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スタートアップ投資と会社法 -コンバーティブルデットと各種規制の関係-
2025.06.03
はじめに
このシリーズでは、スタートアップ投資に関連する様々なトピックについて、日本の会社法との関係を分析することを試みています。内容については、執筆者の個人的見解であり、当事務所の見解ではありませんのでご留意ください。
本ブログでは、コンバーティブルデットを活用する際に検討が必要な各種法規制ついて、分析してみたいと思います。
コンバーティブルデットとは
コンバーティブルデット(CB)とは、将来的に株式に転換することができる金融商品(Convertible Securities)のうち、デット(負債)の性質を有するものを指します。コンバーティブルエクイティと異なり、満期や償還義務が存在します。
日本でCBを活用する場合は、CB型の「新株予約権付社債」として設計されるのが通常です。
スタートアップがCB型の新株予約権付社債を発行する場合には、検討すべき法規制が複数存在しますので、注意が必要です。
会社法との関係(1) 現物出資規制
CB型の新株予約権付社債においては、株式への転換の際、社債に付された新株予約権を行使して株式を取得することになります。そして、この行使に当たっては、新たに金銭が出資されるのではなく、出資財産として社債権が現物出資され、結果として、社債の償還義務がなくなる代わりに株式が発行されることになります。
会社法上、現物出資を行うためには、原則として裁判所の関与のもとで検査役による価額の調査が必要となります(会社法284条1項)。しかし、このプロセスには費用や時間を要するため、CBの転換の際にこの対応を行うことは一般的ではありません。
この点、新株予約権1個単位で見たときに、①転換される株式の数が転換直前の発行済株式総数の10%以下となる場合、②社債金額が500万円を超えない場合、③弁済期を迎えた社債について帳簿価額(額面)以下での出資になる場合には、例外的に、上記の検査役による価額調査のプロセスを免れることができます(会社法284条9項1号、2号、5号)。
CB型の新株予約権付社債においては、実際に転換するまで転換後の株式の具体的な数が確定できないことも多く、①の例外を活用しにくいケースもあります。また、CB型の新株予約権付社債は、利息を定めた上で、株式に転換する場合には利息分も含めて転換計算をすることが多いところ、この利息分も現物出資されることとの関係で③の例外を活用できるか、論点があります。
①や③の例外を活用しにくい場合には、社債1本当たりの調達金額を500万円以下にして、②の例外を活用できるように設計する例が多いと思われます。
会社法との関係(2) 社債規制
会社法上、社債を発行した会社は、原則として「社債管理者」を設置する義務を負います(会社法702条)。
もっとも、社債管理者の資格は銀行や信託会社等に限られているところ(会社法703条)、特に初期のスタートアップがこれらの事業者に社債管理者の業務を委託することは一般的ではありません。
この点、(a)それぞれの社債の金額が1億円を超える場合や、(b)ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50未満の場合は、例外的に、上記の社債管理者の設置義務を免れることができます(会社法702条但書、会社法施行規則69条)。
ここで、前述の現物出資規制との関係で、②の例外を活用するために社債1本当たりの調達金額を500万円以下にした場合、上記社債法規制との関係で、(a)の例外を活用することができなくなります。
そうすると、(b)の例外を活用するため、発行できる社債の本数は50未満となり、同一の種類の社債を用いたCBによる調達金額に上限(500万円×50=2億5000万円未満)が生じることになります。
なお、社債の「種類」の同一性は、会社法676条3号から8号の2までの事項が同一であるか否かによって判断されます(会社法681条1項1号)。すなわち、社債の名称(「第1回新株予約権付社債」や「第2回新株予約権付社債」など)を区別したり、割り当てる時期を区別したとしても、依然として同一種類の社債として扱われる可能性がある点には注意が必要です。
金商法との関係 募集規制
スタートアップが社債の募集を行う場合、金融商品取引法上の有価証券届出書の提出義務を免れるため、少人数私募として取得勧誘の相手方を50名未満にすることが一般的です。
この点、前述の社債規制との関係で(b)の例外を活用する場合は、そもそも発行できる社債の本数が50未満となるため、自然と少人数私募の要件を満たすことになるケースが多いと思われます。
ただし、新株予約権付社債については、少人数私募の要件を満たすためには、転売制限や分割制限の告知等が別途必要となる点には注意する必要があります。
以上