ブログ
サプライチェーンにおける技能実習生の労働環境とその対応
2023.03.20
サプライチェーンにおける技能実習生の労働環境に関する近時の事例
アパレル企業A社の二次サプライヤーB社が雇用していた技能実習生が、B社の賃金不払いなどの不当な取り扱いに対して、A社に対して直接状況を訴えるために、面会することを求めたが、A社は、技能実習生との面談に応じなかった。このことが報道されたことがきっかけとなり、A社の社会的責任を問う声が大きくなった。
批判を受け、A社は、A社の一次サプライヤーに対して、再発防止策を伝えるとともに、実地調査の実施への協力を求めた。
また、A社は、B社と直接の取引がある一次サプライヤーC社に対し、B社における外国人技能実習生の労働環境の改善について複数回申し入れを行ったが、C社の対応が不十分であったため、C社との取引を停止した。
最近でも、国内の大手メーカーX社が、一次サプライヤーY社を通じて、二次サプライヤーZ社に業務を委託していたところ、Z社がZ社において就労していた技能実習生の残業代金などを支払っておらず、結果的に未払のまま倒産してしまった。
その後、これらの事実が報道により明らかになった。報道を受けて、X社の製品を取り扱っていた一部の小売店では、自社の人権方針において、強制労働や不当な低賃金労働などのない商品を扱うとしているとして、Z社が製造にかかわっている製品の取り扱いを中止することを表明した。
これまで企業は、自社における人権侵害を防止するためのコンプライアンス体制の構築に励んできていた。しかし、ビジネスにおける人権侵害の問題に対する世間の関心の高まりから、企業は、自社だけではなく、サプライチェーンにおける労働環境についても同様に目を光らせる必要性が高まっているといえる。
技能実習制度に対する国際的な批判の高まり
技能実習制度は、国連において以前から劣悪な労働環境や搾取の危険性などが指摘されていたが、ビジネスと人権に関する考え方が国際的にも広く認知されるようになったこともあり、日本の技能実習制度に対する国際的な批判が高まっている。特に、米国では、日本の技能実習制度を問題視し、国務省が毎年発表する人身売買報告書の2020年度では、日本の評価を下げるとともに、現在の技能実習制度は人身売買であると指摘している。
技能実習制度は、前述のような賃金や残業代の不払いだけではなく、長時間労働や劣悪な労働環境など多くの問題を抱えている。技能実習生は、母国の送り出し機関に支払うために多額の借金を背負って来日している者も多く、借金の支払いのために我慢を余儀なくされている者も多い。
そこで、日本政府は、発展途上国の人材育成を目的とする技能実習制度が、人手を確保する手段となっているという実態があることに鑑みて、制度の見直しを検討するための有識者会議を立ち上げ、昨年(2022年)12月から、見直しまたは廃止に向けた議論を開始している。
日本企業における近時の取り組み
日本政府において技能実習制度の見直しの議論が始まったものの、グローバル企業にとっては、現在の状況に関して何らの対策もとらないことはリスクとなる。そこで、日本企業において、技能実習制度の問題に対応するために、指針やガイドラインを策定する動きが広がっている。
例えば、味の素などの食品メーカーや小売りの事業者約20社が中心となり、技能実習生を受け入れる際に企業が遵守すべきルールや適切な取り組みについて定めた指針を策定している(技能実習生・特定技能としての外国人労働者の責任ある雇用ガイドライン)。この指針では、技能実習生の雇用中だけではなく、採用・入社から帰国に至るまでについての指針が示されており、指針の策定にかかわった企業だけではなく、取引先などのサプライチェーンにある事業者にも遵守を働きかけている。
また、繊維業界では、技能実習生などの労働者への人権侵害の問題がサプライチェーンにおける問題として重視されているため、日本繊維産業連盟が中心となり、昨年(2022年)7月に「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」がまとめられた。繊維業界は、中小企業も多いため、取引先の大企業からサプライチェーンの点検等を求められることの多くなる中小企業の負担をどう軽減しながら、ガイドラインに基づいた対応を行っていくかが、今後の課題となるであろう。
指針やガイドラインの策定以外にも、「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)が、ポータルサイトを開設し、外国人労働者への情報提供を行うとともに、外国人労働者の相談・救済窓口を運用しており、外国人労働者の労働・生活環境の改善を図る取り組みも始まっている。
さらに、外国人労働者に限られた取り組みではないが、一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)が、国連のビジネスと人権に関する指導原則に準拠した非司法的な苦情処理プラットフォームである「対話救済プラットフォーム」を提供を開始し、会員企業の国内外の労働環境などの改善を図る取り組みを行っている。
サプライチェーンのデューデリジェンスの重要性が高まる中、サプライチェーンにおける労働環境の問題も注視しつつ、事業展開を図る必要性が益々高まっている。
そして、この点の対応にあたっては、国内外の動向も見据えた専門的対応体制の構築も不可欠となっている。
弊所も、サプライチェーンを取り巻く法的問題を幅広くご支援できる体制の充実を進めており、多くの皆様のお力になることができればと考えている。