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【相続ブログ】相隣関係・共有制度(4)共有物の管理行為の範囲の拡大・明確化(民法251条1項、252条1項・4項)
2022.12.23
共有物の管理行為の範囲の拡大・明確化(民法251条1項、252条1項・4項)【施行日:令和5年4月1日】
【改正のポイント】 |
今般の改正では、共有物の管理行為の範囲が拡大するとともに、共有物に対して賃借権等を設定する行為のうち、いかなる行為が管理行為にあたるのかが明確化されました。以下では、QA方式で共有物の管理行為の範囲がどのように拡大・明確化されたのか、その理由と活用方法を含めて見ていきましょう。
Q4:AとBと私の3人で土地を共有していますが、この土地に関して何をやろうにもAが反対してきます。民法の改正によってAの同意がなくてもできることが増えたと聞いたのですが、その内容を教えてください。
A4:
(1)共有物の管理行為について
共有物とは、複数人が共同して所有している物を指します。誰かの単独所有ではない以上、共有物をどのように使用していくかについては、各共有者が勝手に決めることは出来ません。そこで、民法は、共有物の管理に関する事項に関して、共有物に与える影響の大きさ等を勘案して変更行為、管理行為、保存行為に大別したうえで、それぞれの場合についてどのように決定することができるかを定めています。
まず、変更行為とは、共有物に物質的変更を加えることや共有物を売却等により処分することをいいます。具体的には、田畑の宅地への変更、建物の改築、山林の伐採等が挙げられます。変更行為は共有物に与える影響が大きいため、民法上、共有者の全員の同意がある場合に行うことができると定められています。
次に、管理行為とは、処分に至らない程度で共有物の利用、改良を行うことをいいます。具体的には、共有物についての使用者の決定や、短期の賃借権等の設定が挙げられます(後者の点については今般の改正ともかかわるため、後ほど詳述します。)。管理行為は、共有物に一定の影響を及ぼすものの、物の有効利用という観点から、民法上、共有者の持分の価格の過半数の同意がある場合に行うことができると定められています。
最後に、保存行為とは、共有物の現状を維持する行為をいいます。具体的には、共有物の修復や妨害排除請求等が挙げられます。このような保存行為は共有物に与える影響が少ないため、民法上、共有者各人が他の共有者の同意なく行うことができると定められています(保存行為に関しては、新民法252条5項に規定されておりますが、内容について改正前民法252条ただし書から変更はございません。)。
なお、管理行為はあくまで持分の価格の過半数の同意がある場合に行える行為であって、頭数での過半数の同意で行える行為ではないことにご注意ください。
(2) 民法改正前の問題点
改正前の条文においては、たとえ共有物に与える影響が小さな変更を加える場合であっても、共有物の性質又は形状に変更を加えるものであれば、それは変更行為にあたるものとして、共有者全員の同意が必要になっていました。そのため、少数でも反対する共有者がいればこれを行うことができず、共有物の円滑な利用や適正な管理が妨げられていました(問題点1)。
また、共有物に対して賃借権等を設定した場合について、当該行為は基本的には管理行為にあたるとする判例がある一方で、長期の賃借権等を設定する場合には、建物が賃借人のもとに長期的に留め置かれる以上、共有物に与える影響が大きいといえ、変更行為にあたると考えられます。しかし、どの程度長期の賃借権等の設定であれば変更行為と考えるべきなのか区別の基準が不明瞭であったため、比較的短期の賃借権等の設定であっても、結局念のため共有者全員の同意を求めざるを得ず、共有物の有効活用が阻害されていました(問題点2)。
(3) 今回の民法改正
① 管理行為の範囲の拡大(問題点1への対処)
新民法251条1項では、従来の変更行為の中でも「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」(軽微変更)については共有者全員の同意が不要であることが明記され、持分の価格の過半数の同意があれば行うことができるようになりました(新民法252条1項)。
ここでいう「形状の変更」とは、その外観、構造等を変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいいます。
そして、共有物に変更を加えることが軽微変更にあたるかどうかは、変更を加える箇所及び範囲、変更行為の態様及び程度等を総合して個別に判断されます。
具体的には、砂利道をアスファルト舗装する行為、建物の外壁・屋上防水等の大規模な修繕工事を行う行為等は基本的には軽微変更にあたると考えられています(なお、大規模ではない修繕工事は、保存行為として、共有者1名のみでも行うことができると解されています。)。一方で、例えば、建物の外壁の修繕工事に加えて、増改築まで行うような場合などは、軽微変更とはいえず、共有者全員の同意が必要になると思われます。
② 管理行為の範囲の明確化(問題点2への対処)
新民法252条4項では、1号から4号において共有物ごとに賃借権等の設定が何年以下であれば管理行為として行えるかが明記されました。
③ ②について注意すべき点
基本的には、新民法252条4項の各号に従って管理行為にあたるか否かを判断すればよいのですが、注意すべきなのは、借地借家法により存続期間が伸長されることになる、建物所有目的の土地賃借権等の設定をする場合と建物賃借権の設定をする場合についてです。
まず、建物の所有を目的とする土地の賃借権等を設定する場合において、新民法252条4項2号の規定を念頭に置き、管理行為として持分の価格の過半数の合意で実施できるよう、例えば存続期間を2年にしたとします。このような場合であっても、原則として、借地借家法3条及び9条により、建物所有目的の借地権の存続期間は30年となるため、意図せずとも新民法252条4項2号の5年の期間を超えてしまいます。その結果、長期にわたって土地の用途が限定されることから、共有物である土地に多大な影響を与え効用の著しい変更を伴うものといえ、軽微変更とはいえない変更行為にあたるものとして、共有者全員の同意が必要になると考えられます。
次に、建物の賃借権が設定された場合において、新民法252条4項3号の3年間という期間を念頭に置き、上記と同様の趣旨で、契約期間を2年にしたとします。しかしながら、建物の賃借権に関しては、原則的には、借地借家法28条により契約の更新をしない旨の通知(同法26条1項)をする際に要求される「正当の事由」が認められない限り、貸主側から契約を終了することができません。そのため、契約期間を2年と定めたとしても、それが後述の特殊な類型に該当しない限りは、当該2年間での終了を確保することができないことから、新民法252条4項3号の3年の期間を超えないものとすることは基本的にできません。したがって、共有物である建物に多大な影響を与え効用の著しい変更を伴うものといえ、軽微変更とはいえない変更行為にあたるものとして共有者全員の同意が必要になると考えられます。
なお、定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)、取壊し予定の建物の賃貸借(同法39条1項)、一時使用目的の建物の賃貸借(同法40条)のように、契約の更新がないことが前提となっている特殊な類型の建物賃貸借の場合には、例外的に契約の終了を確保することができるため、当該契約期間が3年を超えていない限り管理行為に該当し、持分の過半数の同意で賃借権を設定することができます。
【参照条文】
(共有物の変更) 第251条 1 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。 2 (略) (共有物の管理) 第252条 1 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。 2 (略) 3 (略) 4 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。 一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年 二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年 三 建物の賃借権等 三年 四 動産の賃借権等 六箇月 5 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。 |
(4) 質問者の場合
仮に、質問者の単独の持分の価格のみで過半数に達する場合やBと質問者の持分の価格を合わせて過半数に達する場合には、改正民法により、軽微変更及び管理行為については、Aの同意なく新たにできるようになります。
また、同様の場合に、新民法252条4項各号に規定された賃借権等の設定については管理行為であることが明確化されたため、これらの行為についてAの同意がなくとも安心して行うことができるようになります。
なお、建物所有目的の土地賃借権等や建物賃借権の設定については別途借地借家法上の考慮が必要となり、基本的には軽微変更とはいえない変更行為にあたるものとして共有者全員の同意が必要になると考えられることは上記の通りです。
【参考】
・法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(令和4年10月版)」30頁、31頁、https://www.moj.go.jp/content/001377947.pdf(令和4年10月6日更新)
・法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」、https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html(令和4年11月28日更新)
・村松秀樹・大谷太編著「第2編 民法改正関係 第3章 共有の見直し 第1節 共有物を使用する共有者がいる場合のルール、共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化」『Q&A 令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』59~62頁(一般社団法人金融財政事情研究会、2022)
・佐久間毅著「第3章 所有権 3 共有」『民法の基礎2 物権』199頁(有斐閣、2019、第2版)
・埼玉弁護士会編「第2章 物権共有 第5節 共有物の変更・処分、管理、保存」『共有をめぐる法律と実務』25~31頁(ぎょうせい、2001)
・日本司法書士会連合会編著「第2章 各論~相談元からのQ&A 第3 相続人からの空き家の相談」『Q&A空き家に関する法律相談―空き家の予防から、管理・処分、利活用まで―』124頁(日本加除出版、2017)
・我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明著『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権―』487~490頁(日本評論社、2022、第8版)