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【危機管理・コンプライアンス】 「令和7(2025)年改正風営法の概要」 風俗営業法研究会ブログ
2025.08.19
はじめに
令和7(2025)年改正風営法が成立し、その一部は2025年6月28日から施行されています。改正のきっかけはいわゆる「悪質ホストクラブ問題」ですが、同改正の射程範囲は、ホストクラブに止まらず、広く社交飲食業や遊興性の強い営業手法を採用するカフェやバーなどにも及ぶものです。
残る改正項目も年内には施行予定ですが、こちらはパチンコ店やゲームセンターなどの営業も広く対象となり、グループ経営における親会社・兄弟会社規制にも関わる内容であるため、各社の経営戦略に影響を与える可能性があります。
また、今回改正の内容を正しく理解するためには、刑事法、消費者法や労働法はもとより、反社会的勢力の排除を含む企業危機管理などの隣接領域を視野に入れる必要があります。
本ブログでは、上記の観点から、これから数回にわたって令和7年改正風営法の概要を解説します。文字数の制約上基礎的な内容に絞らざるを得ないものの、飲食業界、ナイトレジャー、広義のエンタテイメントなどに関わる経営者や法務担当者、店舗の管理者、それらの企業に関わる行政書士など専門職の方々にとって参考になるものと思います。
なお、本ブログ記事は、TMI総合法律事務所が運営する風俗営業法研究会における議論を踏まえたものです。
法改正の背景
令和7年改正の背景には、いわゆる悪質ホストクラブ問題があります。
全国にはホストクラブが約1,100店舗ありますが、その多くは東京、大阪などの大都市の繁華街に位置しています。そのうち歌舞伎町には300店舗以上があるとされており、その意味では特定のエリアに限られた問題のように見えるかもしれません。しかし、SNSを利用した集客やスカウト行為、女性客の性風俗店へのあっせんなどは全国的に行われており、悪質ホストクラブ問題は地理的に限定されるものではありません。
この問題に対して、関係省庁ではさまざまな対策が講じられてきました。(注)
(注)各省庁の対応
・消費者庁(消費者契約法)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/other/assets/consumer_system_other_231130_0001.pdf
・厚生労働省(職業安定法)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index_00037.html
・文部科学省(学生の安心・安全)
https://www.mext.go.jp/content/httpswww.mext.go.jpcontent20240926-mxt_gakushi01-000029239_4.pdf
しかし、こうした対策だけでは問題の解決に至らなかったため、警察庁は、2024年7月、悪質ホストクラブ対策検討会を立ち上げました。同検討会の報告書は同年12月に公表されました。
(https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/hostclubto/saisyuuhoukokusyo1.pdf)
改正法の概要
改正法(令和7年法律第45号)の概要は下記の図表のとおりです。
図表の項目1~3は、2025年6月28日から既に施行されています。
項目4は同年11月28日に施行される予定であり、現在、下位法令の検討などが進められています。
ここには含まれていませんが、通達(警察庁丁保発第104号令和7年6月4日)に基づく広告宣伝規制も一体の施策として捉える必要があります。
(出典:警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律(令和7年法律第45号)概要」 https://www.npa.go.jp/laws/kaisei/houritsu.html)
各項目については、次回以降の記事に詳しく紹介することを予定していますが、ここでも若干解説します。
①遵守事項・禁止行為の追加
遵守事項は、違反した場合に行政処分の対象となるだけですが、禁止行為は、違反した場合に刑事罰が課される点に違いがあります。
【料金に関する虚偽説明】
料金について、事実に相違する説明をし、又は客を誤認させるような説明をすることを防止するものです。
入店前の説明と異なる料金を会計時に請求するなどの、いわゆる「ぼったくり」は許されません。
【客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求】
客の恋愛感情等に働きかける、いわゆる「色恋営業」を全面禁止したという理解は必ずしも正確ではありません。イ)飲食等をしなければ、関係が破綻することになる旨を告げたり、ロ)接客従業者が業務上の不利益(降格、配置転換等)を受けることを回避するためには飲食等が必要不可欠である旨を告げたりすることを防止するものです。
「もう会えなくなる」と言ってボトルを入れさせることなどは許されません。
【客が注文していない飲食等の提供】
客が注文していない遊興・飲食の提供を防止するものです。
注文前にシャンパンタワーのコールを行うことなどは問題になり得ます。
【客に注文や料金の支払等をさせる目的での威迫】
客に注文や料金の支払等をさせる目的で、威迫することを禁止するものです。
いわゆる「ツケ払い」をさせたり、ツケの回収を行ったりするときなどに、凄んだり、強く言ったりすることは、刑法上の脅迫に当たらない行為であっても許されません。
【威迫や誘惑による料金の支払い等のための売春(海外売春を含む)、性風俗店勤務、AV出店等の要求】
客に注文や料金の支払等をさせる目的で、風俗店等で稼ぐように求めることなどを禁止するものです。
威迫した場合だけではなく、「一緒に生活するには、もっと売上が必要だから」などの甘言で誘惑した場合も許されません。
②性風俗店によるスカウトバックの禁止
性風俗店を営む者がスカウトなどから求職者の紹介を受けた場合に紹介料を支払うこと、いわゆる「スカウトバック」を禁止するものです。
性風俗店に接客従業者を紹介するスカウト側の行為はこれまでも職業安定法によって禁止されていましたが、今後は、紹介を受ける性風俗店側にも規制が及ぶことになりました。
③無許可営業等に対する罰則の強化
無許可、名義貸しの風俗営業者等が厳しく処罰されるようになりました。
接客を行っているガールズバーなどは、高額の罰金が課される可能性があります。
④風俗営業からの不適格者の排除
いわゆる「処分逃れ」を防止するための規制が整備されました。
【親会社等が許可を取り消された法人(7号)】
個々の店舗を独立に法人化していた場合であっても、実質的にはグループ会社の関係にあるときには、1つの店舗営業許可の取消処分が全体に影響するという規定です。
【警察による立入調査後に許可証の返納(処分逃れ)をした者(8号、9号、10号)】
営業許可の取消処分が出る前に自主的に許可証を返納しても許されないという規定です。
【暴力的不法行為等を行うおそれがある者が、出資等により、その事業活動に支配的な影響力を有する者(13号)】
暴力団構成員等が表立って関与していなくても、実質的な経営者等である場合には許されないという規定です。
影響を受ける業種
今回改正により直接影響を受ける業種は、下表のとおりです。
以上のとおり、改正法により影響を受ける業種は、いわゆるホストクラブに限られず、多岐にわたります。
なお、③の例示は、実態として風俗営業に該当するケースがまま見られる業態の例であり、これらを名乗る店舗がすべて一律に対象になるという意味ではありません。また、類似の営業の中には、対象とならない業種も存在するので留意が必要です。
法改正事項ではありませんが、通達による広告宣伝規制の対象は、①と同じく、1号営業(接待飲食営業)です。
事業者が留意すべき事項
今回の改正により、注文や料金の支払等に関する営業活動の一部が規制対象となり、無許可営業等に対する処罰の法定刑が大幅に引き上げられ、営業許可の取消処分の効果が及ぶ範囲が拡大するなど、違反時のリスクが大きくなったといえます。
事業者としては、これに備えて、例えば、
①全社的なリスク再評価とリスク管理体制の見直し
②グループ企業を含めたガバナンスと危機管理体制の見直し
③業務マニュアル、従業員に対する研修・教育の充実
などを検討する必要があると思われます。
企業の更なる成長を目指すためには、今後の動向(下位法令の整備、運用・事例の蓄積等)にも注意しつつ、法改正に対応した経営を実現することが重要となります。
以上
なお、本ブログは、一般的な情報提供を目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスではございません。また、本ブログにおける見解は、執筆者の個人的見解であり、当事務所の見解ではございません。個別具体的な事案に関する問題や、本改正法案に関してご不明な点等ございましたら、当事務所の弁護士にご相談ください。