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【CCS事業法③】保安、導管輸送事業等、土地の使用・収用、貯留事業等による損害の賠償
2024.06.20
2050年カーボンニュートラルを目指す中で、エネルギー・鉱物資源の利用による環境への負荷を低減するため、二酸化炭素を回収して地下の地層に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の導入に向けて、2024年5月に二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)が成立しました。本ブログでは、、保安、導管輸送事業等、土地の使用・収用、貯留事業等による損害の賠償について説明します。
(貯留事業・試掘の許可につきましては、「【CCS事業法①】貯留事業・試掘の許可」を、貯留権・試掘権と貯留事業等の実施・廃止につきましては、「【CCS事業法②】貯留権・試掘権と貯留事業等の実施・廃止」を、それぞれご参照願います。)
保安
1-1 貯留事業者等の義務
貯留事業者等は、公共の安全維持・災害発生防止に必要な措置を講じる(66条)とともに、貯留等工作物(※)を省令で定める技術上の基準に適合するよう維持しなければなりません(67条)。
(※)「貯留等工作物」:坑井、掘削用機械、圧送機、配管その他の工作物及びこれらの附属設備であって、貯留事業又は試掘の用に供するものをいいます(2条6項)。
1-2 自主的な保安
貯留事業者等は、貯留事業場等(※)に係る保安規程の届出(69条)、貯留等工作物の設置・変更の工事の計画の届出(75条)、貯留等工作物の使用前自主検査(76条)、貯留等工作物の定期自主検査(77条)を行わなければなりません。
(※)「貯留事業場等」:貯留事業場又は試掘場をいいます(66条3項)。
導管輸送事業
導管輸送事業とは、CO2を貯留層(外国における貯留層に相当するものを含みます。)に貯蔵することを目的として、導管によりCO2を輸送する事業をいいます(2条9項)。
2-1 届出
導管輸送事業を行おうとする者は、以下の事項を経産大臣に届け出なければなりません(78条1項)。
(1) 輸送しようとするCO2が許可貯留区域内の貯留層に貯蔵される場合:貯留事業者、許可貯留区域
(2) 輸送しようとするCO2が外国における貯留層に相当するものに貯蔵される場合:外国における貯留事業者に相当する者、当該外国における許可貯留区域に相当する区域
(3) 導管の設置場所・内径等の導管輸送工作物に関する事項、等
2-2 導管輸送事業者(※1)の義務
(1) 導管輸送事業者は、輸送するCO2の流量・圧力等を測定し、その結果を記録し、保存しなければなりません(81条)。
(2) 特定導管輸送事業者(※2)は、特定導管輸送事業に係る料金等につき約款を定め、経産大臣に届け出(82条1項)、公表しなければなりません(82条4項)。
(3) 特定導管輸送事業者は、特定の者に対し、不当に優先的な取扱いをし、若しくは利益を与え、又は不当に不利な取扱いをし、若しくは不利益を与えてはなりません(83条1項)。
(4) 導管輸送事業者は、公共の安全維持・災害発生防止に必要な措置を講じ(85条)、導管輸送工作物を省令で定める技術上の基準に適合するよう維持しなければなりません(86条1項)。
(5) 自主的な保安
導管輸送事業者は、保安規程の届出(88条)、導管輸送工作物の設置・変更の工事の計画の届出(90条)、導管輸送工作物の使用前自主検査(91条)、導管輸送工作物の定期自主検査(92条、77条)を行わなければなりません。
(※1)「導管輸送事業者」:78条1項の届出をした者をいいます(78条3項)。
(※2)「特定導管輸送事業者」:他の者の委託を受けて行う導管輸送事業で、他の者の活動に伴って排出されたCO2に係るもの(特定導管輸送事業)を行う導管輸送事業者をいいます(82条1項)。
貯留層の探査
貯留層の探査(※)を行おうとする者は、経産大臣の許可を受けなければなりません(107条1項)。
貯留層の存在状況を把握し、又は探査の適正な実施を確保するために必要があるときは、経産大臣は、探査の結果を報告すべきことを命ずることができます(115条)。
(※)「貯留層の探査」:地下の地層が貯留層に該当するか否かの地質構造の調査で、貯留層の掘削を伴わず、かつ、一定の区域を継続使用する方法(地震探査法等)によるものをいいます。
土地の使用・収用
4-1 他人の土地の立入り
以下の者は、貯留等工作物又は導管輸送工作物の設置に関する測量、実地調査、又は工事のため必要があるときは、経産大臣の許可を受け、他人の土地に、その承諾がなくても、立ち入ることができます(116条1項)。
(1) 貯留事業等を行おうとする者
(2) 貯留事業等の許可の申請をした者、又は貯留事業者等
(3) 導管輸送事業を行おうとする者、又は導管輸送事業者
許可の申請があったときは、経産大臣は、土地の所有者及び占有者(賃借人等)にその旨を通知し、意見書を提出する機会を与えなければなりません(同条2項)。また、許可を受けた者が他人の土地に立ち入るときは、あらかじめ、土地の占有者に通知しなければなりません(同条3項)。
かかる許可を受けた者は、他人の土地立入りにより他人に損失を与えたときは、通常生ずべき損失を補償しなければなりません(117条1項)。
4-2 他人の土地の使用・収用
4-2-1 他人の土地の使用
貯留事業者等又は導管輸送事業者(対象者が、土地の立入りより限定されています。)は、次の場合、経産大臣から許可を受ける(120条1項)ことで、他人の土地を使用することができます(118条)。
(1) 貯留事業者等
許可貯留区域等又はその付近において他人の土地を以下の目的のため利用することが必要・適当で、他の土地をもって代えることが著しく困難である。
貯留事業等に関する①坑井の開設等の貯留等工作物の設置、②重要資材又は土石の置場の設置、③道路開設又は電気工作物の設置、④事務所又は従事者の宿舎の設置
(2) 導管輸送事業者
他人の土地に導管輸送工作物を設置することが必要・適当で、他の土地をもって代えることが著しく困難である。
4-2-2 他人の土地の収用
貯留事業者等又は導管輸送事業者は、次の場合、経産大臣から許可を受ける(120条1項)ことで、他人の土地を収用することができます(119条)。
(1) 貯留事業者等
許可貯留区域又はその付近において他人の土地を上記4-2-1(1)①から④までの目的に供した結果、その土地の形質を変更し、これを原状に回復することが著しく困難となった場合で、なお、その土地をその目的のため利用することが必要・適当で、他の土地をもって代えることが著しく困難である。
(2) 導管輸送事業者
他人の土地に導管輸送工作物を設置した結果、その土地の形質を変更し、これを原状に回復することが著しく困難となった場合で、なお、その土地をその目的で利用することが必要・適当で、他の土地をもって代えることが著しく困難である。
4-2-3 経産大臣の許可
他人の土地の使用・収用の許可申請があったとき、経産大臣は、以下のことを行う必要があります(120条2項)。
(1) 貯蔵事業等・導管輸送事業に関係のある都道府県知事に協議
(2) 貯留事業者等又は導管輸送事業者、土地所有者、土地に関して権利を有する者からの、公開による意見の聴取
4-2-4 土地収用法との関係
経産大臣は、土地の使用・収用の許可をした場合、土地を使用・収用しようとする者、土地の所在地・区域等を公告します(120条5項)。かかる許可があったときは、事業の認定(土地収用法20条)、かかる公告があったときは、事業の認定の告示(土地収用法26条1項)がそれぞれあったものとみなして、土地収用法が適用されます(122条1項)。この許可及び公告がなされた段階では、貯留事業者等又は導管輸送事業者は、その土地に対する権利はまだ取得できておらず、以下に定める手続を経ることによって、都道府県知事の所轄の下にある収用委員会(土地収用法51条以下)に対して裁決を請求し得る権能又は地位が与えられたにとどまります(我妻栄・豊島陞「鉱業法」(有斐閣、1958)273頁参照)。
貯留事業者等又は導管輸送事業者は、土地収用法に基づき土地又はその土地にある工作物に立ち入って測量等の調査を行い(土地収用法35条)、土地調書・物件調書を作成し(同36条・37条)、収用委員会に対して、上記公告があった日から1年以内に限り、使用・収用の裁決の申請をし(同39条)、使用・収用の裁決(同47条の2第1項)又は和解(同50条)により、収用の場合は当該土地の所有権、使用の場合は裁決で定められたところにより、当該土地を使用する権利を取得します(同101条)。
損害の賠償
5-1 賠償義務
以下の(1)から(3)までの事象のいずれかによって他人に損害を与えたときは、次の(a)から(c)までに掲げる者が損害賠償責任を負います(124条1項)。
(1) 貯留層におけるCO2貯蔵又は試掘のための土地の掘削
(2) 坑水の放流
(3) 貯留層に貯蔵したCO2の漏えい
(a) 損害発生時の許可貯留区域等の貯留事業者等
(b) 損害発生時、既に貯留開始貯留事業の廃止により機構に貯留権が移転している(55条1項)ときは、移転時に貯留権を有していた貯留事業者
(c) 損害発生時、既に貯留権等(貯留権にあっては、貯留開始貯留事業以外の貯留事業に係るものに限る)が消滅しているときは、消滅時の貯留事業者等
損害発生後に貯留権等の譲渡があったときは、損害発生時の貯留事業者等とその後の貯留事業者等が連帯して賠償する義務を負います(124条3項)。
貯留事業者等は過失の有無にかかわらず、この賠償責任を負います(無過失責任、124条1項)。このような特殊な責任を認めるためには、貯留事業等特有の原因に限定するのが妥当であるため、この無過失責任を負うのは、上記(1)から(3)までの事象を原因として生じる損害に限られると解されます。たとえば、貯留事業等に必要な工作物の建設のための土地の掘削から生じる損害賠償責任の有無は、民法の不要行為責任の問題となる(過失が必要)と考えられます(我妻・豊島282-283頁参照)。
5-2 賠償
損害賠償は、金銭賠償が原則です。但し、農地等の他の物をもって代え得ない個性を有する物の損傷等においては、原状回復の方が被害を受けた側に望ましいため(我妻・豊島279頁参照)、賠償金額に比して著しく多額の費用を要しないで原状回復が可能な場合、被害者は原状回復を請求することができます(126条2項)。また、賠償義務者の申立てがあり、裁判所が適当と認めるときは、金銭賠償に代えて原状回復を命ずることができます(同条3項)。被害者が多数いて原状回復を望まない者がいる場合に、裁判所は本項により、反対者の意思にかかわらず原状回復を命じることができます(我妻・豊島288頁参照)。
5-3 消滅時効
損害賠償請求権は、被害者が損害及び賠償義務者を知った時から3年間(人の生命又は身体を害した場合、5年間(128条2項))、また、損害発生時から20年間、それぞれ行使しないとき、時効によって消滅します(同条1項)。
進行中の損害についての時効期間は、その進行のやんだ時から起算します(同条3項)。
なお、上記5-1から5-3までは、貯留事業等に従事する者の業務上の負傷、疾病及び死亡には適用されません(129条)。
以上
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