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【下請法ブログ】第1回 下請法の執行強化
2022.02.17
下請法(正式名称は、下請代金支払遅延等防止法)は、業種を問わず適用される法律である上に、非常にテクニカルな規定で「うっかりミス」も生じやすいことから、コンプライアンスに悩まれている事業者の方も多いと思います。そこで、TMI独禁法プラクティスグループは、下請法の最新動向やコンプライアンス上の留意点について、情報発信を行います。
第1回は、下請法の執行強化です。
「ニッポン一億総活躍プラン」から「新しい資本主義実現会議」へ
平成28年に安倍政権が「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定し、その中で下請事業者の取引条件の改善が打ち出されて以来、下請法の執行強化の動きが続いており、その流れは岸田政権の「新しい資本主義実現会議」においても引き継がれています。以下では、ここ数年の動きを概観いたします。
実態調査とフリーランスガイドラインの策定
公正取引委員会は、法執行や政策立案に資するために、取引慣行等に関する実態調査をしばしば行っています。そして、平成30年には、製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査を実施し、令和元年6月14日に、その実態調査報告書を公表しています。同報告書によれば、大手の取引先が製造業者に対してノウハウの開示を強要する、名ばかりの共同研究を強いる、知的財産権の無償譲渡を強要するといった行為があり、かかる行為が下請法に違反する場合は厳正に対処するとされています。
また、令和3年3月26日には、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁及び厚生労働省が、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しています。このガイドラインは、発注事業者とフリーランスとの間には、役務等の提供に係る取引条件について情報量や交渉力の面で格差があるため、発注事業者との取引において取引条件がフリーランスにとって一方的に不利になりやすいことを指摘した上で、下請法の規制の対象となる場合の発注事業者による発注書面の交付義務や、報酬の支払遅延、報酬の減額等の下請法違反行為についての考え方を明らかにしています。
働き方改革や新型コロナウイルス感染症拡大に関連する事例の公表
公正取引委員会は、平成30年5月31日に、働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当な行為の事例を公表しました。これは、政府を挙げて働き方改革が推進される中で、取引の一方当事者の働き方改革に向けた取組の影響が取引の相手方に対して負担となって押し付けられることを防ぐために、買いたたき等の下請法違反となり得る行為につき具体例を示したものです。
また、令和2年5月13日には、新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&Aが公正取引委員会のウェブサイトにおいて公表され、新型コロナウイルス感染症拡大に関連する発注の取消し、受領拒否、買いたたき等に係る考え方が示されました。
中小事業者等取引公正化推進アクションプラン
最低賃金の引上げ等が重要な政策課題となる中で、公正取引委員会は、令和3年9月8日に、最低賃金の引上げ等に伴い、買いたたき、減額、支払遅延などといった中小事業者等への不当なしわ寄せが生じないよう、取引の公正化を一層推進するため、「中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を取りまとめました。具体的には、下請法等の執行強化策として、①最低賃金の引上げ等に伴い特に問題となることが想定される「買いたたき」の指導実績が多い業種やコロナ禍において特に影響が出ているとされる業種向けの調査拡大や、②買いたたきを含む下請法違反行為等への厳正な対処が示されています。そして、同年11月24日には、早くも同アクションプランが改定され、原油価格高騰に関する買いたたきについて公正取引委員会のウェブサイトのQ&Aを追加するなどの取組が行われています。
パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ
さらに、令和3年12月27日には、内閣官房、公正取引委員会等が、パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ(転嫁円滑化施策パッケージ)を取りまとめました。このパッケージは、原油価格の高騰や円安の進展の下で、中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう、取引事業者全体のパートナーシップにより、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できることを目標としています。具体的には、(1)価格転嫁円滑化スキームの創設(①関係省庁からの情報提供や要請と、匿名による違反行為情報提供フォームの設置、②令和4年6月までに事例、実績、業種別状況等の公表、③毎年3業種ずつ重点立入業種を定めて立入調査の実施)、(2)下請法の「買いたたき」に対する対応(①「買いたたき」の解釈の明確化、②「買いたたき」に係る立入調査の件数を増やすとともに、再発防止が不十分な事業者に対しては取締役会決議を経た上で改善報告書の提出を要請)等の取組が含まれています。
そして、令和4年1月26日に、公正取引委員会は、転嫁円滑化施策パッケージに関する取組として、(1)違反行為情報提供フォームの設置、(2)労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることを明確化するための、下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準の改正及び公正取引委員会のウェブサイトのQ&Aの追加を行いました。特に、買いたたきのおそれのある行為として、「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」が追加されたことは、留意が必要と思われます。
おわりに
下請法の執行強化に呼応するように、公正取引委員会による下請法違反に対する措置件数は平成28年度以降一貫して増加しており、令和2年度は8,111件に上りました。また、公正取引委員会の公表資料によれば、新型コロナウイルス感染症、働き方改革やフリーランスに関連する下請法違反事例も現われています。
そして、前記のとおり、岸田政権において賃上げが重要な政策課題となる中で、特に買いたたきの執行が強化されると予想されることから、注視が必要です。
以上
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