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滑走路誤侵入防止のための航空法の改正について
2025.08.13
今回の法令ニュースは、令和6年1月2日に羽田空港で発生した航空機衝突事故を踏まえて、空港における滑走路の安全対策の強化等を内容とする航空法の改正について取り上げます。改正法は、今年の通常国会で提出・可決されました。
羽田空港航空機衝突事故について
令和6年1月2日17時47分ころ、羽田空港において、航空機2機が衝突する事故が発生しました。この事故についてはニュース等でも報道されましたので、覚えていらっしゃる方も多いと思います。
衝突事故は、図表1の「A機とB機が衝突した場所」又は図表2の④地点で発生しました。図表のA機とは、海上保安庁所属のボンバルディア式DHC-8機であり、B機とは、日本航空株式会社所属のエアバス式A350機でした(図表3及び4)。事故が発生したのは、4つある羽田空港の滑走路のうちC滑走路であり、C滑走路において離陸のために待機していたボンバルディア機に、同滑走路に着陸のために進入したエアバス機が衝突したものです。
上記事故に関しては、運輸安全委員会(航空部会)が、「海上保安庁所属ボンバルディア式DHC-8-315型JA722A及び日本航空株式会社所属エアバス式A350-941型JA13XJの航空事故調査について(経過報告)」(以下「調査報告」といいます。)を公表しており、同調査報告によれば、事故の概要は以下のとおりです。一部簡略化しています。
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【図表1】空港全景図
※調査報告より抜粋(別途記載がない場合には以下の図も同じ。)
【図表2】事故現場の概要
以上のとおり、本件の事故は、管制官が、ボンバルディア機に対して、C滑走路手前の滑走路停止位置まで走行するよう指示したのに対して、ボンバルディア機が、自機の離陸が先行する出発機より優先され、滑走路への進入許可を得たと認識して滑走路へ進入したことが、原因の一つと示唆されています。
具体的には、ボンバルディア機のCVR(コックピット・ボイス・レコーダー)に管制官から「JA722A, Tokyo TWR, good evening. No.1, taxi to holding point C5」との指示がありました。「JA722A」はボンバルディア機のことで、「No.1」は1番目に離陸すること、「holding point C5」は、インターセクション・デパーチャーを使用する場合において「C5の滑走路停止位置までの走行」を指示するものでした。インターセクション・デパーチャーとは、滑走路末端まで地上走行せず、滑走路の途中から離陸することをいいます。これに対して、ボンバルディア機の機長は、空港管制官から誘導路C5から滑走路34Rに進入し待機するよう指示されたとの認識を有していたようです。
なお、調査報告においては、ボンバルディア機の状況のみならず、航空管制官の事故までの経緯や事故発生時の事務負担、滑走路占有監視支援機能の注意喚起の発動状況、エアバス機の運航乗務員がボンバルディア機を認識していなかった原因についても詳細に検証しており、これら事項について事故との因果関係の分析が必要としています。
【図表3】ボンバルディア機(同型機)
【図表4】エアバス機(同型機)
航空法の改正
羽田空港の航空機衝突事故の直後から、国交省において羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会が設置され、令和6年6月24日には中間取りまとめが公表されました。その中では、①管制交信に係るヒューマンエラーの防止、②滑走路誤進入に係る注意喚起システムの強化、③管制業務の実施体制の強化、④滑走路の安全に係る推進体制の強化、⑤技術革新の推進が必要とされています(図表5)。
【図表5】
※国交省のHPより
かかる取りまとめを受けて、今年度国会において航空法等の改正法案が提出・可決され、令和7年6月6日に公布されました。改正法は、(1) 空港における滑走路の安全対策の強化、及び(2)操縦者へのCRM訓練(クルー・リソース・マネジメント訓練)の義務付けを定めています。
(1)は、空港設置者が遵守すべき機能確保基準に「滑走路誤進入防止措置に関する事項」を追加し、空港における航空機や車両の滑走路誤進入を防止するための安全対策の強化を図るものであり、具体的な取組例は、図表6のとおりです。(2)は頻繁に離着陸が行われる、航空交通管制圏に係る空港等において離着陸を行う操縦者は、国土交通大臣の登録を受けた者が行う技能発揮訓練(CRM訓練)を修了していなければならないとするものです。CRM訓練とは、ヒューマンエラーの発生を防止するためのパイロット間のコミュニケーション等を向上させる訓練を言います。
【図表6】空港における滑走路の安全対策の強化の取組例
※国交省の立法資料より
改正法は、一部を除いて、公布の日(6月6日)から起算して6か月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。
以上
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