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日本輸出管理規制の動向-安全保障貿易管理小委員会「中間報告」と考察-
2024.07.22
はじめに
経済産業省は、2024年4月24日に有識者を交えた安全保障貿易管理小委員会における議論の中間報告を公表しました(以下、「中間報告」といいます。)。この中間報告では、実効的な安全保障輸出管理のために以下の点を考慮する必要性が示されております。具体的には、非リスト規制品目における機微性の違い、健全な国際貿易の発展、日本企業の海外ビジネスへの影響に留意すること、そして、安全保障上のリスクが高い取引に焦点を当て、それ以外の分野については取引を合理化することが挙げられています。以下は、項目別にその内容を解説します。
補完的輸出規制の見直し
(1) 問題意識及び方策の概要
日本における現在の補完的輸出規制(キャッチオール規制)では、通常兵器キャッチオールは国連武器禁輸国・地域向けの場合、インフォーム要件及び用途要件のみが適用され、一般国(※1)向けの場合はインフォーム要件のみが適用されます。中間報告では、最近の欧米等の同盟国・同志国が通常兵器キャッチオール規制を強化していることに鑑み、日本もそれに足並みをそろえるべきとしています。
また、中間報告では、一般国向けの通常兵器キャッチオールがインフォーム要件のみであるため、積極的に事前相談を活用する輸出者がいる一方で、輸出管理当局が事前相談の結果としてインフォームを通じて輸出者に許可申請を求めることがあるため、国内の競合他社の中には事前相談をしない者がいるという「同業者間の公平性の観点」の問題が指摘されています。
さらに、通常兵器キャッチオール及び大量破壊兵器キャッチオールの両方において、グループA国を経由した迂回調達についても問題意識が触れられています。
これらの問題意識を踏まえ、中間報告では、通常兵器キャッチオール規制の拡大(下記(2))及びグループA国を経由した迂回に対する措置(下記(3))について提言がなされています。提言の主な内容は以下の通りであり、赤字部分は提言で示唆された変更の可能性がある箇所です。
※1 一般国とは、国連武器禁輸国・地域(輸出貿易管理令別表第三の二)及びグループA国(輸出貿易管理令別表第三)のいずれにも該当しない国をいいます。例えば、財務省の令和5年分貿易統計(確々報)(※2)における地域(国)別輸出額が多い国・地域として挙げられているものには、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール、ベトナム、インドなどが含まれます。
※2 https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2023/202328g.xml(2024年6月3日アクセス)
【提言された内容の大枠】
■大量破壊兵器キャッチオール
対象地域 |
規制要件 |
||
インフォーム要件 |
客観要件 |
||
用途要件 |
需要者要件 |
||
国連武器禁輸国・地域 |
◯ |
◯ |
◯ |
グループA国 |
×→◯ |
― |
― |
■通常兵器兵器キャッチオール
対象地域 |
規制要件 |
||
インフォーム要件 |
客観要件 |
||
用途要件 |
需要者要件 |
||
国連武器禁輸国・地域 |
◯ |
◯ |
×→◯ |
一般国 |
◯ |
×→◯ |
×→◯ |
グループA国 |
×→◯ |
― |
― |
■上記に加え、グループA国に所在する企業等を個別に輸出・技術提供制限の対象として指定する枠組みの創設の可能性があります。
(2)具体的な施策―通常兵器キャッチオール規制の拡大-
中間報告で提言された方策は、以下の図の通り、概ね、既存の大量破壊兵器キャッチオールと同様のフローとなっていますが、主に対象品目の絞り込みなどの面で違いがあります。以下、中間報告で挙げられた見直しの具体的な内容について、大量破壊兵器キャッチオールと比較しながら解説します。
※出典:中間報告p.8-図3
① 対象品目の絞り込み
中間報告では、通常兵器キャッチオールの客観要件に係る対象品目については、以下の品目で絞り込むべきであるとしています。
- 「安全保障上懸念が高い品目(例えば、精密誘導兵器関連の技術、軍事指揮系統の高度化に資する技術、ゲームチェンジャーとなる技術。)」
- 「輸出者が用途・需要者確認が可能な品目(例えば、需要者との共同開発品、需要者の要求に応じて製造する又は特定の製品に組み込む専用設計品、輸出者等による現地での設置・保守等が必要な装置。)」
大量破壊兵器キャッチオールでは、ほぼあらゆる品目が対象であることと比較すると(※3)、品目が限定されることになります。なお、特定品目への該非判断に一定の検討を要する場合には、品目を問わずに先に用途・需要者を確認し、客観要件に該当する場合に限り特定品目の該非を検討する方が効率的と言えるケースも想定されます。
※3 厳密には輸出貿易管理令別表第一16項、外国為替令別表16項の品目が対象となるが、「リスト規制品目以外で食料や木材等を除く全ての貨物、技術が対象」と説明されている(https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo03.html、2024年6月3日アクセス)。
② 需要者確認における官民の連携(懸念需要者に関する情報提供)
中間報告では、需要者確認(需要者が通常兵器の開発等を行った又は行う予定があることの確認)について、「政府から輸出者に対して、特定の通常兵器の開発等を行った懸念のある需要者の情報を提供すべきである」としています。そして、その政府からの提供方法については、「米国のような公表・周知型や、英国や韓国のような非公表・個別提供型、又はその組み合わせとすべきとの指摘があった。」とのことであり、未だ複数の方法が検討されています。仮に、大量破壊兵器キャッチオールと類似の方法が取られるのであれば、外国ユーザーリストと類似の方法で通常兵器に係る懸念需要者リストが提供されること(米国と類似する公表・周知型)になると思われます。
③ 懸念の高い取引の判断基準の明確化(取引条件・態様に係る Red Flags の作成)
中間報告では懸念の高い取引の確認の結果として、需要者が通常兵器の開発等を行った又は行う予定があることが判明した場合でも、輸出者において、当該取引に係る輸出貨物又は提供技術が「通常兵器の開発等に『用いられる』おそれがあると判断した場合に限り、許可申請の対象とすべきである」として、その判断基準として懸念取引 Red Flagsを作成・公表すべきとされています。
この点、大量破壊兵器キャッチオールでは、需要者要件に該当した場合には、当該取引に係る輸出貨物又は提供技術が懸念用途以外のために用いられることが明らかなときは、規制対象とならないとされており(※4)、この「明らかなとき」という例外を判断するためのガイドラインとして、いわゆる明らかガイドラインが公表されています(※5)。
仮に通常兵器キャッチオールでもこれと同様の枠組みが導入される場合、需要者が通常兵器の開発等を行った又は行う予定があることが判明した場合には原則として許可が必要となり、Red Flagsは、許可が不要となる例外(当該取引に係る輸出貨物又は提供技術が懸念用途以外のために用いられることが明らかなとき)を判断するための基準として位置付けられる可能性があります。
※4 輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令2号かっこ書き及び3号かっこ書き等
※5 大量破壊兵器等及び通常兵器に係る補完的輸出規制に関する輸出手続等について(輸出注意事項24第24号・平成24・03・23貿局第1号 (H24.4.2))1.(6)
④ 対象国との関係を踏まえた合理化
中間報告では、「輸出者の適切な輸出管理を前提として、国際輸出管理レジーム非参加国も含めて、同盟国・同志国の場合、一定の手続の合理化を検討すべきである。」としています。具体的な方策については言及されていませんが、例えば、輸出管理内部規程(CP)の届出・輸出者等概要・自己管理チェックリスト(CL)の提出制度などと関連付けた形となることも想定されます。
(3)具体的な施策―グループ A 国を経由した迂回に対する措置―
中間報告では、「最終手段」としつつ、「グループ A 国を経由した迂回調達の懸念情報を得た場合には、インフォームを行うことが出来る仕組みを導入すべきである。」としています。具体的な方策については言及されていませんが、例として、以下のようなものが考えられ、これらの双方を組み合わせる可能性も考えられます。
(ア)グループA国向けのインフォーム要件とする方法(非公表・個別提供型)
中間報告においては「懸念情報」の範囲が大量破壊兵器に関する懸念であるか、通常兵器に関する懸念であるかについて明示的に言及されていないですが、「我が国のWMD及び通常兵器に関する補完的輸出規制において、グループA国は輸出管理を適切に行っていると考えられることから適用除外としているが」と前置きしていることからも、大量破壊兵器キャッチオールと通常兵器キャッチオールの双方で、グループA国向けのインフォーム要件の導入が検討されているようにも理解できます。
(イ)個別に輸出や役務提供規制の対象として告示等で指定する方法(公表・周知型)
中間報告の脚注6にて、2023年12月に、ロシア制裁の一環として導入された第三国の軍事関連団体への輸出禁止措置について言及されているところ、当該措置では、ロシア及びベラルーシ以外の国(アラブ首長国連邦、アルメニア、シリア、ウズベキスタン、中華人民共和国、インド、カザフスタン)に所在する企業であっても、一定の懸念活動に関与する者として告示で指定された特定団体について、資産凍結措置や輸出・技術提供制限措置の対象とされました(※6)。したがって、グループ A 国を経由した迂回に対する措置についても同様に、グループA国に所在する企業等を個別に輸出・技術提供制限の対象として指定する枠組みの創設が検討されていることも考えられます(※7)。
※6 輸出貿易管理令2条1項第1号の8、別表第二の四、外国為替令18条3項、平成22年経済産業省告示第93号2号の6、令和5年外務省告示第445号、447号等。なお、中華人民共和国、インド、カザフスタンの団体等は、令和6年6月21日公布の令和5年外務省告示第447号の改正及び令和6年6月26日公布の輸出貿易管理令改正により追加された。
※7 例えば、米国のEntity Listでは、米国当局が懸念を認めた企業の日本法人など、日本に所在する日本法人が指定されているケースもある。
技術管理強化のための官民対話スキームの構築
(1) 問題意識
中間報告によれば、昨今、様々な企業がそのビジネス活動の中で、技術流出リスクに直面し、その流出経路も技術移転、買収、人材の流出、営業秘密の不正取得など多岐にわたっていることが問題視されていることから、外為法上の技術管理精度の見直しの必要性がある旨言及されています。特に近年、軍事技術と民生技術との垣根が消失する中においては、時間の経過と共に当初は想定していない軍事転用の懸念があり、このような時間経過を見据えた新たな技術管理強化のための措置が必要であるとされています(中間報告・8-9頁)。
そこで、中間報告では、技術流出リスクの高い技術・行為を特定した上、当該特定技術を取り扱う企業に対し、政府に対する外為法に基づく事前報告を義務付けることで、官民対話による技術管理の端緒となるようなスキーム構築が提案されています(下記(2)ウ・図4参照。)。
(2)具体的な方策-官民対話スキームの構築-
ア キャッチオール規制による管理強化
技術管理強化の法枠組みとしては、既存のキャッチオール制度の枠組みの中で講じられるべきであり、それがワッセナーアレンジメント合意に基づく国際ルールにも整合的であるとされています。もっとも、既存の技術提供に関するキャッチオール規定(貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条第2項第7号)は、貨物の輸出に関するキャッチオール規定(輸出貿易管理令第4条第1項第3号)と同様の条文となっていることから、新たに技術提供に限った規定を設けることにより、今回の技術管理強化を図ることが適切とされています(中間報告・9頁)。
イ 厳にリスクの高い取引の特定
産業界の負担や審査リソースの分散の観点から、技術の種類と取引行為類型の両面から技術管理強化の対象となるものを絞り込むことが有効的であるとされています(中間報告・9頁)。
技術の種類については、他国からターゲットとされる可能性が高いもの、すなわち自国が世界の中で不可欠性や優位性のある技術の取引について、時間的経過に伴う軍事転用懸念を自覚し、厳格な管理を行う必要があります。
一方で、取引の行為類型については、現地子会社・合弁会社への製造移転、他国企業への製造委託・ライセンス供与など、技術流出リスクの高い他国での製造や製品開発を可能とする行為を対象とすべきとされています。また、産業界の日常的なビジネス活動を阻害しないようにも配慮が必要とされ、直接的な技術指導を伴わないライセンス供与は対象外とし、イノベーションを阻害しないよう共同研究の全てを規制対象とすることがないよう配慮が必要であるとされています(中間報告・10頁)。
ウ 官民対話の重視
管理スキームとしては、既存のキャッチオール規制に基づき行うものとしつつ、規制対象となる取引に関し、直ちに許可申請を求めるものではなく、下記図4に示すように段階的なステップを設けることが提案されています。
具体的には、
ⅰ)企業から経済産業省に対する事前の通知・報告を求め、
ⅱ)経済産業省から企業への懸念情報共有や助言等を含む対話やコンサルテーションを強化し、
ⅲ)技術流出懸念が払拭されない場合に、インフォームにより許可申請を求める
といった対応が図られるべきとされています。
※出典:中間報告p.10-図4
ⅰ)の事前報告は、公平性の観点から、外為法第55条の8に基づく報告の対象とする方法が考えられるとされています。その場合、当該規定は、主務大臣(※8)により「報告を求めることができる」とし、その報告徴求権を認める建付けになっているため(※9)、もし仮にこのような報告の徴求がない場合にも、事前報告を義務付けることを想定しているのであれば、その場合にも当該規定が根拠規定となり得るのか、対内直接投資の場合の事後報告と同様に別途「命令」を出すことが想定されているのか(※10)、また根拠となる場合には当該規定がどのように解釈されるべきか等について今後検討される必要があるように思われます。
また、当該事前報告が法令により義務付けられる以上、少なくとも下位規範等によって報告要件の明確化が必要になることが指摘されています(中間報告・11頁)。この点、同法第55条の8は「政令で定めるところにより」報告徴求権を認めるとしており、当該政令に該当する外為令第18条の8では報告を求める際、対象者に対する「通知」をし(※11)、「報告を求める事項」を指定することが求められており、例えば当該政令の運用により要件の明確化が図られることが考えられます。ⅱ)については、取引先の企業や地域に関する懸念情報、他企業の取組、各国の政策動向など、政府からの情報提供を前提とすべきであるとされています。したがって、事業者側にとっては懸念取引先の情報など有益な情報を得ることができる可能性があります。一方で、中間報告の中では、政府が提供する情報に経済安全保障上機微なものが含まれる場合には、国会審議中であるセキュリティ・クリアランス制度の活用も含めた情報管理を行う必要性にも言及されているところ、政府との情報共有・対話に備えて、今後、事業者としては当該クリアランス取得を視野に含める必要もあると思われます。ⅲ)については、ⅱ)による官民対話の中で外為法に基づく許可条件を付することが有効であるとの結論に達した場合、許可申請を求めるインフォームがなされる場合があります。この点、中間報告では、インフォームの活用は、「真に必要な場合」に限るべきであり、可能な限りⅱ)の官民対話を通じた信頼関係の下での解決を目指すことが望ましいとされます(中間報告・11頁)。もっとも、この「真に必要な場合」という場合が具体的にどのような場合を指すのかについては言及されておらず、今後の検討課題であろうと思われます。今回の技術管理強化の趣旨が「時間の経過に伴う軍事転用懸念」の払拭にあるところ、そのような時的要素を踏まえたインフォームの活用がいかなる場面でなされるべきかについては、引き続き、議論が必要と思われます。
また、ⅰ)の事前報告を、外為法第55条の8に基づく報告とする場合、ⅲ)のインフォームを発出するための審査期間をどのように確保するかについては、実務的な関心が高いと考えられ、外為法第55条の8によって実行までの待機期間を義務として課すことができるかについては、引き続き検討が必要です。
他にも、事業者から見たときに、明確なクリアランスが得られるような制度が望まれます。
さらに、外為法第55条の8の報告を懈怠した場合の罰則は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金であり、無許可輸出の場合と大きな開きがありますが、実効性が確保されるバランスも必要となります。
※8 貿易管理の場合は、経済産業大臣を指す。
※9 当該命令違反により報告しなかった場合や虚偽報告の場合には罰金等が科される可能性がある(外為法第71条第9号)。
※10 対内直接投資の場合には、同じく外為法55条の8を根拠に、対内直接投資等に関する命令6条の5、同7条1項を通じ、報告対象取引から45日以内の事後報告が求められている。
※11 報告対象者の住所等が不明な場合には「告示」による(貿易外省令第10条4項)。
機動的・実効的な輸出管理のための重層的な国際連携
中間報告では、急速な技術革新により、新興技術から生じうる安全保障上の影響について国家間で共通認識に至ることが難しくなっていること等の理由から、規制対象とすべき品目を管理対象として追加するまでに時間がかかる状況が生じていること、他方、国際輸出管理レジームから離れて各国が独自措置や域外適用を多用する状況となれば、輸出管理の実効性が確保できないこと、国際輸出管理レジーム非参加国が新興技術に関する技術力を向上させている中、国際輸出管理レジーム参加国のみで輸出管理を行っても、輸出管理の実効性は十分でないことが指摘されています。この課題に対処するため、以下の4つのアプローチに取り組むべきとされています。
- 国際輸出管理レジームにおいて政治的動機等何らかの理由でコンセンサスに至らない場合でも、多くの国が管理の必要性に関して一致している品目等の一定の条件を満たす場合には先行的に輸出管理(先行管理)を開始する。
- 国際輸出管理レジームにおいて多くの国が管理の必要性について一致するまでに時間がかかる新興技術等に関して、安全保障上の懸念の高さと緊急性に鑑みて早急に輸出管理の必要が生じた場合には、懸念を共有し、同様な技術を保有する国との間で、先行管理を開始することで、上記①よりもさらに機動的に管理を行う。
- 国際的な輸出管理レジームにおいて具体的な輸出審査が基本的に各国の裁量に委ねられていることから生じる輸出管理の潜在的な抜け穴の問題について、技術を保有し、認識を共有する同盟国・同志国との間で、審査運用を強調する取組を行う。
- 国際輸出管理レジームの非参加国(特に、シンガポール、マレーシア及びフィリピン)と輸出管理当局間の協議・対話等を通じて、輸出管理の協調等を図っていく。
安全保障上の懸念度に応じた制度・運用の合理化・重点化
中間報告では、メリハリのある運用、厳格な管理を行う企業等へのインセンティブ等の観点から以下の分野において、一定程度合理化できると考えられると提言されています。
- 半導体製造に用いられる一部の部品
軍事転用の懸念が低く、審査実績が積み上がってきている半導体製造用の圧力計やクロスフローろ過装置の部分品を、一定の条件の下、国際輸出管理レジームに参加していない国を含め、特別一般包括許可の対象とする。 - 工作機械
中古の工作機械を輸出する場合は、製造した企業と輸出者が異なることから、適切な輸出管理がなされない事例が散見されるため、中古の工作機械の輸出者に対し、厳格管理に向けた取組を強化する。
日本企業が製造拠点としてインド及びASEAN諸国に進出していることや日本とインドや一部のASEAN諸国との関係が変化していることを踏まえ、インドや一部のASEAN諸国向けの工作機械の輸出については、当該工作機械に移設検知装置が搭載され、輸出者が適切な管理をしていることが確認できる場合には、特別一般包括許可の対象とする。
日本の工作機械の技術を海外に移転し製造を行う場合については、出資資本比率や販売先の厳格管理を許可条件とし、さらに移設検知装置を搭載して販売することを促す。 - 防衛装備を含む武器関連
同志国軍による防衛装備の持ち帰り、防衛装備の修理を目的とした調達先への返送、エアバック用の火薬類等の民生用途の輸出令別表第一の第1項(※12)に掲げる貨物等について、手続を簡素化する。
※12 正式名称は、輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号) - 外為法の遵守状況の調査
立入検査は、内部管理体制や保有する技術、輸出実績を踏まえ、高いリスクが想定される輸出者に重点を置いて実施し、懸念が低い輸出者の負担軽減を図る。
上記の提言においては、移設検知装置の搭載の重要性が繰り返し述べられていることが注目に値します。移設検知装置の搭載により目的外使用を阻止することで、効果的かつ効率的な輸出管理の運用が期待できます。他方、工作機械の技術を海外に移転し製造を行う場合について、出資資本比率が許可の基準の一つとして挙げられていますが、企業の支配関係は出資資本比率のみで判断できるものではなく、実効性のある輸出管理制度とするためには、他の支配関係の要素も許可基準として考慮する必要があると思われます。また、販売先の厳格管理についても許可条件の一つとして挙げられていますが、これは実質的には米国の輸出管理制度(EAR)における再輸出規制と同様の規制を導入することになるのではないかと考えられます。
その他の制度や運用の見直し
上記の他、国内外の関係者に対する一層の透明性の確保、インテリジェンス能力の向上と外部人材の活用が提言されています。
中長期的な検討課題
中間報告では、最後に、中長期的な検討課題として、従来型の不拡散型輸出管理の枠組みの実効性について、虚心坦懐に検討し、必要に応じた抜本的な見直しを検討すべきこと、諸外国の規制動向も注視しつつ、国際環境等に即した新たな貿易管理の在り方も検討すべきこと、具体的には現行の「みなし輸出」を超えた人を通じた技術流出への対策をはじめとした新たな技術管理の取組の必要性、法体系の複雑性の解消(わかりやすさ)の追求が指摘されています。
本記事は、一般的な情報提供を目的としており法的アドバイスを含みません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。 また、本記事内で示されている見解は、執筆者らの個人的見解であり、当事務所の見解ではありません。 |