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【労働法ブログ】テレワークについて
2022.04.26
はじめに
2020年4月に出された緊急事態宣言の前後における一斉休校、福祉利用施設等の利用停止・自粛要請により育児や介護を担う労働者は出社が困難となり、また政府から出された出勤者7割削減要請も相まって、多くの企業がテレワークを導入することを余儀なくされました。
それから早2年が経過し、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」といいます。)感染拡大への警戒を続けながら通常の勤務体制に戻す企業が存在する一方で、テレワークによるメリットを経験した企業の多くにおいて、テレワークを継続する動きもみられます。
留意点
テレワークとは、情報通信技術を利用して普段のオフィス以外の場所で就労することをいうため、使用者は、その円滑な実施のために適切なルールを作成し、労働者に周知することが望ましいといえます。
この点、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(注1)(以下「本ガイドライン」といいます。) には、様々な留意事項が記載されており参考となります。特に、労働時間制度の活用や労働時間管理という観点からは、以下のような事項に留意が必要です。
注1:「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月25日基発0325第2号、雇均発0325第3号)
・ 労働時間制度:テレワークを採用した場合でも、基本的には通常の労働時間制度が適用されます。本ガイドラインでは、労働基準法で定める全ての労働時間制度でテレワークが実施可能であることが示されています。このうち、事業場外みなし労働時間制は「労働時間を算定することが困難なとき」にのみ適用できる制度ですので、テレワークの場合にその要件を満たすのかについては慎重な検討が必要ですが、本ガイドラインでは、労働者が情報通信機器を所持していたとしても一定の基準を満たす場合には適用は可能であることが示されています。
テレワーク導入にあたり、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制等といった制度を併用することにより、労働者にとってより柔軟な働き方が可能となるでしょう。
・ 労働時間管理:テレワークを採用する場合であっても、使用者には労働者の労働時間を管理する義務があることは言うまでもありません。
本ガイドラインでは、客観的な記録の把握方法として、労働者がテレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録等により労働時間を把握する方法があげられています。また、情報通信機器の使用時間の記録では労働時間を把握できないような場合には自己申告制により把握することも考えられるとし、その際には、①労働者に対し十分な説明を行うこと、②客観的事実と申告された時刻に著しい乖離があることを把握した場合には労働時間の補正をすること、③労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはらないこと等の措置を講ずる必要があることが示されています。
・ テレワークに特有の事象の取扱い:本ガイドラインでは、テレワーク中に生じやすい中抜け時間の取扱いについてあらかじめ検討すべきであること、勤務時間の一部についてテレワークを行う際の移動時間は労働時間に該当する場面があること等が示されています。
・ 長時間労働対策:テレワークでは、使用者の管理の程度が弱くなり、また、仕事と生活の区別が曖昧となり得ることから、長時間労働を招く可能性は否定できません。
本ガイドラインでは、労働時間外の業務指示や報告メール送付の自粛要請等、労働時間外のシステムへのアクセス制限、労働時間外に労働を行う場合の手続等の明示、長時間労働等を行う労働者への注意喚起、勤務間インターバル制度を採用すること等が対策としてあげられています。
テレワークの活用による多様な人材の確保・能力発揮
テレワークの活用は、コロナ感染拡大防止対策にとどまらず、時間と場所にとらわれない働き方が促進されることによって、労働者にワークライフバランスの確保、仕事と家庭との両立等のメリットをもたらすのみならず、使用者にも生産性の向上、離職の防止、遠隔地の優秀な人材の確保、賃料等のコスト削減、事業継続性の確保等のメリットがあることは、本ガイドラインでも示唆されているところです。
テレワークにて就労することが一般的に可能となれば、例えば、配偶者の転勤の際に、他方の配偶者は家族とキャリアのどちらか一方のみの選択肢だけではなく、家族に帯同しつつも自己のキャリアを中断せずにすむという新たな選択肢が与えられることになります。また、海外の有能な人材との間で雇用契約を締結し、様々な国の優秀な人材を確保する等といったことも今後考えられるでしょう。
この点、労働基準法は、日本国内の「事業」に従事している労働者に適用されますので(昭和25年8月24日基発第776号)、例えば、海外の自宅からテレワークをしている場合であっても、国内の事業場に所属して給与の支払を受け、国内の使用者から指揮命令を受けて業務を遂行している場合には、海外の就労場所が独立した一の事業所であると認められる余地は少なく、日本の労働基準法が適用される可能性が高いといえます。そのため、実態によりますが、海外から日本国内の企業にテレワークにより労務提供する労働者についても、日本の労働基準法に従った労務管理が必要となり得る点に留意が必要です。
最後に
日本ではテレワークの普及促進が長らく課題とされていたところ、コロナ感染拡大によりやむなくそのための整備が急速に進んだという側面は否めません。
しかし、これを機に、コロナ感染拡大防止対策にとどまらず、テレワークの利用により働き方の選択肢の幅を広げ、使用者・労働者双方にとってメリットのある労働環境を模索するという意味で、テレワークの在り方を今後も検討する意義はあるものと考えます。
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