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海業の推進に向けて~漁港施設等活用事業の推進に関する計画の第1号案件の策定~
2025.01.31
はじめに
令和4年3月に閣議決定された水産基本計画及び漁港漁場整備長期計画を踏まえ、漁業の根拠地である漁港について、その有する価値や魅力を活かし、「漁業」以外の産業である「海業」を推進し、水産物消費の増進や交流人口の拡大を図るとともに、漁港において陸上養殖の展開等の漁港機能の強化を図るため、漁港漁場整備法(以下「漁港法」といいます。)及び水産業協同組合法の一部改正が行われ、令和5年5月26日に公布され、令和6年4月1日から施行されています。
水産庁や漁港管理者(地方公共団体)が中心となって、改正後の漁港法で創設された「漁港施設等活用事業」の実施に向けた準備が進められていたところ、令和7年1月10日付で、全国に先駆けて第1号となる「漁港施設等活用事業の推進に関する計画」が、福岡県糸島市において策定されました(※1・※2)。
(※1)漁港を海業に活用するための計画(第1号)について
https://www.jfa.maff.go.jp/j/press/keikaku/250110.html
(※2)活⽤推進計画(加布⾥漁港)の概要
https://www.jfa.maff.go.jp/j/press/keikaku/pdf/240110_itoshimakeikakugaiyou.pdf
今回は、改正後の漁港法で創設された「漁港施設等活用事業」について、福岡県糸島市の加布里漁港に係る「漁港施設等活用事業の推進に関する計画」(以下「本推進計画」といいます。)(※3)を参照しつつ、令和6年4月付で公表された漁港施設等活用事業の推進に関する手引き(案)(以下「手引き」といいます。)も踏まえ、解説いたします(※4)。
(※3)漁港施設等活用事業の推進に関する計画(活用推進計画)
https://www.city.itoshima.lg.jp/s025/040/010/010/kafuririyoukeikaku/kafurisuisinkeikaku.pdf
(※4)漁港施設等活用事業の推進に関する手引き(案)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_hourei/attach/pdf/index-28.pdf
漁港施設等活用事業について(貸付け制度を中心に)
(1)漁港施設等活用事業の効果
「漁港施設等活用事業」は、漁業根拠地としての漁港の漁業上の利用の確保に配慮しつつ、漁港施設又は漁港の区域内の水域若しくは公共空地の活用を図り、水産物の消費増進や交流促進等の取組を計画的に推進し、当該漁港に係る水産業の発展及び水産物の安定供給に寄与する事業として作られた制度です(漁港法第4条の2)。
手引きにおいては、漁港施設等活用事業の制度を活用する効果として、以下の3つが記載されています(引用:手引き1頁目)。
① | 行政財産等の活用のルール化 | |
行政財産である漁港施設や漁港の区域内の水域等の活用に関する調整方法や手続、考え方が法定化されたことにより、これまでの一時的な目的外使用を限定的・例外的に認めていた状況から、漁港の機能の充実に向けて、計画的にその活用を図ることが可能となる。 | ||
② | 事業者の参入機会の創出 | |
これまで、一時的・例外的な活用しか認められなかった漁港に対して、漁港管理者の定める計画の情報を得ることで、事業参入の機会とすることが可能となり、海業を推進するための事業者の確保が期待される。 | ||
③ | 事業者の長期・安定的な事業環境の整備 | |
行政財産である漁港施設の貸付け(最大30年間)、水域の長期占用許可(最大30年間)、物権的権利(漁港水面施設運営権)の設定(最大10年間(更新可)。第三者への対抗が可能で、抵当権の設定も可能)、公共空地の長期占用(最大30年間)を行うことが可能となり、長期・安定的な事業環境が整備されることから、海業を推進するための事業者の確保が期待される。 |
本推進計画においては、上記③のうち、「行政財産である漁港施設の貸付け(最大30年間)」を利用することが想定されています(本推進計画7頁目ご参照)。
(2)漁港施設等活用事業の実施プロセス
漁港施設等活用事業の実施までの手続のプロセスは、概要以下のとおりです。
① | 漁港管理者による「漁港施設等活用事業の推進に関する計画」(以下「活用推進計画」という。)の策定(漁港法第41条) |
活用推進計画は、漁港施設等活用事業を実施する目的や求められる事業の概要、漁港施設等の活用を図る区域等を定めたマスタープランであり、福岡県糸島市において策定されたものがこれに該当いたします。 |
② | 活用推進計画に沿って漁港施設等活用事業を実施しようとする者による「実施計画」の作成及び漁港管理者への申請(漁港法第42条)。 |
実施計画は、民間事業者等により、具体の事業の内容や活用事業施設の内容等を定めた事業計画であり、「活用事業施設」とは、以下の施設をいいます。 |
(a) | 消費増進事業のための水産物の販売所や食堂 | |
―「消費増進事業」とは、漁港において生産、水揚げ又は集荷される水産物の販売や当該水産物を材料とする料理の提供の他、当該水産物の販売のための商品開発や製造、プロモーションなどが想定されています。 | ||
(b) | 交流促進事業のための遊漁施設や漁業体験施設、海洋学習施設等 | |
―「交流促進事業」とは、遊漁、漁業体験活動又は海洋環境に関する体験活動若しくは学習の機会の提供を行う事業の他、プレジャーボートの受け入れに関する事業が想定されています。 | ||
(c) | 附帯事業のための交通施設や宿泊施設等 | |
―「附帯事業」とは、来訪する漁港利用者の利便性を向上させるための事業が対象となり、具体的には、案内施設、休憩施設、宿泊施設、飲食等の提供施設、売店、交通施設等の運営が想定されています。 |
上記各事業をまとめると、下表のとおりとなります(引用:手引き31頁目)。 |
消費増進事業 |
水産物の販売事業 |
水産物の料理の提供を行う事業 |
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その他水産物の消費の増進に資する事業 |
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交流促進事業 |
遊漁の機会の提供 |
漁業体験活動の機会の提供 |
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海洋環境体験・学習の機会の提供 |
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プレジャーボート受入事業 |
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その他交流の促進に資する事業 |
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附帯事業 |
案内施設の運営等 |
休憩施設の運営等 |
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飲食提供施設運営等 |
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交通施設の運営等 |
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宿泊施設の運営等 |
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売店の運営等 |
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その他漁港利用者の利便の向上に資する施設の運営等 |
本推進計画においては、「加布里漁港で水揚げされる水産物(牡蠣やハマグリ等)について、当該漁港で水揚げする漁業者全般の水産物を取扱い、飲食の提供及び販売を行う事業」が、漁港施設等活用事業として求められる事業内容として記載されており(本推進計画1頁目ご参照。上記「消費増進事業」に該当します。)、
福岡県糸島市においては、今後、本推進計画を踏まえて、民間事業者等によって、実施計画の策定が進められることが期待されます。
③ | 漁港管理者による実施計画の認定(漁港法第43条) |
漁港法第43条第1項に定める実施計画の認定の要件は、以下のとおりです。 |
一 当該実施計画の内容が当該漁港の活用推進計画に適合するものであること。 二 当該実施計画の内容が当該漁港の漁業上の利用を阻害するおそれがないものであること。 三 前号に掲げるもののほか、当該実施計画の内容が特定漁港漁場整備事業の施行又は当該漁港の利用を著しく阻害し、その他当該漁港の保全に著しく支障を与えるおそれがないものであること。 四 当該実施計画が適正かつ確実に実施されると見込まれるものであること。 |
(3)漁港施設等活用事業における貸付けと占用許可(漁港管理条例)との比較
民間事業者等は、実施計画の認定を受けることで、行政財産である漁港施設の貸付け(漁港法第44条)を受けることが可能となります。
この点、漁港施設の活用に当たっては、従前の漁港管理条例に基づく占用許可制度を利用することも考えられますが、占用許可ではなく、漁港施設等活用事業を利用することのメリットとしては、占有に係る法的安定性が、法的性質と期間の両面から確保されることにあるといえます。
占用許可は、行政の権限に基づく処分であって、許可及び取消しは漁港管理者の裁量に委ねられており、貸付けによる場合と異なり、民法上の賃借権等のような私権としての性格を有するものではなく、土地及び建物について、借地借家法の適用が除外され、第三者への対抗力等賃借人としての地位の保護は受けられません。また、許可期間については、原則10年間以内で運用されており(模範漁港管理規程例第10条第3項(※5))、貸付けと比較すると期間も限定されます。
このように、占用許可による場合には、漁港施設等活用事業における貸付け制度と比較すると、漁港施設を占有する地位は、相対的に不安定と考えられます。
(※5)模範漁港管理規程例
https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_thema/attach/pdf/sub60-19.pdf
おわりに
水産庁や各地方公共団体において、漁港施設等活用事業の活用に向けた取り組みが検討、展開されている状況にあります。
漁港施設等活用事業が実施されるまでには、活用推進計画の策定に始まり、民間事業者等による実施計画の策定とその認定のプロセスが必要になるため、まだ将来の話ではありますが、福岡県糸島市の加布里漁港以外の漁港も含め、今後の動きに注目が集まっています。次回は、漁港施設等活用事業における「漁港水面施設運営権等」について、解説することを予定しています。