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【CCS事業法①】貯留事業・試掘の許可
2024.06.20
2050年カーボンニュートラルを目指す中で、エネルギー・鉱物資源の利用による環境への負荷を低減するため、二酸化炭素を回収して地下の地層に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の導入に向けて、2024年5月に二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)が成立しました。本ブログでは、貯留事業・試掘の許可について説明します。
(貯留権・試掘権と貯留事業等の実施・廃止につきましては、「【CCS事業法②】貯留権・試掘権と貯留事業等の実施・廃止」を、保安、導管輸送事業等、土地の使用・収用、貯留事業等による損害の賠償につきましては、「【CCS事業法③】保安、導管輸送事業等、土地の使用・収用、貯留事業等による損害の賠償」を、それぞれご参照願います。
貯留事業・試掘の許可
貯留事業(※1)及び試掘(※2)(総称して以下「貯留事業等」といいます。)の許可には、(1) 特定区域における貯留事業等の許可と、(2) 特定区域以外の区域における貯留事業等の許可があります。また、特定区域における貯留事業の許可には、特定区域において試掘の許可を受けた者が貯留事業の許可を受けるケースもあります。
(※1)「貯留事業」:CO2を貯留層に貯蔵する事業をいいます(2条2項)。
(※2)「試掘」:地下の地層が貯留層に該当するか否かを調査するため、当該地層を掘削することをいいます。当該地層を構成する砂岩その他の岩石を採取することを含み、当該地層におけるCO2の貯蔵を伴わないものに限られます(2条4項)。
1-1 特定区域における貯留事業等の許可
1-1-1 特定区域の指定
経産大臣は、以下の(1)から(3)までをすべて満たす場合に、特定区域として指定することができます(3条1項)(※1)。
(1) 貯留層(※2)が存在し、又は存在する可能性がある区域である。
(2) 当該貯留層におけるCO2(※3)の貯蔵により、公共の利益の増進を図るためには、特定事業者(※4)を選定し、その特定事業者に貯留事業等を行わせる必要があると認められる(以上3条1項)。
(3) 指定の際現にある他の特定区域又は許可貯留区域等(※5)(特定区域以外の区域に存するものに限る)の直上の区域と重複していない区域である(3条2項)。
(※1)海域に係る特定区域の指定には、経産大臣は、環境大臣に協議し、その同意を得なければなりません(3条3項)。
(※2)「貯留層」:その内部及び周辺の地層の温度・圧力等がCO2の安定的な貯蔵に適している地下の地層をいいます(2条1項)。
(※3)「CO2」:CO2がその大部分を占める流体を含みます(2条1項)。
(※4)「特定事業者」:当該特定区域内の当該貯留層における貯留事業等を最も適切に行うことができる者をいいます(3条1項)。
(※5)「許可貯留区域等」:貯留事業等の許可に係る貯留区域又は試掘区域をいいます(5条1項4号)。
「貯留区域」:貯留層の全部又は一部をその区域に含む地下の一定の範囲における立体的な区域で、貯留事業の用に供するものをいいます(2条3項)。
「試掘区域」:地下の一定の範囲における立体的な区域で、試掘の用に供するものをいいます(2条5項)。
1-1-2 特定区域における貯留事業等の許可
特定区域を指定したときは、経産大臣は、特定事業者の募集について、特定区域の所在地や面積、特定事業者を選定するための評価の基準等を定める実施要項を策定します(3条4項・5項)。
特定区域において貯留事業等を行おうとする者は、実施要項に従い、経産大臣に申請し、貯留区域ごとに貯留事業の許可、試掘区域ごとに試掘の許可を受けなければなりません(4条1項)。
経産大臣は、申請が次の基準に適合するか否か審査します(5条1項)。
(1) 申請者が、貯留事業等を適確に遂行するに足りる経理的基礎、技術的能力、社会的信用がある。
(2) 貯留事業等の許可を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない等の欠格事由に該当しない。
(3) 貯留事業に係る申請において、貯留区域内の貯留層でCO2の安定的貯蔵が見込まれる。
(4) 申請貯留区域等(※1)が、他人の許可貯留区域等と隣接する場合、当該申請貯留区域等における貯留事業等が当該他人の許可貯留区域における貯留事業等の実施を著しく妨害しない。
(5) 申請貯留区域等の直上の区域が、他人の鉱区と重複し、又は隣接する場合、貯留事業等を行うことが当該他人の鉱区における鉱業の実施を著しく妨害しない。
(6) 申請貯留区域等における貯留事業等を行うことが、農業、漁業等の産業の利益を損じ、公共の福祉に反するものでない。
(7) 申請貯留区域等における貯留事業等を行うことが、社会的経済的事情に照らして著しく不適切で、公共の利益の増進に支障を及ぼすおそれがない。
申請が上記の基準に適合すると認められるときは、経産大臣が実施要項に定める評価の基準(3条5項5号)に従って評価し(5条2項)(※2)、貯留事業等を最も適切に行うことができると認められる者を選定し、貯留事業等の許可をします(5条4項)。
特定区域における試掘の許可の有効期間は4年(9条1項)、更新後の許可の有効期間は2年(9条6項)で、試掘権は有効期間満了時に消滅します(28条)。
(※1)「申請貯留区域等」:貯留事業等の許可の申請に係る貯留区域又は試掘区域をいいます(4条2項2号)。
(※2)海域の貯留層における貯留事業に関する申請の評価においては、経産大臣は、上記(1)の経理的基礎・技術的能力と(3)の基準に適合していることについて、環境大臣に協議し、その同意を得なければなりません(5条3項)。
1-1-3 試掘の許可を受けた者による貯留事業の許可申請
上記1-1-2の試掘の許可を受けた者は、試掘の状況を踏まえ、当該試掘区域内の貯留層における貯留事業を行うときは、経産大臣に申請して貯留区域ごとに貯留事業の許可を受けなければなりません(10条1項)。
この許可の基準は、上記1-1-2の(1)から(7)までのほか、申請貯留区域がなお試掘を要するものでないこと、です(10条3項)。
1-2 特定区域以外の区域における貯留事業等の許可
石油、天然ガス等の採掘権の設定を受けた者は、特定区域以外の区域に存する鉱区で貯留事業等を行うときは、経産大臣に申請して、貯留区域ごとに貯留事業の許可、試掘区域ごとに試掘の許可を受けることができます(12条1項)(※)。
この許可の基準は、上記1-1-2の(1)から(7)までのほか、申請貯留区域等に貯留層が存在し、又は存在する可能性があり、かつ、公共の利益の増進を図るため、当該申請貯留区域等で貯留事業等を行わせる必要性があること、です(12条3項)。
(※)海域の貯留層における貯留事業の許可においては、経産大臣は、上記1-1-2の(1)の経理的基礎・技術的能力と(3)の基準に適合していることについて、環境大臣に協議し、その同意を得なければなりません(12条4項)。
1-3 許可貯留区域等の増減等
貯留事業者等(※)が許可貯留区域等の増減をしようとするとき(14条)や、貯留事業者が許可貯留区域の分割又は合併(16条)をしようとするときは、経産大臣の許可が必要です。
抵当権の設定が登録されている貯留権に係る許可貯留区域の減少について許可申請を行う場合、予め抵当権者の承諾を得る必要があります(14条5項)。また、抵当権の設定が登録されている貯留権に係る許可貯留区域の分割又は合併について許可申請を行う場合、予め抵当権者の承諾を得、抵当権の順位に関する協定を締結する必要があります(16条5項)。
他方、CO2の安定的な貯蔵ができない等貯留事業の適切な実施確保の必要があるときは、経産大臣が、貯留事業者に対し、許可貯留区域の増減を申請すべき旨命令することができます(15条)。
貯留事業者等が、一の許可貯留区域等における貯留事業等の全部を譲渡する場合(17条1項)や、貯留事業者等の合併(貯留事業者等である法人と貯留事業者等でない法人が合併し、貯留事業者等である法人が存続するときを除く。)又は分割(一の許可貯留区域等における貯留事業等の全部を承継させる場合に限る。)(同条2項)において、経産大臣の認可を受けたときは、貯留事業者等の地位が承継されます。
(※)「貯留事業者等」:貯留事業等の許可を受けた者をいいます(5条1項1号ハ)。
1-4 貯留事業等の許可の取消し等
(1) 貯留事業等が、農業・漁業等の産業の利益を損じ、著しく公共の福祉に反する場合、経産大臣は、許可貯留区域等のその部分について減少の処分をし、又は貯留事業等の許可を取り消さなければなりません(19条1項)。
国は、このような処分により損失を受けた貯留事業者等に対して、通常生ずべき損失を補償しなければなりません(20条1項)。貯留権の上に抵当権があるときは、国は補償金を供託しなければならず(同条6項)、抵当権者は供託された補償金に対してその権利を行うことができます(同条7項)。
(2) 貯留事業等が、他人が行う貯留事業等又は鉱業を著しく妨害し、他にその妨害を排除する方法がないときは、経産大臣は、許可貯留区域等のその部分について減少の処分をし、又は貯留事業等の許可を取り消すことができます(19条2項)。
(3) 不正の手段により貯留事業等の許可又は試掘の許可の更新を受けたときや、経理的基礎又は技術的能力が基準に適合しなくなったとき等は、経産大臣は、貯留事業等の許可を取り消すことができます(19条3項)。
経産大臣は、抵当権の設定が登録されている貯留権に係る①許可貯留区域の減少の処分をしようとするときや、②貯留事業の許可を取り消そうとするときは、抵当権者にあらかじめその旨を通知しなければなりません(21条)。
1-5 貯留開始貯留事業の許可取消し
貯留開始貯留事業(※1)を行っている貯留事業者が貯留開始貯留事業の許可の取消しを受けた場合、又は貯留開始貯留事業者が解散し、かつ事業譲渡や合併等による地位の承継がない場合、
(1) 貯留開始貯留事業の廃止の許可(53条5項)を受けるまでは、旧貯留開始貯留事業者(※2)は、本法律の適用において、なお貯留開始貯留事業者とみなされます(22条1項)。
(2) 旧貯留開始貯留事業者は、直ちに許可貯留区域内の貯留層へのCO2注入を停止しなければなりません(22条2項)。
旧貯留開始貯留事業者は、特定閉鎖措置計画(※3)を定め、主務大臣に認可の申請をしなければなりません(同条3項)。旧貯留開始貯留事業者は、認可を受けた特定閉鎖措置計画に従い、特定閉鎖措置を講じなければなりません(同条8項)。
(※1)「貯留開始貯留事業」:許可貯留区域内の貯留層へのCO2の注入を開始している貯留事業をいいます(同条1項)。
(※2)「旧貯留開始貯留事業者」:(a) 許可取消しを受けた貯留開始事業者であった者、又は(b) 貯留開始貯留事業者が解散し、その地位の承継がなかったときの清算人若しくは破産管財人をいいます(同条1項)。
(※3)「特定閉鎖措置計画」:許可貯留区域及び許可貯留区域に係る貯留事業の用に供する貯留等工作物を設置する場所についての坑口の閉塞等の措置に係る計画をいいます。
以上
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