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【GX 連載ブログ】vol.1 GX推進戦略チームの活動
2023.03.13
TMI総合法律事務所では、GX(グリーントランスフォーメーション)について、多角的・総合的かつスピーディな法的サービスの提供を実現するため、GX推進戦略チームを立ち上げ、活動しています。
近年、気候変動問題への対応は、人類共通の課題とされ、我が国でも2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラルという目標が掲げられています。地球温暖化に伴う気候変動による影響が世界各地で顕在化する中、世界各国でもカーボンニュートラルに向けた動きが活発化し、企業の活動においても無視できないものとなっています。また、ロシアによるウクライナ侵攻が発生して、世界のエネルギー情勢は一変しました。このような状況下において、化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心のものへと転換するグリーントランスフォーメーション(GX)は、益々その重要性を増しています。
しかしながら、2050年カーボンニュートラルという目標を実現するのは、簡単なことではありません。カーボンニュートラル実現には、需要側における省エネルギー、製造業の燃料転換、EVの導入拡大をはじめとした運輸部門や産業の電化とともに、供給側における電力の脱炭素化が不可欠となります。そのためには、以下のような様々な取組みが求められます。
■再生可能エネルギーの最大限の導入
政府は2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画(※1)で、再生可能エネルギーについて、2030 年度の温室効果ガス削減目標をふまえた野心的な水準として、電源構成で36-38%程度を目指すという目標を掲げています。我が国における再生可能エネルギー発電設備の比率は、2012年のFIT(固定価格買取制度)導入後、太陽光を中心に増加していますが、2021年時点で20%程度であり(※2)、目標達成のためには、今後も更なる導入拡大が必要です。2022年4月に施行されたエネルギー供給強靭化法による再エネ特措法改正により、FIT制度からFIP(Feed in Premium)制度への移行が進む中、発電事業者のビジネスは複雑さを増しており、そのような中で導入を拡大していくことは容易ではないと感じます。
弊所では、再生可能エネルギー発電事業に取組む事業者、再生可能エネルギー発電事業に投資する投資家や金融機関、再生可能エネルギー発電所で発電された電気を購入する小売電気事業者など、再生可能エネルギーにかかわる様々な企業を代理して、発電所の開発事業、プロジェクトファイナンス、コーポレートPPAなど多様な案件に対応しております。
■系統の増強・調整力の確保
再生可能エネルギー電源の最大限の導入のためには、系統制約への対応も不可欠です。十分な送電容量を確保するためには、系統増強や接続、利用の在り方を抜本的に変革することが重要とされています。また、自然変動電源(太陽光や風力)の増加に伴い、必要性が増大する調整力の確保も課題となります。蓄電池の活用や、化石燃料に代えて水素やアンモニアを燃料とする火力発電の活用も期待されるところです。
弊所では、蓄電池を活用したビジネスやエネルギーの効率的な活用を目指すEMSシステムを活用したビジネスなどを行う企業への法的アドバイスなどを行っております。また、系統増強や水素やアンモニアを燃料とする火力発電所などの新しいビジネスについて常に最新の情報を収集し、新たなビジネスに挑戦する企業のご相談に応じる体制を構築しています。
■水素・アンモニアの活用
水素やアンモニアは、温室効果ガスを発生させない燃料として電力部門の脱炭素化を可能とするだけでなく、運輸部門や電化が困難な産業部門等の脱炭素化も可能とするものとして、カーボンニュートラルの実現のために、これらの活用が不可欠といわれています。しかしながら、水素やアンモニア(特にCO2を排出しない方法で製造されたもの又は製造段階で発生したCO2を分離回収したもの)の大量導入については、製造原料や製造に利用される再生可能エネルギー電気の確保、輸送や貯蔵さらに需要側における技術的な課題も残っています。
■CCS・CCU・メタネーション
どうしても排出を抑制できないCO2については、分離回収して貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)、あるいはこれを再利用して別の素材や燃料を作り出すCCU(Carbon Capture and Utilization)を活用することも考えられています。CO2と水素を利用して合成メタンを製造するメタネーションなどは、天然ガスに代わる資源として注目されています。
水素・アンモニア、CCS・CCU・メタネーションなどは、その活用に向けて技術的な実証や新たな制度や支援策の構築が進められているところです。私たちは、これらの最新情報を把握するだけでなく、実際に事業に取組む企業の皆様との対話や政府関係者との対話を通じて、積極的にその制度作りにも関わってまいります。
■カーボンプライシング
上記のような、電化の促進と電力の脱炭素化とともに、企業や人々の思考を、カーボンニュートラルに向けるためには、カーボンプライシングの手法も不可欠となると考えられます。2023年2月に公表された政府の「GX実現に向けた基本方針」(※3)においては、「成長志向型カーボンプライシング構想」として、20兆円規模のGX経済移行債の発行とともに、GXリーグにおける自主参加型の排出量取引制度の本格稼働、2033年度からの発電事業者に対する有償オークションの段階的な導入、2028年度からの炭素に対する賦課金の導入が示され、これらを規定した法案が既に国会に提出されています(※4)。また、今年本格的な運用が開始されるGXリーグにおいては、企業の自主的な取り組みとして排出量取引が開始されることとなっています。
弊所では、従来よりJ-クレジットを始めとするカーボン・クレジット、排出量取引などカーボンプライシングに係る法的アドバイスを行っております。また、今後の制度設計・政策提言のため、弊所ネットワークを駆使して海外制度の状況など積極的に情報収集を行っております。さらに、GXの推進のためには、今後ますます民間資金の活用が不可欠であり、官民で連携して取り組むファイナンスに関するアドバイスにも取り組んでおります。
カーボンニュートラルを達成するためにはこのように多くの新しい取組みを同時並行的に推し進める必要があります。「GX実現に向けた基本計画」において、政府は今後10年を見据えたロードマップを示しました。ここで示された政策は、いずれもカーボンニュートラル実現に向けて重要なものであり、相互に関連していると思われます。そしてその実現は容易なものではなく、官民が連携して実現に向けた取組みを進める必要があります。
私たちGX推進戦略チームは、これらの政策を多角的・総合的な視点で捉えたうえ、スピーディな法的サービスの提供を実現するため、それぞれ異なるバックグラウンドや経験を有する弁護士が集結し、GX実現に向けた事業に挑む様々なクライアントに対して、その悩みに寄り添い、事業の推進と問題の解決に向けた提案を行ってまいります。
また、ブログにおいては、今後継続的にGXに関連するトピックについてご紹介していきたいと考えております。
GX推進戦略チーム
共同代表:境田正樹・野口香織
(※1)https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf
(※2)資源エネルギー庁「再生可能エネルギーFIT/FIP制度ガイドブック2022年度版」を参照
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2022_fit_fip_guidebook.pdf
(※3)https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002.html
(※4)「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210004/20230210004.html