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海業の推進に向けて~漁港水面施設運営権の創設~
2025.02.25
漁港水面施設運営権の基本的な性格
漁港水面施設運営権とは、漁港の区域内の一定の水域における水面固有の資源を利用する漁港施設等活用事業を実施するために、当該水面の占用をして必要な施設を設置し、運営する権利(漁港及び漁場の整備等に関する法律(以下「漁港法」といいます。)第4条の3)であり、その性質は、物権とみなされ(漁港法第53条)、一般承継、譲渡、滞納処分、強制執行、仮差押え、仮処分、抵当権の目的とすることが可能(漁港法第54条)な財産的な価値を有する権利とされています。
これまでは、水域の活用を行う場合には、行政処分による許可によっていたところ、水域の活用を行う地位や権利が不安定であり、長期安定的な事業環境が十分に保障できないことから、第三者への対抗要件を有して排他独占的に水域を占用して活用できる物権的権利として令和6年に漁港水面施設運営権が創設されました。
事業者は、金融機関からの借入れに際して、漁港水面施設運営権に抵当権を設定することが可能となったため、事業の実施のための初期投資に要する資金を円滑に確保する一助となることが期待されます。
以下、漁港水面施設運営権の概要について、令和6年4月付で公表された漁港施設等活用事業の推進に関する手引き(案)(※1)及び令和6年10月付で公表された漁港水面施設運営権に係る登録申請の手引き(※2)(以下「登録手引き」といいます。)も踏まえ、説明いたします。
(※1)漁港施設等活用事業の推進に関する手引き(案)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_hourei/attach/pdf/index-28.pdf
(※2)漁港水面施設運営権に係る登録申請の手引き
https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_hourei/241004_gyokousuimenshisetuuneiken_tebikir6.pdf
漁港水面施設運営権の手続等
(1) 漁港水面施設運営権の設定
漁港水面施設運営権の設定を受けるためには、前回ご説明した漁港施設等活用事業の認定を受ける必要があります。
まず、漁港管理者が漁港水面施設運営権の設定をしようとする場合には、当該漁港管理者による「漁港施設等活用事業の推進に関する計画」(以下「活用推進計画」といいます。)において、以下の事項が記載されます(漁港法第49条第1項各号)。
- 認定計画実施者に漁港水面施設運営権を設定する旨
- 漁港水面施設運営権の水域
- 漁港水面施設運営権に係る漁港施設等活用事業の実施期間が満了した場合その他の事由により2の水域を用いないこととなった場合における当該水域を原状に回復するための措置に関する事項
次に、漁港水面施設運営権の設定を受けようとする事業者は、活用推進計画において定められた範囲内で、以下の事項を漁港施設等活用事業の実施に関する計画(以下「実施計画」といいます。)に定め、漁港管理者に認定の申請をする必要があります(漁港法第50条第1項各号)。
- 設定を受けようとする漁港水面施設運営権に係る漁港施設等活用事業の内容及びその実施期間
- 設定を受けようとする漁港水面施設運営権の水域
- 設定を受けようとする漁港水面施設運営権の存続期間
- 2に掲げる水域において活用事業施設(漁港施設等活用事業により施設の設置を行う場合における当該施設を意味します。以下同じです。)を設置しようとする場合にあっては、当該活用事業施設の種類及び規模その他の当該活用事業施設の設置に関する事項
- 3に掲げる存続期間が満了した場合その他の事由により水域において漁港水面施設運営権の設定を受けないこととなった場合における活用事業施設の撤去の方法その他の当該水域を原状に回復するための措置の内容
- 1の漁港水面施設運営権に係る漁港施設等活用事業に関する資金計画及び収支計画
なお、上記1の「漁港水面施設運営権に係る漁港施設等活用事業の内容」としては、遊漁、漁業体験活動又は海洋環境に関する体験活動若しくは学習の機会の提供を行う事業に限定されていることには、留意が必要となります(漁港法第4条の3)。
実施計画の認定を受けた事業者(以下「認定計画実施者」といい、認定を受けた実施計画を「認定計画」といいます。)は、別途、漁港管理者から漁港水面施設運営権の設定に係る通知を受けた時点で、漁港水面施設運営権者として漁港水面施設運営権に係る漁港施設等活用事業の実施が可能となります。
(2) 漁港水面施設運営権の留意点
(a) 漁港水面施設運営権の対価
漁港水面施設運営権者は、漁港管理者に対して漁港水面施設運営権の対価として占用料を納付する必要があります。
漁港水面施設運営権に係る占用料、納付方法及び納付期限については、漁港管理者から発出される漁港水面施設運営権の設定に係る通知の中で示されます。
(b) 漁港水面施設運営権の処分の制限等
漁港水面施設運営権は、分割又は併合することができませんが、漁港水面施設運営権者の相続や法人の合併・分割等の一般承継、譲渡、滞納処分による差押え等により、漁港水面施設運営権の移転をすることは可能とされています。
ただし、いずれの漁港水面施設運営権の移転に際しても、漁港管理者の許可が必要となります。
また、不測の事態等により、やむを得ず漁港水面施設運営権を放棄する場合は、漁港管理者の定める手続に従い、漁港水面施設運営権を放棄する旨を漁港管理者に届け出る必要があります。
(c) 漁港水面施設運営権の存続期間
漁港水面施設運営権の存続期間は最大10年間であり、例えば、30年間の漁港施設等活用事業を実施しようとする場合には、漁港水面施設運営権について、少なくとも2回の更新を行う必要が生じることとなります。
漁港水面施設運営権の存続期間の更新は、漁港水面施設運営権者が漁港管理者に申請し、漁港管理者による審査(漁港法第57条第3項)においてその更新が適切なものと認められれば、漁港管理者より漁港水面施設運営権の存続期間の更新に係る通知が発出されます。
更新に係る漁港管理者による審査が具体的にどのように行われるか次第ではありますが、実務上は、漁港水面施設運営権の更新リスクがある点、留意が必要であると考えられます。
この点、長期に亘る水域の利用方法としては、原則10年以内で運用されている占用許可(漁港法第39条第1項)のほか、認定計画に従った最大30年の期間の範囲内での占用許可(漁港法第39条第1項ただし書)を用いることも考えられます。
もっとも、占用許可の場合には、漁港水面施設運営権と比較すると、物件的権利としての性質を有するものではないため、第三者からの妨害に対して、事業者自らが権利を直接主張することはできない、担保設定ができない等の違いがあり、これらの点を踏まえ、水域の利用方法を選択することになると考えられます。
(d) 漁港水面施設運営権に係る登録
漁港水面施設運営権者として第三者への対抗要件を具備するためには、漁港水面施設運営権登録簿に登録する手続を実施する必要があります。
登録手続の詳細については、登録手引きの第2章をご参照ください。
(e) 漁港水面施設運営権の取消し等
漁港水面施設運営権の設定を受けて行われる漁港施設等活用事業に係る実施計画の認定が漁港管理者により取り消された場合は、当該漁港水面施設運営権についても取り消されます(漁港法第59条第1項)。
また、偽りその他不正の方法による漁港水面施設運営権の取得が判明した場合や、漁港水面施設運営権の欠格事由に該当することとなった場合においても、漁港管理者によって漁港水面施設運営権を取り消され、又はその行使の停止を命ぜられる場合があります(漁港法第59条第2項第1号)。
そのほか、漁港の区域内の水域を他の公共の用に供することその他の理由に基づく公益上やむを得ない必要が生じた場合、漁港水面施設運営権を取り消され、又は行使の停止を命ぜられる場合があります(漁港法第59条第2項第2号)。
これは、例えば自然災害の発生など予見しがたい事象により、他地域との交通の確保や物資の輸送といった地域の生活の維持に関わる用途に漁港水面施設運営権の水域を供する必要が生じた場合等が想定されています。なお、公益上の理由による漁港水面施設運営権の取消しや行使の停止によって損失を受けた漁港水面施設運営権者は、漁港管理者により、通常生ずべき損失が補償されます(漁港法第60条)。
おわりに
前回ご紹介した活用推進計画の第1号案件である福岡県糸島市の加布里漁港については、漁港水面施設運営権の設定は予定されていないところ、今後、漁港水面施設運営権を含んだ活用推進計画の策定の動きが進んでいくか注視していく必要があります。
次回は、海業の推進という広い観点から、「漁港」という範囲を超えて、港湾における官民連携による地域活性を図る制度である「みなと緑地PPP(港湾環境整備計画制度)」について、解説することを予定しています。