ブログ
【中国】実施細則・審査基準改正(2023.12.21)-2遅延審査制度
2024.01.24
本改正の概要
中国国務院は、2023年12月21日、専利法実施細則の改正条文を公表しました。また、同日、中国国家知的財産局(CNIPA)は、専利審査基準の改正内容を公表しました。
この実施細則及び審査基準の改正は、2021年6月1日から施行されている第4回改正専利法に対応したものであり、長期に渡り、正式な改正内容の公表が待たれていたものです。
先日の実施細則改正内容の速報、及び(1)特許期間調整(PTA)制度に関する改正点の説明に続き、本稿では、2019年の審査基準改正により導入され、今般の改正により拡充された遅延審査制度について、改正後の実施細則、審査基準等の内容を総合して、関連規定の全体像をご紹介します。
なお、遅延審査制度については、2023年8月30日に国家知的財産局(CNIPA)より「特許出願の遅延審査に関するガイドライン」も発表されており、そちらに関する解説記事もご参照ください。
遅延審査制度の概要
2-1.関連条文
遅延審査制度は、2019年の審査基準改正で導入されて以降、法規定ではなく国家知的財産局(CNIPA)による審査実務として運用されてきましたが、今般の実施細則改正において、初めて条文として盛り込まれました。
専利法実施細則 第56条第2項:
出願人は、専利出願に対して遅延審査を請求することができる。
2-2.遅延審査の請求
制度の詳細は、専利審査基準に規定されています。今般の改正により、以前から認められていた特許及び意匠に加えて、実用新案出願でも遅延審査請求ができるようになりました。請求方法は、特許出願では実体審査請求書に、実用新案及び意匠出願では願書に、それぞれ設けられたチェック欄にチェックを入れる形で行います。それ以外のタイミングでは請求ができないため、注意が必要です。
2-3.遅延審査の期間
特許では、1年、2年、又は3年の遅延期間を指定可能です。実用新案の遅延期間は1年です。意匠では、今般の改正により、月単位で最大36か月の遅延期間が請求できることになりました。
特許出願の場合、実体審査請求書で遅延審査を請求すると、その日から遅延期間が開始されます。遅延審査期間中であっても、出願日(優先日)から18か月経過すれば、出願は公開されます。また、実体審査請求と出願公開の両方が完了した段階で、遅延審査請求の有無に関わらず、「実体審査段階移行通知」が発行され、そこから3か月が自発補正可能期間となります。出願は、1~3年の遅延期間の満了後に、改めて実体審査の待ち行列に並ぶことになりますので、実際に審査が開始されるのは、通常ですと、遅延審査期間満了から1年くらい後になります。
実用新案及び意匠出願では、願書にて遅延審査請求を行うと、出願日から遅延期間が開始されます。遅延審査期間中であっても、出願から2か月の自発補正期間は変わらない点に注意が必要です。出願に対しては、遅延期間の満了後に初歩審査が行われます。よって、遅延期間の満了から通常数か月で、設定登録がなされるか、又は拒絶理由通知書・補正通知書が発行されることになります。
2-4.遅延審査請求の取消
今般の改正により、遅延請求の取消が認められることになりました。遅延審査請求を取り消した時点で、出願は審査の待ち行列に入ることになります。なお、遅延審査請求の取消は可能ですが、遅延審査期間の変更(例えば1年から3年に延長する等)はできない点には、注意が必要です。
コメント
今般の改正の主な変更点は、①実用新案出願でも1年間の遅延審査請求が可能になった、②意匠出願の遅延審査期間が月単位で指定可能となった、③遅延審査請求の取消が認められるようになった、の3点です。
この変更により、例えば意匠出願について、製品の販売開始時期を考慮した、より柔軟な遅延審査請求が可能となりました。中国の意匠出願には実体審査がなく、初歩審査だけで登録されるため、遅延期間終了後の出願の動きが比較的読みやすく、遅延審査請求の効果が、日本の秘密意匠制度の効果に一層近づいたと言えるでしょう。
また、遅延審査請求の取消が認められるようになったことで、遅延審査制度の新たな活用方法も考えられます。例えば、ファミリ特許が無効審判や侵害訴訟に関連している等の重要な中国特許出願について、複数件の分割出願を行い、実体審査請求時に全て3年の遅延審査請求をしておくこと等が考えられます。遅延審査請求期間終了後に分割出願の自発補正ができない点は不便ですが、中国の分割出願では、親出願の当初請求項を用いて出願を行い、そのまま実体審査が開始されたとしても、ダブルパテント等の拒絶理由が来る可能性はありますが、日本の特許法第50条の2の通知のようなペナルティはありません。また、中国の分割出願は、日本の審査実務と異なり、親出願の審査官に関係なく、他の出願と同じタイミングで、ランダムに担当審査官に割り振られます。そのため、分割出願であっても、最初の庁通知を受け取るまでに通常1年程度の待ち時間が発生します。よって、分割出願の実体審査請求時に3年の遅延期間を指定しておけば、そこから4年程度は、分割出願を「凍結」しておくことができます。改正後の遅延審査制度によれば、その後、製品化の動向や親出願の状況等を見ながら臨機応変に、「凍結」された複数の分割出願を1件ずつ「解凍」して、即ち遅延審査請求の取消を行って、権利化を進めていくことも可能です。
昨年8月に国家知的財産局(CNIPA)が公表した前述の「特許出願の遅延審査に関するガイドライン」にも示されているように、国家知的財産局(CNIPA)は、遅延審査制度の積極的な活用を促進しようとしています。今般の改正により利便性の向上した同制度が、今後、どのように活用されていくかについて、更に注目したいと思います。
Member
PROFILE