ブログ
【労働法ブログ】偽装請負の判断基準と違反のリスク
2024.03.11
はじめに
偽装請負とは、形式的には業務委託契約等の契約形態をとりながら、発注者が受注者の労働者に対して直接指揮命令を行う等、実態としては労働者派遣に該当する場合を指します。
発注者が、発注者のオフィスに常駐して委託業務に従事する受注者の従業員に対して、業務上の指揮命令をする場合等、偽装請負は様々な場面で問題となり得ます。
労働者派遣とは、派遣元の従業員を、派遣先の指揮命令を受けて派遣先の業務に従事させることをいい、労働者派遣法(以下「派遣法」といいます。)上の様々な法規制が適用されるところ、偽装請負はこれらの派遣法上の法規制に違反するため、違法です。
偽装請負に該当すると判断された場合には、発注者と受注者の双方に罰則が適用される可能性があるほか、発注者が受注者の従業員に対して労働契約の申込みをしたとみなされ、発注者と受注先従業員の間で直接雇用が成立する等のリスクがあるため、注意が必要です。
偽装請負の判断基準
偽装請負に該当するのは、簡単に言えば、発注者が受注者の従業員に対して直接指揮命令をする等のコントロールを及ぼす場合です。
具体的には、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年4月17日労働省告示第37号。以下「告示」といいます。)に判断基準が示されています。
偽装請負に該当しない適切な請負・業務委託に該当するためには、受注者は下表の要件を全て満たす必要があります。
自己の従業員の直接利用 |
受注者が、受注者の従業員に対する業務遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと |
受注者が、受注者の従業員の労働時間の管理等を自ら行うこと |
|
服務規律に関する指示を行う等、企業秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うこと |
|
発注者から独立した業務遂行 |
業務遂行に必要な資金を自ら調達すること |
業務処理について、事業主としての全ての責任を負うこと |
|
単に、肉体的な労働力を提供するものではないこと(機械設備機材の調達や技術・経験の提供により業務を行うものであること) |
実務上の対応
告示の内容については、厚生労働省がQ&A形式の疑義応答集を公表しており、さらに、偽装請負の各要件に関する説明や疑義応答集の内容をまとめた厚生労働省・都道府県労働局作成の「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」も公表されています。
以下では、これらの資料の内容も踏まえ、告示の要件について、実務上、よく問題となる点について解説します。
(1)受注者が、受注者の従業員に対する業務遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと
ア 管理責任者の設置
発注者は、原則として、受注者の従業員に対して直接指揮命令をすることはできません。
もっとも、受注者が、業務遂行に関する指示、受注者の労働者の管理、発注者との交渉等の権限を有する管理責任者を設置した場合、発注者は、当該管理責任者に対して指示や要望を伝えることができます。
具体的には、発注者は、管理責任者に対して業務に関する指示や要望を伝え、管理責任者は発注側と交渉などを行いながら、実際の作業を行う受注者の従業員に対して具体的な指揮命令を出して現場を管理します。
形式的に管理責任者を設置するだけではなく、管理責任者は実質的に発注者との交渉等の権限を有する者であることが必要です。
管理責任者が交渉等の権限を有する限り、作業者と管理責任者を兼任することは可能です。
イ 作業工程の指示
発注者が、作業工程等、具体的な業務遂行方法について直接受注者の労働者に指示をすることは偽装請負に該当するリスクを高めます。
発注者の意向を反映するためには、業務委託契約締結段階で発注者が重視するポイントについて発注者・受注者間で合意しておく、契約締結後は、発注者からの指示は、上記管理責任者を通して行う等の工夫が必要です。
(2)受注者が、受注者の従業員の労働時間の管理等を自ら行うこと
受注者は、受注者の従業員の配置等の決定を自ら行う必要があるのが原則です。
もっとも、販売、サービス又は保安等、業務の性質によっては、発注者が業務を実施する日時、場所、人数等を指定して発注したり、業務に従事する受注者の従業員の人数や労働時間に比例する形で料金決定したりすることに合理的な理由がある場合があります。
このように、業務の性質上、従業員の配置等に発注者の関与が必要となる場合には、発注者が受注者の従業員の労働時間の管理に関与したとしても、適切な請負・業務委託と認められる余地があります。
偽装請負に対する罰則等
(1)受注者の責任
適法な要件を満たさない労働者派遣を行っているものとして、行政指導、改善命令を受ける可能性があるほか(派遣法48条、同法49条1項)、受注者が労働者派遣事業許可を受けていない場合には、許可を受けずに、労働者派遣事業を行ったことにつき、受注者又はその代表者等に罰則が科される可能性があります(派遣法59条2号、同法62条)。
(2)発注者の責任
違法な労働者の受け入れにつき、行政指導、勧告、企業名公表の対象となる可能性があるほか(派遣法48条、同法49条の2)、派遣法上要求される派遣先としての義務を果たしていないとして、発注者又はその代表者等に罰則が科される可能性があります(派遣法61条3号、同法62条)。
(3)労働契約申込みみなし制度
発注者における労働者派遣法等の適用を免れる目的(以下「偽装請負等の目的」といいます。)のもと、偽装請負が行われた場合、原則として、発注者が外注先従業員に対し労働契約の申込みをしたものとみなされます(派遣法40条の6第1項5号)。
そして、偽装請負が終了した日から1年を経過する日までに受注者の従業員が当該申込みを承諾すれば、発注者・外注先従業員間で直接の雇用関係が成立することになります(同条2項、3項)。
裁判例では、約18年間という長期間にわたって偽装請負が継続していた事案において、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていた」場合は、特段の事情がない限り、発注者における偽装請負等の目的が推認されるとしたものがあります(大阪高判令和3年11月4日)。
Member
PROFILE