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【改正公益通報者保護法ブログ】第3回 日本郵政グループ検証報告書にみる改正法への具体的対応方法
2021.03.15
はじめに
2021年1月29日、日本郵政株式会社は、「日本郵政グループの内部通報窓口その他各種相談窓口等の仕組み及び運用状況等に係る検証報告書」(以下「本検証報告書」という。)を公表した。
日本郵政グループにおいては、内部通報者である郵便局長らが特定され、報復を受けたとされる事案が発生していたところ、同グループの内部通報窓口が適正に機能しているかにつき、外部有識者委員会に検証を依頼し、同委員会が本検証報告書を作成した。そのため、本検証報告書は、同委員会が、その検証の結果を踏まえ、改善策の提言等を行うものである。
本検証報告書では、内部通報制度の整備及び運用状況が令和2年改正法による改正後の公益通報者保護法(以下「改正法」という。)の趣旨に沿ったものとなっているかどうかに関する検証の結果も報告されている。そこで、以下では、当該検証に関する報告の概要を紹介した上で、各社において今後、改正法への対応を実施する際の参考となり得るポイントにつき解説する。
検証報告書の概要(改正法関連部分)
①通報者の範囲を拡大する必要があること(本検証報告書8頁)
日本郵政グループ各社の社内規程では、通報窓口の利用者を、期間雇用社員等を含む社員としていたものの、退職者は含めていなかった。
もっとも、改正法は、退職者及び役員による通報を保護し、その通報を促すことを目的として、これらの者を、公益通報を行うことができる主体の範囲に追加している(改正法2条1項1号、4号、注1)。そのため、本検証報告書では、今後、改正法の施行に備え、通報窓口の利用者に退職者を含める旨の社内規程の改定が必要であることが指摘されている。
(注1)具体的には、「退職者」は退職後1年以内に通報した者を、「役員」は法人の業務の執行権又は監査権が与えられている者(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法令の規定に基づき法人の経営に従事している者)を指す(中野真ほか「公益通報者保護法の一部を改正する法律の概要」NBL1177号5、6頁(2020年))。
②通報・相談に係る秘密保持の徹底を図るべきこと(本検証報告書26頁)
日本郵政グループ各社の内部通報窓口では、主に電子メール又は郵送で通報を受け付けていたところ、本検証報告書は、電子メールについて、「仮に受付専用アドレスを設けたとしても、 受付対応者における他の業務用メールと混在するリスクを排除できず、また、他の者による閲覧、操作ミスによる転送、更にはマルウエア感染による拡散のリスクも否定できない。」と指摘している。
改正法は、常時使用する労働者の数が301 人以上の事業者に対し、公益通報対応業務に従事する者の設置及び公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を義務付ける(改正法11条)とともに、通報者を特定させる情報の守秘を義務付け、この義務違反に対する刑事罰を導入する(改正法12条、21条)など、通報者の保護の強化を図っている。このため、本検証報告書は、「通報・相談等に係る情報の秘密保持を徹底するため、堅牢なセキュリティを備えることに加えて、そもそも当該情報にアクセスできる者を明確に定めた上、それ以外の者は物理的にアクセスできない仕組みを構築する必要がある。」としている。
改正法対応のポイント
本検証報告書でも指摘されているように、改正法では、通報者の範囲が拡大されている。そのため、各社において、今後改正法対応を行う際には、改正法の趣旨に即し、自社の内部通報規程における通報者の範囲を再検討し、必要に応じ、退職者や役員が通報窓口の利用者に含まれるように改定するなどの対応が必要となると思われる。
また、改正法では、内部調査等に従事する者に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付けていることなどから、今後改正法対応を実施する各社においては、「公益通報対応業務従事者」を指定した上で、セキュリティ強化、アクセス制限等の措置を講じることにより、通報・相談に係る秘密保持の徹底を図ることも重要になるものと考えられる。
なお、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」では、「通報対応の状況について、中立・公正な第三者等による検証・点検等を行い、調査・是正措置の実効性を確保することが望ましい。」とされていることからすると、本検証の実施自体、同ガイドラインの要請に沿うものとして積極的な評価に値する。本検証報告書も、「数年に1 回程度の割合で定期的に社外専門家又は監査部門等による検証・点検等を受ける仕組みを整備することが望ましい。」と指摘しているように、内部通報制度を既に運用している各社においても、今回の改正法対応に加え、専門家による制度検証の機会を定期的に確保することにより自社の内部通報制度の実効性の確保に努めることが期待される。
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以上