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【相続ブログ】相続制度と遺産共有・相続登記を含む登記制度(3)遺産共有に対する共有の規定の適用(改正民法898条2項)
2022.11.15
はじめに
令和3年4月21日に、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。これらの法律は、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化の観点から総合的に民事法制を見直すことを目的としたものですが、令和5年4月1日から順次施行される予定であり、実務上も大きな影響を持つと考えられます。相続プラクティスグループでは、これらの法律を「相隣関係・共有制度」「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」「財産管理制度」の3つに大別して、ブログとしてそれぞれの内容の記事を連載いたします。この記事は、「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」の第3回となります。順次アップ予定ですので、どうぞご期待ください。
遺産共有に対する共有の規定の適用(改正後の民法898条2項)【施行日:令和5年4月1日】
【改正のポイント】 |
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の成立(令和3年改正)で共有物の管理に関する規定が整備されたことに伴い、遺産共有状態にある共有物の取り扱いについてもルールが明確化されました。
以下では、Q&A方式で、遺産共有状態にある共有物の管理について具体的に見ていきましょう。
〔設例〕
Xは生前、賃貸アパート(以下「本件アパート」といいます。)を所有し、Yに賃貸していました。Xは、令和5年(2023年)5月1日死亡し、長男A、次男B、三男CがXを相続しました。Xの妻はすでに死亡しているため、Xの相続人はA、B、Cの3人です。Aらは、Xの遺産について遺産分割をしておらず、現在も本件アパートはA、B、Cの共有状態にあります。BとCは、法定相続分はそれぞれ3分の1であり、2人合わせると3分の2となりますが、2人とも、Xの生前に住宅購入資金としてまとまった額の贈与を受けていたので特別受益があり、具体的相続分でみると、2人合わせて4分の1程度となる見込みです。BとCは、Yが半年間に渡り賃料の支払いを怠っているので、Yとの間の賃貸借契約を解除したいと考えていますが、Aは、Yが自身の友人であることもあり、賃貸借契約の解除に反対しています。
Q:改正後の民法(以下「改正民法」といいます。)下において、BとCは、Aの同意なく、Yとの間の賃貸借契約を解除できるのでしょうか。
【親族関係図】
【本件アパートの権利関係】
(1) 法改正の内容(※)
民法では、共有物の利用にあたって、共有者間で意見が対立した場合には、各共有者の共有持分の割合に応じて利用方法を決定するというルールが定められています(改正民法251条、252条)。もっとも、改正前の民法では、相続によって共有状態が発生した場合、何を基準に各共有者の共有持分の割合を決定するのか(法定相続分によるのか、それとも特別受益等も考慮した具体的相続分を基準にするのか)が明確ではありませんでした。
そこで、改正民法では、このように相続によって発生した遺産共有状態にある各共有者の共有持分の割合は、具体的相続分ではなく、法定相続分(相続分の指定があるケースでは指定相続分)を基準に算定することが明記されました(改正民法898条2項)。改正にあたっては、具体的相続分による場合は、遺産分割手続の中で、特別受益や寄与分の有無やその額が定まらなければ、その具体的な割合を算定することが困難であるという点が考慮されたものと考えられます。
なお、「具体的相続分」、「法定相続分」、「指定相続分」といった言葉の意味については第1回「具体的相続分による遺産分割の期間制限」(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2022/13881.html)の中で、「遺産共有」という言葉の意味については第2回「遺産共有と通常共有が併存している場合の特則」(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2022/13970.html)の中で、それぞれ解説しています。
(2) 設例の検討
改正民法において、共有物の利用行為は、「変更(軽微な変更を除きます。)」、「管理(軽微な変更を含みます。)」「保存」という3つの行為に分類されます(改正民法251条、252条)。本件のような共有物に関する賃貸借契約の解除は、一般的には、このうち、「管理」行為に該当すると解されているところ(最判昭和39年2月25日民集18巻2号329頁)、「管理」行為については、持分の価格の過半数を有する共有者の同意があれば行うことができるとされています(改正民法252条1項)。
そして、上記(1)のとおり、遺産共有状態にある各共有者の共有持分の割合は、具体的相続分ではなく、法定相続分を基準に算定されます。したがって、本件におけるBとCの持分の合計は、法定相続分の合計である3分の2となり、過半数に達していることになるため、BとCは、両名の同意のみで、Yとの間の賃貸借契約を解除できると考えられます。
【共有物の変更・管理・保存】
[参考]
(※) 法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(令和4年10月版)」35頁