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【労働法ブログ】外国人労働者の雇用について
2023.09.28
はじめに
日本で就労している外国人は2022年10月末現在で過去最高の1,822,725人に上ります(出展:厚生労働省「外国人雇用対策の在り方に関する検討会(第10回)資料」)。労働力不足から多くの企業が外国人労働者の雇用を拡大しており、企業の経済活動のグローバル化の進行に伴い、ダイバーシティの観点からも外国人労働者の雇用の必要性が増しています。また、日本政府も外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策を決定し、外国人労働者の雇用の安定化や高度外国人材のさらなる就業促進に取り組んでいます。
日本人とは異なる文化や視点を有する外国人を雇用することは今まで一般的だと考えられてきた価値観を見直すきっかけとなることも多く、企業にとって多くのメリットがありますが、外国人雇用においては日本人雇用と異なる注意点が必要となります。その注意点としては、主に(1)出入国管理及び難民認定法による在留・就労の制限、(2)外国人の出身国と日本の間の文化や言語、雇用慣行等の違いが挙げられます。
外国人雇用における注意点
(1) 出入国管理及び難民認定法による在留・就労の制限
外国人は出入国管理及び難民認定法で定める在留資格の範囲内で就労することが可能です。就労可能な在留資格の形態は、①専門的・技術的分野の在留資格、②身分又は地位に基づく在留資格、③技能実習、④特定活動、⑤資格外活動(在留資格で認められている本来の活動の遂行を阻害しない範囲内で当該活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動)にカテゴライズすることができます。なお、技能実習については、現在、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議において制度廃止・新たな制度創設が議論されています。
雇用主は、採用に当たって、あらかじめ在留資格上従事することが認められる者であることを確認する必要があり、採用後においても、在留期間が切れていないか、保有している在留資格では認められていない業務に従事させていないか、資格外活動許可上の就労可能な時間数を超えて働かせていないか等、在留資格の管理を継続して行う必要があります。雇用主が在留資格の管理を怠った場合には、違反時の制裁として、雇用主は不法就労助長罪(出入国管理及び難民認定法73条の2第1項1号、3年以下の懲役、300万円以下の罰金、前記の併科)の対象になります。不法就労助長罪は、無過失の場合を除き、不法就労であることを知らなかったとしても処罰は免れません(同条2項)。また、不法就労した外国人自身も刑罰や国外退去強制の対象となります。
さらに、在留資格に応じて講ずべき必要な措置もあります。とりわけ特定技能や技能実習の在留資格においては、法律、省令、施行規則、基準省令、告示、基本方針、分野別運用方針、運用要領等において制度の内容が詳細に定められており、雇用主において留意すべき事項が数多くあります。
(2) 出身国と日本の間の文化や言語、雇用慣行等の違い
労働基準法や健康保険法などの労働関係法令及び社会保険関係法令は、国籍を問わず外国人にも適用されます。また、募集・採用や労働条件において国籍により差別することも禁止されています。
外国人社員との間で起こる労働条件等のトラブルの要因としては、出身国と日本の間の文化や雇用慣行のギャップが挙げられます。採用段階においては、ミスマッチや外国人社員のリアリティショック(事前情報と現実の乖離)による早期離職を防ぐため、雇用契約書の職務内容を詳細に記載することが有効です。これは雇用契約書に記載のない職務の拒絶等のトラブルを防ぐ観点からも雇用主及び外国人社員の双方にとって有効です。雇用契約書や就業規則については、「(厚生労働省の作成した)モデル労働条件通知書やモデル就業規則を活用する、母国語等を用いて説明する等、当該外国人労働者が理解できる方法により明示するよう努めること」が厚生労働省の定めた「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」において定められています。
外国人社員を受け入れる際には、出身国の国や文化について事前に理解しておくことが重要です。そのうえで、事業所の体制として、外国人社員の希望や考えをどのような形であれば実施可能か事前に検討し、採用の際、外国人社員と実現の可否についてすり合わせておくことで事後に発生するトラブルを防ぐことができます。例えば、イスラム教を信仰している外国人社員の採用を検討する場合には、ヒジャブを被って仕事をしてよいかは仕事への影響や現場への理解、仕事中の礼拝を認めるかは場所の確保や休憩時間の調整等を検討し、外国人社員の希望や考えを確認したうえで実現の可否を説明することが有効です。なお、採用選考時に思想・信条や宗教に関することを質問することは就職差別につながるおそれがあるので、採用選考時の質問の内容は事前によく検討して統一的に定めておくことが必要です。
その他、外国人(特別永住者並びに在留資格が「外交」及び「公用」以外の外国人の方を除く)の雇入れ及び離職時には、その氏名、在留資格等をハローワークに届け出る必要があること、外国人労働者を常時10人以上雇用する事業者においては、外国人労働者の雇用労務責任者を選任する必要があることも日本人雇用の場合と異なります(外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針第6)。
おわりに
弊所には、労働法プラクティスグループ、渉外労働プラクティスグループ、Immigrationプラクティスグループがあり、出入国管理や外国人労働の分野において多くの知見やノウハウを有しています。また、弊所は多くの海外拠点を有し、様々な国の海外現地事務所とも協力関係にあるため、様々な国の文化や雇用慣行に精通しております。さらに、外国人労働者の問題はサプライチェーンにおける労働環境の問題を始めとしてビジネスと人権に関わる分野でもあるところ、弊所はビジネスと人権を取り巻く法的問題を幅広くご支援できる体制の充実も進めております。この弊所の強みを生かし、外国人雇用の分野において多くの皆様のお力になりたいと考えております。