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【CCS事業法②】貯留権・試掘権と貯留事業等の実施・廃止
2024.06.20
2050年カーボンニュートラルを目指す中で、エネルギー・鉱物資源の利用による環境への負荷を低減するため、二酸化炭素を回収して地下の地層に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の導入に向けて、2024年5月に二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)が成立しました。本ブログでは、貯留権・試掘権と貯留事業・試掘の実施・廃止について説明します。
(貯留事業・試掘の許可につきましては、「【CCS事業法①】貯留事業・試掘の許可」を、保安、導管輸送事業等、土地の使用・収用、貯留事業等による損害の賠償につきましては、「【CCS事業法③】保安、導管輸送事業等、土地の使用・収用と、貯留事業等による損害の賠償」を、それぞれご参照願います。)
貯留権・試掘権
1-1 貯留権・試掘権の設定
経産大臣は、貯留事業等の許可をしたときは、貯留事業者等の氏名・名称、許可貯留区域等、貯留事業等の概要等を告示します(24条)が、この告示があったときに、当該許可貯留区域等に係る貯留権又は試掘権(「貯留権等」)が設定されます(25条1項)。
1-2 貯留権、試掘権の性質等
貯留権等は、物権とみなされる(33条)ため、貯留事業者等は、許可貯留区域等において第三者に対して、物権的効力として妨害排除請求権(※1)及び妨害予防請求権(※2)を有すると考えられます(我妻栄・豊島陞「鉱業法」(有斐閣、1958)18頁参照)。
また、許可貯留区域等に係る土地に関するその他の権利は、貯留事業者等が行うCO2の貯蔵若しくは試掘を妨げ、又は貯蔵若しくは試掘に支障を及ぼす限度においてその行使が制限されます(25条1項)。権利の行使の制限によって具体的な損失が発生した場合、貯留事業等の許可の告示の日から1年以内に限り、貯留事業者等に損失補償を請求することができます(26条1項)。
さらに、貯留権等については、この法律に別段の定めがある場合を除き、不動産に関する規定が準用されます(33条)。ここでいう「不動産に関する規定」とは、民法のみならず、民事訴訟法や商法等も含まれると解されます(我妻・豊島19頁参照)。
(※1)「妨害排除請求権」:権限なく権利行使が妨害されている場合に、当該妨害の除去や妨害行為の停止等を求める請求権をいいます。
(※2)「妨害予防請求権」:権限なく権利行使が妨害されるおそれがある場合に、その原因を除去して妨害を未然に防ぐ措置を講ずることを求める請求権をいいます。
1-3 権利の目的
貯留権等は、相続等の一般承継、譲渡、滞納処分、強制執行、仮差押え・仮処分の目的となりますが、権利の目的となることはできません(34条)。たとえば、賃貸借の目的等として、貯留権等を賃貸借することは認められません。貯留権は抵当権の目的となり得ます(同条)が、貯留権等は貯留事業者等が自ら行使することを要するため、質権の目的にはなり得ません(我妻・豊島174頁参照)。
1-4 貯留権等の譲渡
貯留権等は、貯留事業等の事業譲渡の認可(17条1項)又は貯留事業者等の合併・分割の認可(同条2項)を受けなければ、移転することができません(35条1項)。かかる認可を受けずにした貯留権等の移転は、その効力は生じません(同条7項)。
1-5 貯留権等の登録
貯留権等及び貯留権を目的とする抵当権の設定、移転、変更、消滅及び処分の制限は、貯留権等登録簿に登録します(36条1項)。鉱業法においては、登録は効力発生事由であると定めています(鉱業法60条)が、CCS事業法にはそのような規定は見当たりません。
1-6 貯留権等の放棄
貯留開始貯留事業者は、貯留開始貯留事業に係る貯留権を放棄することはできません(35条2項)。
貯留事業者等は、貯留権等(貯留開始貯留事業に係る貯留権を除く)を放棄したときは、その旨を経産大臣に届け出なければなりません(同条3項)。経産大臣がその旨及び当該貯留権等が消滅する旨の告示をした(同条4項)とき、当該貯留権等は消滅します(同条5項)。また、貯留開始貯留事業以外の貯留事業に関する貯留権で、抵当権の設定の登録があるものについては、抵当権者の同意がなければ、放棄することはできず(同条6項)、このような同意のない放棄は、その効力は生じません(同条7項)。
1-7 貯留事業等の許可の取消しによる貯留権等の消滅
貯留事業等が、著しく公共の福祉に反する、他人が行う貯留事業等又は鉱業を著しく妨害する等により、経産大臣が許可(貯留開始貯留事業に係るものを除く)を取り消した場合(19条1項から3項まで)、経産大臣は、遅滞なく、その旨及び貯留権等が消滅する旨を告示し(32条1項)、この告示があったときに、当該貯留権等は消滅します(同条2項)。
1-8 貯留権・試掘権に関する税務
1-8-1 印紙税(附則10条、印紙税法別表第1第1号)
貯留権、試掘権の譲渡契約には印紙税が課せられます。その税額は契約金額によります(例:契約金額50億円超→60万円)。
1-8-2 登録免許税(附則12条・13条、登録免許税別表第1第22号の2)
設定登録においては、区域1個につき貯留権18万円、試掘権9万円となります。移転登録においては、区域1個につき貯留権9万円(合併による場合1万8千円)、試掘権4万5千円(合併による場合9千円)となります。
貯留事業・試掘の実施・廃止
2-1 貯留事業の実施
2-1-1 事業着手の義務等
貯留事業者は、貯留事業の着手に通常必要と認められる期間(省令で定める)内に、貯留事業に着手する義務を負います(37条1項)。やむを得ない理由により着手できない場合、経産大臣の認可を受けなければなりません(同条2項)。
貯留事業に着手したときや、許可貯留区域内の貯留層へのCOの注入を開始したときは、遅滞なく、経産大臣に届け出る必要があります(同条3項)。
貯留事業者が引き続き1年以上貯留事業を休止しようとするときは、経産大臣の認可を受ける必要があります(同条5項)。
2-1-2 貯留事業実施計画
貯留事業者は、許可貯留区域ごとに貯留事業実施計画を定め、貯留事業開始前に、主務大臣の認可を受けなければなりません(38条1項)。貯留事業者は、認可を受けた貯留事業実施計画(「認可貯留事業実施計画」)によって貯留事業を行う必要があります(40条)。
また、貯留開始貯留事業者は、認可貯留事業実施計画に従い、CO2の貯蔵状況確認のため監視をし(43条1項)、監視結果を主務大臣に報告しなければなりません(同条2項)。貯留事業者は、認可貯留事業実施計画の実施状況も主務大臣に報告しなければなりません(49条)。
2-1-3 引当金等
貯留開始貯留事業者は、貯留層へのCO2注入を終了したときから、貯留開始貯留事業の廃止の許可(53条5項、後述2-2-1-2参照)を受けるまでの間の監視費用等の貯留開始貯留事業の実施に必要な費用に充てるため、引当金の積立て等資金確保の措置を講じなければなりません(44条1項)。
2-1-4 拠出金
貯留開始貯留事業者は、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構、以下「機構」といいます。)が行う通知貯留区域管理業務(後述2-2-1-3参照)に必要な費用に充てるため毎年度、許可貯留区域ごとに、機構に対して拠出金を納付しなければなりません(45条1項)。
2-1-5 漏えい時の措置
貯留開始貯留事業者は、貯留層に貯蔵されたCO2の漏えいが発生し、又は発生するおそれがあるときは、応急措置を講じて、主務大臣に報告しなければなりません(48条1項)。
貯留開始貯留事業者が応急措置を講じていない場合、主務大臣は、貯留開始貯留事業者に対して、応急措置を講ずべきことを命令することができます(同条2項)。
2-1-6 特定貯留事業約款
特定貯留事業(※)を行う貯留事業者(「特定貯留事業者」)は、料金その他の条件について特定貯留事業約款を定め、経産大臣に届け出なければなりません(50条1項)。
特定貯留事業者が正当な理由なくCO2の貯蔵の役務の提供を拒否したときは、経産大臣は、役務提供を命令することができます(同条5項)。
(※)「特定貯留事業」:他の者の委託を受けて行う貯留事業で、他の者の活動に伴い排出されたCO2に関するものをいいます。
2-2 貯留事業の廃止
2-2-1 貯留開始貯留事業の廃止
2-2-1-1 閉鎖措置
貯留開始貯留事業者は、許可貯留区域における貯留開始貯留事業を廃止しようとする場合、閉鎖措置計画を定め、主務大臣の認可を受け(53条2項)、認可を受けた閉鎖措置計画に従って閉鎖措置を講じなければなりません(同条3項・22条8項)。
貯留開始貯留事業者は、閉鎖措置終了時、基準に適合していることについて主務大臣の確認を受ける必要があります(53条4項)。
2-2-1-2 貯留開始貯留事業の廃止の許可
上記2-2-1-1の確認を受け、貯留層に貯蔵されたCO2の貯蔵状況が安定するまでに必要とされる期間経過後、貯留開始貯留事業者は、貯留開始貯留事業の廃止について、経産大臣に申請し、その許可を受けなければなりません(53条5項)。
経産大臣は、貯留開始貯留事業の廃止の許可をしたときは、直ちに、その旨及び廃止の許可に係る許可貯留区域等の事項を機構に通知し(同条11項)、また、遅滞なく、貯留権が機構に移転する旨及び通知貯留区域(※)を告示しなければなりません(同条12項)。この告示があったときは、貯留権は機構に移転します(55条1項)。
(※)「通知貯留区域」:53条11項の経産大臣から機構への通知に係る許可貯留区域をいいます(53条12項2号)。
2-2-1-3 機構が行う通知貯留区域の管理業務
機構は、通知貯留区域の管理の業務を行います(54条1項)。
貯留層に貯蔵されたCO2の漏えいが発生し、又は発生するおそれがあるときは、機構は、直ちに応急措置を講じ、速やかに主務大臣に報告しなければなりません(56条)。
2-2-2 貯留開始貯留事業以外の貯留事業の廃止
貯留事業者が、貯留開始貯留事業以外の貯留事業を廃止したときは、その旨を経産大臣に届け出なければなりません(57条1項)。経産大臣は、この届出があったときは、遅滞なく、その旨、貯留事業者、貯留権が消滅する旨及び許可貯留区域を告示します(同条2項)。この告示があったときは、当該貯留権は消滅します(同条3項)。
2-3 試掘の実施等
2-3-1 事業着手の義務等
試掘者は、試掘の事業の着手に通常必要と認められる期間(省令で定める)内に、試掘の事業に着手する義務を負います(58条1項)。やむを得ない理由により着手できない場合、経産大臣の認可を受けなければなりません(同条3項、37条2項)。
着手したときは、遅滞なく、経産大臣に届け出る必要があります(58条2項)。
試掘者が1年以上試掘の事業を休止しようとするときは、経産大臣の認可を受ける必要があります(58条3項、37条5項)。
2-3-2 試掘実施計画
試掘者は、許可試掘区域ごとに試掘実施計画を定め、試掘の事業開始前に、経産大臣の認可を受けなければなりません(59条1項)。試掘者は、認可を受けた試掘実施計画(「認可試掘実施計画」)によって試掘を行う必要があります(61条)。
また、試掘者は、認可試掘実施計画の実施状況を、主務大臣に報告しなければなりません(64条1項、49条)。
2-4 試掘の事業の廃止
試掘者が、試掘の事業を廃止したときは、その旨を経産大臣に届け出なければなりません(64条2項、57条1項)。経産大臣は、この届出があったときは、遅滞なく、その旨、試掘者、試掘権が消滅する旨及び許可試掘区域を告示します(64条2項、57条2項)。この告示があったときは、当該試掘権は消滅します(64条2項、57条3項)。
以上
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