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障害者差別解消法(2)対象となる「障害」の種別①
2024.09.23
本ブログの初回では、障害者差別解消法の概要をご説明しました。2回目となる今回は、障害者差別解消法における「障害」と「障害者」の定義、および障害の種別ごとの具体的な内容についてご説明します。なお、身体障害については次回のブログでご説明いたします。
「障害」と「障害者」の定義
障害者差別解消法2条1号において、「障害」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害をいうとされています(「その他の心身機能の障害」としては、例えば、慢性疾患に伴う機能障害などが該当します。)。また、「障害者」とは、障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいうとされています。それでは、これらの障害とは、具体的にどのような状態をいうのでしょうか。この点について障害者差別解消法には定義は設けられていませんが、他の法律等にはこれらの定義が設けられているものがあります。他の法律等の定義がそのまま障害者差別解消法にも当てはまるわけではありませんが、参考にはなると考えられます。
知的障害とは
知的障害については知的障害者福祉法という法律がありますが、この法律には知的障害の定義が設けられていません。
この点については、厚生労働省が公表している「知的障害児(者)基礎調査」が、知的障害を「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義していることが参考になります。この調査では、「知的機能の障害」について、「標準化された知能検査(ウェクスラーによるもの、ビネーによるものなど)によって測定された結果、知能指数がおおむね70までのもの」とし、日常生活能力の水準を考慮したうえで、知的障害の程度を「最重度知的障害」、「重度知的障害」、「中度知的障害」、「軽度知的障害」に区分しています。
知的障害者においては、心身の発達期にあらわれた知的な機能(思考、理解、読み書き、計算、会話等の機能)の障害によって日常生活に支障が生じているため、それぞれの状態に応じた援助が必要になります。
精神障害(精神疾患)とは
「精神障害(精神疾患)」の定義は法律や診断基準によって様々です。医療で国際的に用いられている「精神障害(精神疾患)」は、WHO(世界保健機関)の国際疾病分類(ICD-11)の「精神、行動、神経発達の障害(疾患)」又は米国精神医学会の「精神障害(精神疾患)の診断・統計マニュアル(DSM-5)」に記述されている診断基準に基づいた障害です。「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(精神保健福祉法)では、「精神障害者」を「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害その他の精神疾患を有する者」(第5条)と定義しています。代表的な精神障害(精神疾患)は以下のとおりです。なお、以下の説明は、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所作成のウェブサイト「こころの情報サイト」の記載及び厚生労働省がウェブサイトにて公表している「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座(e-ラーニング版)」の記載を参考に記載しています。
- 統合失調症
統合失調症は、脳の様々な働きをまとめることが難しくなるために、幻覚や妄想などの症状が起こる病気です。 - うつ病
うつ病は、気分障害の一つで、一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じる病気です。 - 双極性障害(双極症)
双極性障害は、気分障害の一つで、うつ病とは異なり、躁状態とうつ状態を繰り返す病気です。 - てんかん
てんかんは、脳の神経細胞(ニューロン)の電気発射が外部からの刺激なしに自発的に起こる臨床症状である「てんかん発作」を繰り返し起こすことを特徴とする脳の病気です。 - 依存症
依存症は、日々の生活や健康、大切な人間関係や仕事などに悪影響を及ぼしているにも関わらず、特定の物質や行動をやめたくてもやめられない(コントロールできない)状態です。 - 高次脳機能障害
高次脳機能障害は、交通事故や脳血管障害などの病気により、脳にダメージを受けることで生じる認知や行動に関する障害です。見た目には障害が残っていることがわからないことも多く、「見えない障害」ともいわれています。
※こころの情報サイト(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
https://kokoro.ncnp.go.jp/
※「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座」のe-ラーニング版(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/e-learning/
発達障害とは
障害者差別解消法2条1号では、精神障害に「発達障害を含む」と明記されています。発達障害については、発達障害者支援法2条1項が、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義しています。
発達障害は、以下のように大きく「自閉スペクトラム症(ASD)」、「注意欠陥多動性障害(ADHD)」、「学習障害(LD)」の3つのタイプに分けられますが、これに知的な遅れを伴うこともあります。また、複数の発達障害が併存することもあります。なお、以下の説明は、厚生労働省作成のウェブサイト「生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)」を参考に記載しています。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
自閉症スペクトラム症の特徴は、社会的コミュニケーションや対人関係における障害、限定された興味・関心、反復的行動、感覚過敏(あるいは感覚鈍麻)などとされています。 - 注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害の特徴は、不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)と多動/衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)が同年齢の他者と比べて、より頻繁に、強く認められることとされています。 - 学習障害(LD)
学習障害とは、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する特異的な発達障害のひとつであり、読字の障害を伴うタイプ、書字表出の障害を伴うタイプ、算数の障害を伴うタイプの3つがあるとされています。
発達障害の概念が広まるにつれ、これまで単なる性格、個性として見過ごされてきたものが発達障害として認識されるようになり、大人になってから医師の診断等を受けることによって発達障害であることが判明するケースも増えてきました。2024年12月13日公表の文部科学省の調査結果によれば、通常学級に在籍する小学生の10.4%(小中学生の8.8%)に発達障害の可能性があるとされています。世の中の1割前後の人が発達障害であるとすると、発達障害者に対するこれまでの考え方は大きく改める必要がありそうです。
※「生活習慣病予防のための健康情報サイト(e-ヘルスネット)」(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/
ブログシリーズ「障害者差別解消法」
第1回:障害者差別解消法(1)障害者差別解消法の概要
第2回:障害者差別解消法(2)対象となる「障害」の種別① ←今回はこちら