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【宇宙ブログ】Gateway計画とその法的枠組
2021.02.16
2021年2月10日、NASAが月周回有人拠点(Gateway)の最初の構成要素となる電力推進要素(PPE)及びミニ居住棟(HALO)の打上げサービスを提供する会社にSpace Xを選定したと発表しました[1]。これらは、同社のFalcon Heavy Rocketによって2024年5月以降に打上げられるとのことです。ニール・アームストロング船長が月面に初めて着陸してから60年あまり、人類が月に戻る日が着々と近づいていることが感じられます。打上げの日が、今から待ちきれませんね!
そこで今回は、Gateway計画とその法的枠組についてお話させていただこうと思います。
Gateway計画の概要
Gatewayは、有人火星探査を視野に入れつつ、有人による持続的な月面探査の実現を目指す計画である「アルテミス計画」の一環として建設される予定の宇宙ステーションです。Gatewayは、月軌道を周回する有人拠点として構想が進められており、月面探査や火星有人ミッション、小惑星調査ミッションといった将来予想されるミッション等のための中継基地となる予定です。Gatewayは、国際宇宙ステーションと比較すると随分と小型になる予定であり、計画されている重さは約70トンと、国際宇宙ステーション(約420トン)の5分の1以下となる予定です[2]。
このGatewayは、現在、各国の協力の下で建設が進められようとしています。具体的には、各国はGatewayの各要素(Element)を以下の通り分担することが想定されています。
・NASA(米国):電力及び推進、居住の能力、アビオニクス及び通信の基盤、物資補給、搭乗員の輸送、船外活動(EVA)システム
・CSA(カナダ):船外ロボットの能力、船外のロボティクス・インタフェース、船外ロボットの一連の運用
・ESA(欧州):居住の能力、月近傍における増強された通信、燃料補給及び観測の能力、オライオンのミッションを支援するための欧州サービス・モジュール
・ROSCOSMOS(ロシア):搭乗員エアロック
・日本国政府:居住の能力に係る基盤的機能、物資補給
日本の参画
日本も、Gatewayの建設・運用・利用で重要な役割を果たすことになります。日本は、2019年10月にアルテミス計画への参加を表明し[3]、2020年12月にはNASAとの間で「民生用月周回有人拠点のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国航空宇宙局との間の了解覚書」[4](以下「本覚書」とします。)を締結しました。本覚書は、Gatewayに関する協力について定めたものになります。日本は、本覚書に基づき、上記の要素(居住の能力に係る基盤的機能、物資補給)を提供するだけでなく、本覚書7条2項に規定される多岐にわたる責任(日本が提供する要素に係る様々な業務や一定のGatewayを超えるミッションの支援等)を果たすために合理的な努力を払うことになります。
日本としては、Gatewayの建設等を含むアルテミス計画の参加に際し、①Gatewayの建設・運用・利用及びGatewayの活用に向けた技術実証に取り組み、深宇宙探査に必要な能力を獲得すること、及び②地球低軌道向けの超小型衛星開発等で培われた大学等の技術を活用し、民間事業者等とも協働しつつ、月・月以遠での持続的な探査活動に必要な基盤技術の開発・高度化を進め、国際宇宙探査を支える基盤の強化及び裾野の拡大を図ることを目標としています(宇宙基本計画(令和2年6月30日閣議決定)[5] 20頁)。
また、Gatewayの建設等には、各国だけでなく民間事業者も重要な役割を果たすことになります。上記の通り、Space XがGatewayの最初の構成要素を打上げるほか、日本の宇宙基本計画では民間事業者等との協働が明確に記載されています。加えて、Northrop GrummanがHALOを、Maxar TechnologiesがPPEを製造するなど、民間事業者の活躍も重要になってきます[6]。
Gatewayに関する法的枠組
Gatewayの建設等に関しては、NASAがESA、CSA及び日本国政府との間で合意を締結しています[7]。このうち、今回は日本国政府とNASAの間で締結された本覚書に焦点を絞ってお話します。
本覚書は、合計24条で構成されるGatewayの詳細設計、開発、運用及び利用についての協力に関する覚書です(本覚書1条参照)。具体的には、ゲートウェイの概要や計画のマイルストーン、責任、運営、運用等様々な内容が規定されています。
この本覚書は、1998年に署名された民生用国際宇宙基地のための協力に関するカナダ政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府、ロシア連邦政府及びアメリカ合衆国政府の間の協定(以下「IGA」という。)の関連規定に基づくものです(本覚書2条2項)。このIGAは、国際宇宙ステーションにも適用されている協定であり、本覚書に基づく協力については、IGAのほとんどの条文が適用されることになります(本覚書2条2項乃至3項)。
本覚書には、民間事業者にも関わるような様々な興味深い内容が含まれております。例えば、Gatewayの利用計画においては、商業上の活動や小型衛星関連活動を含むことができると規定されており(本覚書11条2項)、将来的には国際宇宙ステーションと同様にGatewayにおいて様々な商業利用が進んでいくかもしれません。
このような商業利用について気になるのは知的財産権の取り扱いです。本覚書においては、本覚書の履行において行われた発明や創作に関する特許権や著作権については、当該発明又は創作を行った当事者又は貢献者(貢献者とは、日本国政府やNASAとの契約者又はその下請け契約者であって、本覚書の履行に関連する活動に従事する者を言います(本覚書3条2項)。)が有すると規定されています(本覚書16条2項)。そのため、例えば日本国政府と契約を締結したGateway計画に携わる民間事業者が、専ら単独で本覚書の履行において発明や創作をした場合には、当該事業者が特許権や著作権を有することになります(但し、権利や利益配分については法令や契約上の義務に従うとされています。)。一方で、NASAと契約した米国企業の下請けとして日本企業が参画するケースも多くあり得ますが、その際には米国企業との間での知的財産に関する交渉が非常に重要になります。
以上の通り、Gateway計画においては、日本や民間事業者の役割が重要になってきます。今後の日本や民間事業者の活躍も楽しみですね!
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PROFILE
弁護士 齋藤 俊