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障害者差別解消法の改正 (合理的配慮の提供義務)(2021年)
2021.11.01
はじめに
2021年5月、障害者への合理的配慮の提供を民間の事業者にも義務付ける、障害者差別解消法の改正法が成立しました。
※障害者差別解消法の正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」です。
今回成立した改正法のポイントは、これまで民間の事業者の「努力義務」とされていた合理的配慮の提供が、国や地方公共団体などと同様に「義務」(法的義務)とされた点です。
この改正法は、公布日である2021年6月4日から起算して3年以内に施行されます。
※追記:改正法の施行日は2024年4月1日となりました。
改正された障害者差別解消法の内容(合理的配慮の提供義務)
今回の障害者差別解消法の改正により、民間事業者は、①障害者から意思の表明があった場合に、②過重の負担にならない範囲で、③障害者の性別・年齢、障害の状態に応じて、⑤社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならないことになりました。
※改正後の条文は、以下のとおりです。
第8条第2項 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 |
(1) 合理的配慮とは
では、「合理的配慮」の提供とは、どのようなものをいうのでしょうか。
この点、障害者差別解消法には「合理的配慮」の定義はありませんが、日本が批准している障害者権利条約によれば、合理的配慮とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」をいうとされています(障害者権利条約2条)。
※障害者権利条約(正式名称:障害者の権利に関する条約)については、日本は2007年に署名し、その後、国内法の整備を経て2014年に批准しました。
より簡単な言葉でいえば、障害のある人が障害のない人と同じように行動したりサービスの提供を受けたりすることができるよう、周りの人が、過度の負担にならない範囲で、それぞれの違いに応じた対応をすることをいいます。
たとえば、内閣府が公表している合理的配慮サーチによれば、合理的配慮の具体例として、以下のようなものが挙げられていて、参考になります。
■合理的配慮サーチ(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/
合理的配慮の具体例
◆視覚障害の場合 ◆聴覚障害の場合 ◆肢体不自由の場合 ◆発達障害の場合 ◆内部障害・難病等の場合 ◆知的障害の場合 ◆精神障害の場合 |
(2) 対象となる障害者
対象となる障害者は、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」(障害者基本法2条1号)とされています。
これは、障害というものが、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」だけを理由とするものではなく、社会における様々な壁に直面することにより生じているという、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものです。
わかりやすく言えば、「心身に障害がある人=障害者」という発想ではなく、「社会に存在する障害に直面している人=障害者」という発想に立っています。
(3) 障害者からの意思の表明
障害者差別解消法では、障害者から「現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合」に合理的配慮をする必要があるとされています。
あくまでも法律上は、意思の表明があった場合に合理的配慮を提供する義務が生じることになるため、意思の表明が無い場合は義務を負わないことになります。
もっとも、障害者自身が意思の表明を行うことができない場合もあるため、障害者の家族や介助者など、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含むと考えられている点には留意が必要です。
(4) 対象となる事業者
対象となる事業者は、目的の営利・非営利は関係ありませんので、対価を得ずに無報酬で事業を行う場合や、非営利事業を行う社会福祉法人、特定非営利活動法人も対象となります。
また、個人・法人を問わないとされてますので、個人事業主も対象となります。
(5) 過重な負担
どの程度の対応をすることが、その事業者にとって過重な負担になるのかは、個別に判断せざるを得ません。
判断基準を示すことは難しいものの、具体的な考慮要素として、厚生労働大臣によるガイドラインは、以下のものを挙げています。
- 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
- 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
- 費用・負担の程度
- 事務・事業規模
- 財政・財務状況
そして、ガイドラインでは、仮に過重な負担になると判断した場合には、障害者にその理由を説明し、理解を得るよう努めることが望ましいとされています。
※障害者差別解消法福祉事業者向けガイドライン(平成27年11月厚生労働大臣決定)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000114724.pdf
※障害者差別解消法医療関係事業者向けガイドライン(平成28年1月厚生労働大臣決定)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sabetsu_kaisho/dl/iryou_guideline.pdf
(6) 合理的配慮を提供しなかった場合
障害者差別解消法の法改正により、民間の事業者は合理的配慮を提供する法的義務を負うことになりました。これに違反した場合、直ちに罰則が課されるわけではありませんが、特に必要があると認めるときは、まずは主務大臣が事業者に対して報告を求め、さらに、助言・指導・勧告を行うことができます。仮に事業者が、主務大臣の求める報告を行わず、又は虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料が課されることになります。
また、法的義務である合理的配慮の提供をしなかったというネガティブな評判が広まる可能性があり(いわゆるレピュテーションリスク)、十分気を付ける必要があります(なお、合理的配慮を受けることができなかった障害者としては、行政機関の人権相談窓口などに相談することが考えられます)。
さいごに
2021年の東京パラリンピックでは、スポーツの分野で、障害のある多くの選手が活躍していました。
しかしながら、日常生活・社会生活では、いまだに障害のある方が障害のない方と同じように行動したりサービスの提供を受けたりすることが容易ではないという現実があります。
以下の推移表のとおり、障害者数は年々増えており、内閣府の公表する令和2年版障害者白書によれば、身体障害、知的障害、精神障害の3区分について、人口1,000人あたりの人数でみると、身体障害者は34人、知的障害者は9人、精神障害者は33人となっています。
※令和2年版障害者白書(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r02hakusho/zenbun/index-pdf.html
※厚生労働省作成の平成30年版厚生労働白書(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/18/dl/all.pdf)より抜粋
複数の障害を併せ持つ場合もあるため、単純な合計にはならないものの、国民のおよそ7.6%が何らかの障害を有していることになります。
また、国際パラリンピック委員会が展開する「#WeThe15」キャンペーンにあるように、世界でみると人口の15%の人々に何らかの障害があるといわれており、社会の中で事業を行うにあたっては、障害者との関わりが生じることは当然のことになっています。
あくまでも法律上は、事業者の合理的配慮を提供する義務は、障害者からの意思の表明があった場合に限定されてはいますが、事前の準備がなければ、実際に意思の表明を受けたときに、対応に苦慮することになります。
事業者の皆様としては、まず、自己の事業の内容から、どのような場面で障害のある方が不都合を感じる可能性があるかを把握したうえで、その不都合の解消のために過重の負担とならない範囲で実施することができる対応策を、事前に検討しておくことが重要になるでしょう。
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