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【TOB】政府令改正も踏まえたTOB制度の改正(令和6年金融商品法改正)の概要(第1回)
2025.08.19
はじめに
公開買付制度の改正を含む「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」が令和6年5月15日に成立しました。この法改正による主要な公開買付制度の改正事項は、以下のとおりです。
✓ 3分の1ルールの改正
- 閾値を3分の1から30%に引き下げるともに、市場内取引(立会内)を適用対象に追加
- 僅少な買付け等に関する適用除外を追加
✓ 3分の1ルールの改正に伴う改正
- 急速買付け規制の廃止
- 他社の公開買付期間中の買付け規制の廃止
- 形式的特別関係者の範囲の再整理
✓ 公開買付説明書の簡素化
金融庁は、令和7年3月14日、この法改正に係る政令(金商法施行令)・内閣府令・ガイドライン等の改正案を公表し、同年4月13日までパブリックコメントに付されました。その後、令和7年7月4日、改正政令・改正内閣府令が公布されるとともに、パブリックコメントに対する金融庁の考え方等が公表されました。なお、今回の改正による新しい公開買付制度は令和8年5月1日から施行されることとなっています。
今回の政令・内閣府令の改正による公開買付制度に関する改正事項は多岐に亘りますが、本稿では、その中でも重要性の高い解釈上の論点が含まれる改正事項やM&A実務への影響が想定される改正事項を中心に取り上げ、複数回に分けて解説します。
いわゆる間接取得の取扱いの明確化
今回の改正により、対象者の株券等の間接取得について、「買付け等」の範囲に含めるとともに、間接取得した対象者の株券等を、買付者の「所有」の範囲に含めることとされました。具体的には、金商法施行令6条3項3号及び新設された改正他社株買付府令2条の2第2号により、(i) 対象者の株券等を所有する中間法人の株式又は出資の有償の取得(買付け等に限定されていないため、第三者割当増資等による取得も含まれます。)であって、(ii)当該取得の後における取得者が有する中間法人の議決権の数が議決権の総数の100分の50を超えることとなり、(iii) 専ら対象者の株券等を取得し、又は対象者の株券等に係る議決権の行使について中間法人に対して指図を行うことを目的として行うものについて、金商法27条の2第1項に規定する「買付け等」の概念に含まれるものとされています。また、これにより買付け等を行ったものとされる株券等については、新設された改正他社株買付府令2条の7第2号により、金商法27条の2第1項1号に規定する買付者の「所有」の範囲に含まれることとされました。
改正前は、対象者の株券等の間接取得について、現行Q&A問15において、対象者の株券等の3分の1超を所有する資産管理会社の株式の取得は、形式的には「買付け等」に該当しないものの、当該資産管理会社の状況によっては、実質的には「買付け等」の一形態と認められる場合もあり、公開買付規制に抵触しうる、とされていたところ、今回の改正によって、一定の要件を満たす場合には「買付け等」に該当することが法令上明確にされました。
現行Q&A問15において対象とされている行為と、今回の改正により「買付け等」に該当することとなる行為については、その該当性の判断に関して、以下の点が異なります。
① 現行Q&A問15においては、資産管理会社の状況(例えば、当該資産管理会社が対象者の株券等以外に保有する財産の価値、当該資産管理会社の会社としての実態の有無等)が考慮要素とされているのに対し、改正他社株買付府令においては、資産管理会社の状況は要件とされていません(そのため、通常の事業持株会社なども該当し得ることになります。)。もっとも、以下の目的要件の事実認定に際して、資産管理会社の状況は間接事実として考慮され得ると考えられます。
② 現行Q&A問15においては、取得者の目的は考慮要素とされていないのに対し、改正他社株買付府令においては、専ら対象者の株券等を取得し、又は対象者の株券等に係る議決権の行使について中間法人に対して指図を行うことを目的とすることが要件とされています。
今回の改正は、従前、Q&Aにおいて、解釈により買付け等の範囲に含まれ得るとされていた対象者の株券等の間接取得について、法令により、一定の要件を満たす場合に「買付け等」に含まれることを明確に規定するとともに、従前は明確にされていなかった、間接取得した対象者の株券等が「所有」に含まれるか、という点についても、法令により「所有」に含まれることを明確に規定する趣旨で行われたものです。上記のとおり判断基準は現行Q&Aと異なりますが、個別事案の事実認定において、対象者の株券等の間接取得が「買付け等」に該当する範囲については、従前と大きくは異ならない可能性もあると考えられます。
なお、「買付け等」に含まれる要件である「(iii) 専ら当該株券等を取得し、又は当該株券等に係る議決権の行使について中間法人に対して指図を行うことを目的として行うもの」の該当性については、個別事案ごとに実態に即して判断されるものとされており(パブリックコメント回答No.99、100)、今後の事例の蓄積により、具体的な判断基準等が形成されることが期待されます(パブリックコメント回答No.99、100においては、法人等の営む事業を取得する目的で当該法人等の株式又は出資を取得する場合で、たまたま当該法人等が有価証券報告書提出会社の発行する株券等を所有していたにすぎない場合には、「(iii) 専ら当該株券等を取得し、又は当該株券等に係る議決権の行使について中間法人に対して指図を行うことを目的として行うもの」に該当しない旨が明確にされています。)。
今回、Q&Aも改正され、改正Q&A問9において、資産管理会社の株式の有償の取得について、改正他社株買付府令2条の2第2号の要件を満たす場合には、「買付け等」に該当することが明示されています。また、かかる「買付け等」が金商法27条の2第1項各号に該当する場合には、資産管理会社の株式の取得と「あわせて対象者の株券等について公開買付けを行う必要があ」るとされています(これを法令の文言との関係でどのように理解するかは難しいですが、改正他社株買付府令2条の2第2号によれば、同号の要件を満たす資産管理会社の株式の取得は対象者の「株券等の買付け等」に該当する以上、金商法27条の2第1項の適用上も、資産管理会社の株式の取得を「公開買付けによらなければならない」ことになりそうであるところ、改正Q&A問9は、同条項の適用により対象者の株券等に対する公開買付けを同時に行わない限り、「公開買付けによ」って取得したことにはならない(逆にいうと、対象者の株券等に対する公開買付けを同時に行えば、「公開買付けによ」って買付け等を行ったことになる)という解釈を取っているものと推測されます。)。さらに、改正Q&A問9においては、そのような公開買付けが「公開買付規制の趣旨に抵触しない」場合として、(i)資産管理会社の株式の取得とともに対象者に対する、買付予定数の上限を定めていない公開買付けを行い、(ii)公開買付開始公告及び公開買付届出書において資産管理会社の株式の取得を含む取引の全容が開示されるとともに、(iii)資産管理会社の株式の取得を通じて行われる対象者の「株券等の買付け等」における買付け等の価格が公開買付価格と同額以下であると認められる方法が例示されています。また、(iii)が認められる場合について、資産管理会社が所有する対象者の株券等が公開買付価格と同額以下に評価され、かつ、他の資産の評価の合理性につき公開買付届出書において説明がなされている場合が示されています(パブリックコメント回答No.101)。逆に言うと、ここで例示された内容を満たさないものは、「公開買付規制の趣旨に抵触」する可能性があることになりますが、このことは金商法27条の2第1項の内容から明確なわけではないため、「公開買付規制に違反する」という直接的な表現ではなく、「公開買付規制の趣旨に抵触しないよう」という表現が用いられていると考えられます。
適用除外買付け等
(1)「特定買付け等」であることの要否
現行金商法施行令6条の2において、強制公開買付け規制の適用除外となる買付け等(いわゆる適用除外買付け等)が列挙されているところ、今回の改正により、新しい類型の適用除外買付け等が追加されるとともに、規定の順序が変更され、また、既存の適用除外買付け等についても一部その内容が変更されるなどしました。
このうち、既存の適用除外買付け等についての内容変更としては、現行金商法施行令の下では、多くの適用除外買付けの類型について「特定買付け等」(買付け等の前60日間も含めて10名以内の者からの買付け等であるもの)であることが要件となっていたところ、改正金商法施行令では、①兄弟会社からの買付け等(現行金商法施行令6条の2第1項5号、改正後は7条1項7号)、及び、②グループ内で3分の1超(改正後は30%超)所有している場合におけるグループ内での買付け等(現行金商法施行令6条の2第1項6号、改正後は7条1項8号)を除き、「特定買付け等」であることは要件ではなくなりました。より具体的には、現行金商法施行令では、❶株券等の所有者が25名未満の場合の全員同意による買付け等(現行金商法施行令6条の2第1項7号、改正後は7条1項9号)、❷担保権の実行による買付け等(現行金商法施行令6条の2第1項8号、改正後は7条1項14号)、及び、❸事業の全部又は一部の譲受けによる買付け等(現行金商法施行令6条の2第1項9号)については、「特定買付け等」である必要があったところ、改正後においては、これら❶、❷、及び、❸について、「特定買付け等」である必要はなくなりました(改正後の金商法施行令7条1項但書を参照)。
このような変更の理由については特に説明がないため推測するしかありませんが、現行金商法施行令の5号(上記①)や6号(上記②)は、支配権への実質的な影響の有無に着目した例外規定(グループ内における株券等の移動であり、支配権に実質的な影響が無いと考えられることに着目した例外規定)であるのに対して、7号(上記❶)、8号(上記❷)、及び、9号(上記❸)は、買付け等の方法が特殊なものであることに着目した例外規定(実質的な意味でも支配権に影響が生じる可能性はあるものの、買付け等の態様に照らして株主が不利益を被るおそれが小さい、又は、買付け等の便宜を図る必要があることを理由とした例外規定)であり、このような適用除外買付け等とされていることの理由の違いに応じて、「特定買付け等」である必要があるか(すなわち、少数の者からの買付け等である必要があるか)に差異を設けたものであると考えられます。
改正前後の具体的な違いとしては、60日間に、市場外で10名から株券等の買付け等を行い、かつ、担保権の実行により株券等の買付け等を行い、株券等所有割合が5%を超えることとなった場合、現行制度の下では、「特定買付け等」の要件に該当しないことから(現行金商法施行令6条の2第3項)、同条1項8号の適用除外買付け等には該当しなかったところ、改正後は適用除外買付け等に該当することになると考えられます(改正後の7条1項14号)。パブリックコメント回答No.20においても、「担保権の実行による株券等の買付け等については、当該買付け等の前60日間の買付け等の相手方の人数に関わらず、公開買付けによる必要がないと考えられます。」とされています。もっとも、同回答においては、「担保権の実 行による株券等の買付け等について公開買付けを行う必要がないことを利用して、公開買付けを行わずに株券等の買付け等を行うために担保権を取得し、実行するような場合、公開買付規制に抵触するものと考えられます。」とされ、脱法行為を行う意図がある場合にはかかる適用除外規定を用いることはできない旨が明らかにされていることに留意する必要があります(現行制度の下でも、現行Q&A問18の回答で同様の趣旨が述べられています。)。
(2)第一種金融商品取引業者による取次ぎに準ずる行為
今回の改正により、第一種金融商品取引業者による株券等の売付け等の取次ぎに準ずる行為が、新たな適用除外買付け等の類型として追加されました。
いわゆる5%ルールは、主として「1対多数」の取引構造により生じ得る提供圧力から(勧誘を受ける)株主を保護する必要がある点に着目し、5%と比較的低い株券等所有割合であるにもかかわらず公開買付けを義務付けているところ、5%ルールについては、日常の営業活動等において反復継続的に株券等の売買を行っている金融商品取引業者の売買を過度に制限しているとの指摘がありました。これを受けて、第一種金融商品取引業者が市場価格を基礎として取引状況を勘案した適正な価格で顧客から行う買付け等のうち、①単元未満株式の買付け等であって、その後遅滞なく売付け等を行うために行うもの(改正後の金商法施行令7条1項1号、他社株買付府令2条の2の3第1号)、②株券等(単元未満株式を除きます。)の買付け等であって、その後直ちに売付け等を行うために行うもの(改正後の金商法施行令7条1項1号、他社株買付府令2条の2の3第2号)が、新たに適用除外買付け等に該当することとなりました。なお、上記①、及び、②は、第一種金融商品取引業者が自己の計算で行う買付け等が想定されており、第一種金融商品取引業者がその顧客の委託を受けて顧客の計算において株券等の買付け等を行う場合、それは顧客による株券等の買付け等に該当するものであって、第一種金融商品取引業者に公開買付けの実施が求められることはありません(改正Q&A問7参照)。
単元未満株式の買付け等(上記①)については「遅滞なく」売付け等を行うために、単元未満株式以外の株券等の買付け等(上記②)については「直ちに」売付け等をために行われるものであることが必要とされているところ、買付け等の時点でそのような目的を有していれば、市場の状況等により結果的に「遅滞なく」又は「直ちに」売付け等ができなかったとしても、そのことのみをもって直ちに公開買付規制に抵触するものではないとされています(改正Q&A問16)。また、顧客からの買付け等の決済に先立ち、その買付け等に係る株券等の売付け等を約定する場合は「遅滞なく」又は「直ちに」売付け等を行うために行うものと考えられることのほか(上記①、②)、他の単元未満株式の買付け等を通じて単元株式となった後に速やかに売付け等を行うことを目的としている場合には「遅滞なく」売付け等を行うために行うものと考えられること(上記①)、買付け等の約定後5営業日以内に売付け等を行うことを目的としている場合には「直ちに」売付け等を行うためのものと考えられること(上記②)が、改正Q&Aにおいて明らかにされています(改正Q&A問16)。
第一種金融商品取引業者による上記①、及び、②に該当する買付け等であっても、買付け等により株券等所有割合が30%を超える場合や、買付け等の前の時点で既に株券等所有割合が30%を超えている場合は、適用除外買付け等には該当せず、公開買付けが必要となる点には留意が必要です。パブリックコメントにおいて、上記の買付け等につき、いわゆる30%ルールについても適用除外として欲しい旨の要望が出されましたが、「株券等所有割合が30%を超える場合にも適用除外を認めることは、会社支配権に重大な影響を及ぼすような証券取引について、その透明性・公正性を確保する観点から慎重に検討すべき」との金融庁の考え方が示されています(パブリックコメント回答No.5)。
(3)二段階公開買付け
金商法においては、公開買付けに際して、一部の株主に対してのみ異なる公開買付価格を設定することは、買付価格の均一性の規制(金商法27条の2第3項)から許されておらず、また、公開買付期間中に公開買付けの手続外で特定の株主から株券等の買付け等を行うことも、別途買付けの禁止の規制(金商法27条の5)から原則として許されていません。また、公開買付けに先立って一部の大株主から市場外の相対取引で買付け等を行う場合、いわゆる急速買付け規制(現行金商法27条の2第1項4号・6号、現行金商法施行令7条2項乃至4項、7項)との関係で、公開買付けに先立って市場外の相対取引で買付け等を行う株券等は、原則として5%を超えることはできません。
そのため、一部の大株主のみから公開買付価格よりも低い価格で買付け等を行うことを企図する場合で、その大株主から買い付ける株券等が5%を超える場合には、時期をずらして、異なる公開買付価格で2回に亘って公開買付けを実施する方法(1回目の公開買付けは低い公開買付価格で大株主のみが応募することを想定して実施し、2回目の公開買付けは一般株主が応募することを想定して実施する)が採用されていました(いわゆる二段階公開買付け)。
今回の改正により、新たな適用除外買付け等の類型として、改正後金商法施行令7条1項13号が新設され、以下の同号イ乃至へ要件を充足すれば、公開買付けと並行して、市場外の相対取引により、一部の株主から公開買付価格を下回る買付価格で株券等を買い付けることが可能になりました。
イ 当該公開買付けによる買付け等を行う者と同一の者が行うものであること。 |
上記ニの要件は、令和7年3月14日に公表された金商法施行令の改正(案)においては「当該買付け等の相手方が当該公開買付けの内容を認識した上で当該買付け等に係る契約を締結したこと。」とされていましたが、要件の明確化のために修正されています(パブリックコメント回答No.14、No.15参照)。また、規定の文言上は明確ではありませんが、本号により適用除外買付け等の対象となるのは、公開買付けの対象となっている株券等と同一種類の株券等を買い付ける場合に限られるとされています(パブリックコメント回答No.17)。
二段階公開買付けには、①最短でも合計40営業日の公開買付期間が必要となる、②適切な開示を尽くしても、一般株主が先行する公開買付価格が低い公開買付けに誤って応募してしまうリスクがある、また、③強制公開買付け規制の趣旨からすれば、一般株主に対して先行する公開買付価格が低い公開買付けへの応募機会を提供する必要性は乏しいという問題点が指摘されていましたが、今回の改正により、これらの問題点の大部分が解決されることとなると考えられます。
なお、改正金商法施行令7条1項13号イ乃至の要件が充足されていれば、公開買付けによらずに行う株券等の買付け等の対象となる相手方の人数には制限がなく、また、公開買付けによらずに行う買付け等に係る買付け等の価格が公開買付けに係る買付け等の価格を下回っていれば、公開買付けによらずに行う買付け等に係る買付け等の価格は、買付け等の相手方によって均一ではなく、差異を設けることも許容されます(パブリックコメント回答No.14、No.15)。
僅少な買付け等
今回の改正によって市場での買付けにも原則として30%ルール(上記のとおり、閾値となる株券等所有割合が3分の1から30%に変更されます)が適用されることになるため(改正金商法27条の2第1項1号)、既に株券等所有割合が30%超である者が市場内で追加取得を行う場合にも、公開買付けの実施が原則として必要となります。30%ルールの適用が過剰な規制とならないよう、30%ルールの例外となる買付方法として、「僅少な買付け等」の概念が追加されました。
「僅少な買付け等」は以下の要件を充たす買付け等をいいます(改正金商法27条の2第1項1号、改正金商法施行令7条3項、4項)。
① 買付け等の前における株券等所有割合が既に30%を超えていること |
※上記の要件における「株券等所有割合」は、特別関係者がいる場合には、特別関係者の株券等所有割合を加算したものとされます。
令和7年3月14日に公表された金商法施行令の改正(案)においては、上記②の要件に関して、「僅少な買付け等」による増加割合の閾値は議決権の数を基準としており、❶買付け等に係る株券等に係る議決権の数に、買付日前1年間に行った買付け等と売付け等をネットした数の株券等に係る議決権の数を加えた数を、❷買付日における総株主の議決権の数に買付者及び特別関係者の所有に係る潜在株式に係る議決権の総数を加えた数で除することにより計算することとされていました。しかし、これに対してはパブリックコメントにおいて大要以下の指摘がなされ、増加する株券等所有割合を基準とする内容に変更されました。
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また、「僅少な買付け等」による増加割合の閾値も、令和7年3月14日に公表された金商法施行令の改正(案)では1%とされていたところ、0.5%に変更されました。さらに、当該閾値の範囲内の買付け等であっても、買付け等を行う日前6か月間において当該株券等の買付け等を行っている場合には「僅少な買付け等」に該当しないものとする除外規定が追加されました。このように、「僅少な買付け等」が適用されるケースは、パブリックコメントを踏まえ、限定される方向で変更されています。
なお、上記③の要件に関して、市場内取引において、同一日に複数の約定が成立する場合や、1回の注文に係る約定の成立が複数日にわたる場合、これらの約定に係る買付け等は、実質的にはそれぞれ1個の「株券等の買付け等」と評価することができることから、これらの1個の「株券等の買付け等」と評価される約定のうち2番目以降の約定に係る買付け等についても、その他の要件を満たす場合にはいわゆる「僅少な買付け等」に該当し得ると解されています(改正Q&A問17)。
また、上記③の要件の買付け等を行う日前6か月間における当該株券等の買付け等には、特別関係者による買付け等は含まれないものの、買付け等を行った特別関係者がペーパーカンパニーである場合のように、実質的には買付者自身による買付け等の一形態に過ぎないと認められる場合には、特別関係者による買付け等も含まれると評価される可能性があることに留意が必要です(改正Q&A問18)。
公開買付価格の均一性
金商法施行令8条3項において、公開買付価格の均一性について規定されているところ、今回の改正により、公開買付価格は「当該株券等の種類及び内容に応じ」て均一にしなければならないと変更されました。
現行法令下においては、買付け等の対象が単一の株券等である、現金を対価とする公開買付けにおける公開買付価格は、すべての応募株主等について同一の金額でなければならないことについて見解の争いはなかった一方で、複数の株券等を買付け等の対象とする公開買付けにおいて、①個々の種類の株券等ごとに均一であれば問題ないのか、②①に加えて、個々の種類の株券等の公開買付価格が形式的には異なることは許容されても、すべての種類の株券等に関し公開買付価格が「実質的に」均一であることまで必要なのか否かは議論がありました。
今回の改正及びパブリックコメント回答によって、複数の種類の株券等を対象とする公開買付けを行う場合には、すべての種類の株券等について「実質的に」公開買付価格が均一となるようにする必要があることが明確化され(パブリックコメント回答No.108、109)、「当該株券等の種類及び内容に応じ」て買付け等の価格を均一にすることが求められます。
なお、パブリックコメント回答No.108においては、「従前から内容の異なる2以上の株券等を買付け等の対象とするような場合においても、実質的に買付け等の価格が均一となるようにすべきと解されていたところ、改正後の令第8条第3項は、かかる趣旨を明確化」したとされています。上記のとおり、現行法令下においては議論が分かれていたものの、実務上は、すべての種類の株券等について「実質的に」公開買付価格が均一となるようにする必要であるという解釈を前提にしても合理的な説明が可能である公開買付価格が設定されることが一般的でした。そのため、上記パブリックコメント回答は、そのようなこれまでの実務が改正後においても通用することを示唆していると考えられます。
また、パブリックコメント回答No.107においては、例えば「普通株式2株にいつでも転換可能な種類株式B を公開買付けの対象とする場合」において、以下の①、②のような公開買付価格を設定することについて「個別事案ごとに実態に即して判断すべき」とされています。
① 転換後の普通株式の数を考慮し、種類株式Bの1株当たりの公開買付価格を普通株式 1株当たりの公開買付価格の2倍とすること |
パブリックコメント回答No.107を踏まえると、上記①、②のいずれの公開買付価格の設定方法についても、直ちに「均一」であることが否定されるものではないと考えられます。
最後に、このような公開買付価格の均一性の規制に関連して、公開買付届出書において、「株券等の種類に応じた公開買付価格の価額の差について、換算の考え方の内容」を具体的に記載することが求められています(他社株府令第二号様式記載上の注意(9))。
形式的特別関係者の範囲
金商法施行令9条において、形式的特別関係者の範囲が定められているところ、今回の改正により、形式的特別関係者の範囲が変更されました。具体的には、既存の形式的特別関係者の範囲は、(i)買付者が個人の場合は、(a)その個人の親族(配偶者並びに一親等内の血族及び姻族をいいます。)、(b)その個人が特別資本関係(総議決権の20%以上の数の議決権を保有する関係をいいます。)を有する法人等及びその役員(取締役、執行役、会計参与及び監査役(理事及び監事その他これらに準ずる者を含みます。)をいいます。)、(ii)買付者が法人等の場合は、(a)その法人等の役員、(b)その法人等が特別資本関係を有する法人等及びその役員、(c)その法人等に対して特別資本関係を有する個人及び法人等並びにその役員とされていましたが、本改正により、①(i)(a)(買付者の親族)、並びに、②(i)(b)、(ii)(b)、及び(ii)(c)の役員(買付者が特別資本関係を有する法人等の役員及び買付者に対して特別資本関係を有する法人等の役員)については形式的特別関係者の範囲から除外されることとなりました。この改正は、市場内取引(立会内)を公開買付規制(30%ルール)の対象とすることに伴い、規制の範囲が過剰に拡大することにならないようにすることを目的としています。
なお、2023年12月25日付け「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告」では、「個別事案ごとに当局の承認を得ること等によって、規制が免除される制度を設けるべき」とされる規制の1つとして、「形式的特別関係者に関する規制(一定の資本関係がある場合であっても、一定の場合には形式的特別関係者から除外することを含む)」が挙げられていたものの、個別事案ごとに当局が実質的な判断を行っていわゆる形式的特別関係者から除外する制度の整備については、形式的特別関係者が、形式的な基準に従い一律に特別関係者として扱うこととされていることも踏まえて、慎重に検討する必要があることから、今回の改正には盛り込まれないこととなりました(パブリックコメント回答No.67)。
この改正による実務上の影響としては、次の2点が考えられます。1点目は、形式的特別関係者の概念は適用除外買付け等の要件においても使用されているところ、今回の改正により、親族は形式的特別関係者から除外されますが、代わりに「関係法人等」の概念の中に親族を含めることとなりましたので、現行法令上の形式的特別関係者に該当する親族からの買付け等は、一定の要件を充たせば、「関係法人等」からの買付け等に関する適用除外買付け等として、従前どおり、強制公開買付け規制の適用除外となります(改正他社株買付府令2条の4第1項10号、2項)。もっとも、上記のとおり親族が「関係法人等」に該当するためには、「当該株券等の買付け等を行う者との間で共同して当該株券等の発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意」していることが必要となります(改正他社株買付府令2条の4第1項10号)。公開買付者である個人及びその親族が、議決権の共同行使について合意することで当該要件は充足されるため、実務上は大きな影響はないと考えられるものの、条文上は、親族からの買付け等が適用除外買付け等に該当するための要件は現行法令よりも厳しくなっています。
2点目は、形式的特別関係者(対象者株式に係る議決権所有割合が1000分の1未満のいわゆる小規模所有者を除きます(金商法27条の2第7項1号、改正他社株買付府令3条2項1号イ)。)の対象者株式の保有状況は公開買付届出書に記載する必要があるところ、形式的特別関係者の範囲から買付者と特別資本関係にある法人等の役員が除外されたことにより、公開買付届出書との関係では、それらの法人等の役員の対象者株式の保有状況の調査を行う必要がなくなり、特に公開買付者が国内外に多数のグループ会社を有している場合などにおいて、実務上の負担が大幅に軽減されると考えられます。