供給等事業計画の認定制度が設けられており、認定されると、①価格差に着目した支援や拠点整備支援、②高圧ガス保安法の特例、③港湾法の特定、④道路の占用の特例が認められます。
(供給等事業計画の内容・認定基準につきましては、「【水素社会推進法②】供給等事業計画の内容・認定基準」をご参照願います。)
2月13日に提出された、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法)案(以下「本法案」といいます。)は、4月9日に衆議院で可決され、現在、参議院で審議されています。
「低炭素水素等」の定義
本法案における「低炭素水素等」とは、水素等(※1)のうち、以下の要件に該当するものをいいます(2条1項)。
(1) その製造に伴って排出される二酸化炭素の量が一定の値以下であること(※2)
(2) 二酸化炭素の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国における二酸化炭素の排出量の削減に寄与すると認められること、等
(※1) 水素等:水素及びその化合物であって省令で定めるものをいい(同項)、アンモニア、合成メタン及び合成燃料がこれに当たると考えられます(法律案の概要https://www.meti.go.jp/press/2023/02/20240213002/20240213002-1.pdf)。
(※2) 水素・アンモニア政策小委員会、脱炭素燃料政策小委員会、水素保安小委員会の中間とりまとめ(2024.1.29)(以下「中間とりまとめ」といいます。)では、「例えば、水素バリューチェーン協議会からは、…3.4kg-CO2/kg-H2が適当との考え方が示されているが、具体的な水準については、さらに検討を進めていく必要がある」としています(6頁)。
供給等事業計画の認定
低炭素水素等供給事業者(※1)又は低炭素水素等利用事業者(※2)は、単独で又は共同して、低炭素水素等供給等事業(※3)に関する計画(低炭素水素等供給等事業計画、以下「供給等事業計画」といいます。)を作成し、主務大臣(※4)の認定を受けることができます(7条1項)。
(※1) 低炭素水素等供給事業者(以下「供給事業者」といいます。):低炭素水素等供給事業を行い、又は行おうとする者。
低炭素水素等供給事業:低炭素水素等の供給(国内で製造し、又は輸入して供給すること)及びこれに伴う低炭素水素等の貯蔵又は輸送を行う事業(2条2項)。
(※2) 低炭素水素等利用事業者(以下「利用事業者」といいます。):低炭素水素等利用事業を行い、又は行おうとする者。
低炭素水素等利用事業:エネルギー又は原材料としての低炭素水素等の利用及びこれに伴う低炭素水素等の貯蔵又は輸送を行う事業(2条3項)。低炭素水素等の利用には、自動車又は原動機付自転車に充填することも含まれます。
(※3) 低炭素水素等供給等事業(以下「供給等事業」といいます。):低炭素水素等供給事業又は低炭素水素等利用事業(2条4項)。
(※4) 主務大臣:経済産業大臣。ただし、供給等施設(導管を除く。)を港湾に整備する場合及び導管を設置する場合における供給等事業計画に関する事項については、経済産業大臣及び国土交通大臣(42条2項)。
2-1 認定の効果
2-1-1 助成金の交付
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」といいます。)は、次に掲げる資金に充てるための助成金を交付します(10条1号)。
(1) 認定を受けた供給事業者が認定供給等事業計画(※1)に従って継続的に低炭素水素等の供給を行うための資金
(2) 認定供給等事業者(※2)が共同して使用する供給等施設であって、認定供給等事業計画に従って供給が行われる低炭素水素等の貯蔵・輸送の用に供する施設等の認定供給等事業計画の実施に必要な施設の整備に必要な資金
中間とりまとめでは、(a)エネルギー政策(S+3E)を大前提として、GX実現に向けた低炭素水素等の商用規模のパイロットサプライチェーンを構築するため、供給事業者に対し、既存原燃料と低炭素水素等との価格差に着目した支援を行うとともに、(b)国内で大量の低炭素水素等を安定・安価に供給できる環境を整備するため、周辺の潜在的ニーズの発掘・集積を促し、我が国産業の国際競争力強化にも資する拠点形成を支援する(拠点整備支援)、としており(5頁)、(1)が(a)の価格差に着目した支援、(2)が(b)の拠点整備支援に当たると考えられます。
(※1) 認定供給等事業計画:認定に係る供給等事業計画(変更の認定、変更の届出があった場合は、その変更後のもの(8条3項))。
(※2) 認定供給等事業者:認定供給等事業計画に係る供給事業者、利用事業者又は低炭素水素等の貯蔵、輸送又は販売を行い、又は行おうとする者(7条3項)。
2-1-1-1 価格差に着目した支援(中間とりまとめ11頁以下)
2-1-1-1-1 支援対象
国内製造に関しては、水素等の製造に係るコスト、海外製造・海上輸送の場合は、水素等の製造・海上輸送に係るコスト(海外案件については、国内への供給分に応じたコスト)が支援対象となります。また、水素等の供給事業者は、単に輸送又は供給のみを行うだけでなく、一定程度サプライチェーン全体を制御・管理できる地位を有することが要求されます。
(中間とりまとめ12頁)
2-1-1-1-2 支援内容
プロジェクトごとに基準価格及び参照価格が決定され、基準価格から参照価格を差し引いた額の全部又は一部が15年間(※)にわたり支援されます。参照価格が基準価格を超える場合は、その差分を国に返還しなければなりません。
(※) 水素・アンモニアの製造設備・輸送用船舶等のインフラ設備の一般的な償却期間(第5回水素政策小委員会、アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会(2022.10.7)資料3の22頁)。
(1) 基準価格
国内への供給分に係る単位量当たりの水素等の製造・供給に要するコストと利益を回収できる価格であり、事業者が事前に基準価格の算定式又は固定値として提示します。
基準価格の算定式もしくは固定値は、支援期間中(15年間)原則固定とし、コストオーバーラン等の事業者が制御すべき事象については事業者負担となります。
(2) 予備費
現時点で定量化できないコスト増に備えるため、設備投資に対する予備費を一定程度(建設費の10%)計上することが認められます。ただし、事前に想定したリスク要因が実際に顕在化しなかった場合、未使用の予備費分は基準価格の算定から控除されます(事業者が概算払いを受けた場合は返還します。)。
(3) 自動調整
海外製造の場合の為替の変動や、原料費等の変動に基づく価格変動の一部について、以下の算定式に基づき、基準価格に反映(自動調整)することが認められます。但し、基準価格全体には事前に上限値が設定されます。
算定式:A1×原料価格等+A2+B+利益
A1:単位量当たりの水素等の製造効率等を加味した係数
原料価格等(変動費):天然ガス代・電力代等と連動する価格 最短月次調整(為替連動)
A2(固定費):その他のOPEX(オペレーション、メンテナンス、保険、輸送等における委託費等) 四半期~年次調整(為替連動)
B(固定費):CAPEX(製造、輸送、キャリア変換及びCCS等に必要な設備費や、EPC費用等(予備費を含む。))
利益:資金調達スキームの妥当性と合わせ、プロジェクトごとに設定
(4) 参照価格
代替される原燃料の日本着の価格として一般的に公表されている参照可能な指標を基本とし、以下の(a)から(c)までのうちいずれか高いものを設定します。
(a) 代替される既存原燃料の日本着時点における価格(※)+環境価値等
(b) 日本着時点(もしくは国内製造地点)における水素等の実販売価格
(c) 過去の取引実績・販売価格等に基づく価格(※)(既存の水素・アンモニア市場での用途に用いる場合)
(※) 供給者・利用者一体の計画に照らし、用途ごとに代替される既存原燃料との価格の一定の等価性を類型的に考慮して、個別に設定されます。
参照価格が基準価格を超え、事業者が超過した利益を得ると考えられる場合には、参照価格と基準価格の差分を国に返還することが求められます。
(中間とりまとめ14頁)
(5) 水素等のサプライチェーン構築への補助との関係
水素等のサプライチェーン構築に際しては、他にGI基金や長期脱炭素電源オークション等の制度があるため、これらの制度との間で対象経費に重複がある場合には、供給者への他の制度の対象経費の重複分は基準価格の積算から控除され、利用者への他の制度の対象経費の重複分は参照価格の積算に加算されます。
(中間とりまとめ13頁)
(6) 事業計画の変更、供給途絶
事業計画の期間中(供給継続を求める支援後10年間を含む。)に計画と著しく異なる事業内容が認められた場合や、事業者方針に起因する供給途絶が認められた場合、支援した額を上限として補助金の返還が求められます。
2-1-1-2 拠点整備支援(中間とりまとめ15頁以下)
水素基本戦略においては、「水素・アンモニアの安定かつ安価な供給を可能にする大規模な需要創出と効率的なサプライチェーン構築を実現し、国際競争力ある産業集積を促すため、タンク、パイプライン等の供給インフラの整備を支援する。また、効率的なサプライチェーン構築のためには、全国的な見地からの拠点の最適配置が必要であり、地域の需要規模や産業特性に応じた拠点整備を進め、適切な集約・分散を行い、拠点とその周辺地域を海上輸送などによりハブ・アンド・スポークとして結ぶことで、広範囲で需要創出を図っていく。そのため、今後10年間で産業における大規模需要が存在する大都市圏を中心に大規模拠点を3か所程度、産業特性を活かした相当規模の需要集積が見込まれる地域ごとに中規模拠点を5か所程度整備する。」とあります(20頁)。
中間とりまとめでは、この支援策が具体化されており、①事業性調査(FS)、②詳細設計(front end engineering and design study, FEED)、③インフラ整備の3段階に分けて支援するとしています。
第1段階の事業性調査のフェーズでは、拠点を目指すプロジェクトが、後述の拠点整備支援の中核となる条件(「【水素社会推進法②】供給等事業計画の内容・認定基準」の1-2)等を見据えながら、経済的に自立可能な拠点の実現可否等を判断するために必要な情報を整理・分析することを重点的に支援されます。
第2段階の詳細設計及び第3段階のインフラ整備のフェーズにおいては、後述の中核となる条件を満たしたプロジェクトの中で、総合評価により支援対象を限定し、支援されます。
第3段階のインフラ整備支援においては、低炭素水素等の大規模な利用拡大につながり、様々な事業者に広く裨益する設備に対して重点的に支援されます。本支援では、「低炭素水素等を、荷揚げする受入基地から利用者が実際に利用する地点まで輸送(※)するに当たって必要な設備であって、民間事業者が複数の利用事業者と共同して使用するもの(共用パイプライン、共用タンク等)」に係る整備費の一部が支援されます。
水素等の利用・転換設備(共同火力や自家発電設備等)、不特定多数の利用者への供給設備及びCO2処理設備・輸送パイプラインについては、本支援の対象外とするものの、カーボンニュートラルポート(CNP)といった港湾における取組や、脱炭素化に向けた製造業の燃料転換等の支援策とも連携し、水素等の社会実装に向けた切れ目のない支援を実現する、としています。
なお、それぞれの制度趣旨を踏まえつつ、対象経費の重複を整理する観点から、拠点整備支援の最終支援額は、他の関連制度と対象経費に重複がある場合、他の制度の対象経費の重複分が補助金額の積算から控除されます。事業計画の期間中(供給継続を求める財産取得後10年間を含む。)に計画と著しく異なる事業内容が認められた場合や、事業者方針に起因する供給途絶が認められた場合、支援した設備の残存簿価相当額に補助率を乗じた額を上限として補助金の返還が求められます。
(※) 拠点とその周辺地域を海上輸送などによりハブ・アンド・スポークとして結ぶ場合は、二次受入基地も対象となります。
2-1-2 高圧ガス保安法の特例
2-1-2-1 製造に係る経産大臣の承認
認定供給等事業計画に従って高圧低炭素水素等ガス(※)の製造(容器への充填含む)をしようとする認定供給等事業者(処理できるガスの容積が日量100㎥以上の設備を使用(高圧ガス保安法5条1項1号))は、事業所ごとに経産大臣の承認を受けることができます(12条1項)。
(※)高圧低炭素水素等ガス:低炭素水素等である高圧ガス(高圧ガス保安法2条)。
承認を受けた認定供給等事業者(「承認製造者」(13条1項))は次のように取り扱われます。
(1) 承認製造者は、特定製造期間(※)中、高圧ガス保安法5条1項の許可を受けずに高圧低炭素水素等ガスを製造することができます(25条1項)。
(※) 特定製造期間:承認の日から高圧低炭素水素等ガスの製造を開始した日以後3年経過した日の前日までの期間(13条1項)。
(2) 特定製造期間中、以下の規定の適用については、第一種製造者(高圧ガス保安法5条1項の製造の許可を得た者(高圧ガス保安法9条))とみなします(25条2項)。
高圧ガス保安法15条1項(貯蔵)、16条1項(300㎥以上の貯蔵)、17条の2第1項(同上)、20条の4(高圧ガスの販売事業)、20条の5第1項(購入者への周知)、23条3項(導管による輸送)
(3) 製造開始日から2年経過した日から、特定製造期間を経過した日の前日までの期間において、以下の規定の適用については、第一種製造者とみなします(25条3項)。
高圧ガス保安法39条の2(製造のための施設・第一種貯蔵所の変更を自ら完成検査を行うことができる者としての認定(20条3項2号)の申請)、39条の4第2項(特定施設(高圧ガスの爆発その他災害が発生するおそれがある製造のための施設)を自ら保安検査を行うことができる者としての認定(35条1項2号)の申請)
(4) 特定製造期間経過した日において、高圧ガス保安法5条1項の許可を受けたものとみなし、高圧ガス保安法を適用します(25条4項)。
(5) 特定製造期間中に、高圧ガス保安法39条の2の認定(上記(3)参照)を受けたときは、受けた日において、特定製造期間が経過したものとみなし、高圧ガス保安法が適用されます(25条6項)。
2-1-2-2 貯蔵に係る経産大臣の承認
認定供給等事業計画に従って300㎥以上(高圧ガス保安法16条1項)の高圧低炭素水素等ガスの貯蔵所を設置する場合、経産大臣の承認を受けることができます(17条1項)。
承認を受けて設置する貯蔵所(承認貯蔵所(18条1項))の所有者又は占有者は、次のように取り扱われます。
(1) 特定貯蔵期間(※)中、高圧ガス保安法16条1項の許可を受けずに高圧低炭素水素等ガスを貯蔵することができます(25条7項)。
(※) 特定貯蔵期間:承認の日から高圧低炭素水素等ガスの貯蔵を開始した日以後3年経過した日の前日までの期間(18条1項)。
(2) 特定貯蔵期間を経過した日以後において、承認貯蔵所は高圧ガス保安法16条1項に定める第一種貯蔵所とみなし、承認貯蔵所に係る承認を受けた者(「承認貯蔵者」(18条1項))は同日に同項の許可を受けたものとみなし、高圧ガス保安法が適用されます(25条8項)。
2-1-2-3 ガス事業法との関係
ガス事業以外のガスを供給する事業又は自ら製造したガスを使用する事業を行う者(準用事業者)で、(1)の条件を満たす者には、ガス事業法の21条1項及び2項(ガス工作物を技術上の基準に適合するよう維持)、32条(第6項を除く)(工事計画届出)が準用され(ガス事業法105条、施行令8条1項)、(1)及び(2)の条件を満たす者には、上記の条項のほか、ガス事業法25条(ガス主任技術者の選任)、30条2項(ガス主任技術者の指示)、31条(ガス主任技術者の解任命令)が準用されます(同2項)。
但し、水素社会推進法により高圧ガス保安法の特例を受ける場合には、準用されるガス事業法の規定は、当該特例に関する規定の適用を受ける範囲に属するものを除きます。
(1) 1日のガスの製造能力又は供給能力のうちいずれか大きいものが標準状態(温度零度及び圧力101.3250kPaの状態をいう。)において300㎥以上である事業を行う者(ガス事業法施行令8条3項参照)
(2) 連続して延長が500mを超える導管を構外に有する事業場を有するもの
2-1-3 港湾法の特例
港湾法上の港湾区域内・港湾隣接地域内における工事等の許可を要する行為に関する事項が記載された事業計画が認定されたときは、認定日に認定供給等事業者に対する当該許可があったとみなされます(11条1項)。また、臨港地区内の工場・事業場の新設・増設等の届出を要する行為に関する事項が記載された認定事業計画に従って、当該行為をする場合、かかる届出を行う必要はありません(11条2項)。
2-1-4 道路の占用の特例
道路管理者は、認定供給等事業計画に従って認定供給等事業者が設置する導管について、道路占用の許可(道路法32条1項)又は変更許可(同3項)の申請があった場合、基準に適合するときは、許可を与えなければなりません(※1)(31条2項)。
(※1)道路法33条1項は、基準に適合する場合に限り、許可を「与えることができる」としています。
以上
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