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EU包装・包装廃棄物規則(Packaging and Packaging Waste Regulation、Regulation (EU) 2025/40)(PPWR)の概要と実務対応のポイント
2025.10.24
はじめに
欧州連合(EU)は、包装材に関する包括的な新法「包装・包装廃棄物規則(Packaging and Packaging Waste Regulation (EU) 2025/40)」(以下「PPWR」といいます。)を導入しました。PPWRは、2025年2月11日に発効しており、発効から18か月後の2026年8月12日から適用されることになります。PPWRが適用される可能性のある事業者はこの日までに主要な義務への適合が求められますが、当該適用可能性のある事業者には、製造業(包装材メーカーを含みます。)、食品・飲料業、化粧品・医薬品メーカー、家電・電子機器メーカー、輸出入業者、卸売・小売業(Eコマースを含みます。)、流通・物流業者等が含まれます。
PPWRは、欧州グリーンディール及び循環経済行動計画の主要な柱として位置づけられており、包装材のライフサイクル全体(設計から廃棄まで)を規制することで、不必要な包装を防ぎ、再利用、詰め替え、リサイクルを促進し、発生する包装材や廃棄物の量を最小限に抑えることにより、気候中立と循環型経済の実現に貢献することを一つの目的としています。従来のDirective (指令)「包装・包装廃棄物指令(Packaging and Packaging Waste Directive、Directive 94/62/EC)」(以下「PPWD」といいます。)では、その施策につき加盟国の裁量が一定程度認められていたことから貿易障壁や競争の歪みが生じていました。これに対し、PPWRはRegulation(規則)として制定されており、加盟国による国内実施法の制定を必要とせず、EU域内で直接適用される点において従来の指令とは異なります。
本ブログでは、PPWRによって事業者がどのような対応を行う必要があるかについてのポイントを解説します。
日本企業への適用と対象範囲
PPWRは、PPWD同様、EU域内に拠点を有する事業者のみならず、EU域外に拠点を有する企業にも適用されます。したがって、EU域内に拠点を有せず、日本のみに拠点を有する製造事業者や輸入事業者(※)がEU市場で製品を流通させる場合にも適用されます。PPWRの適用開始までに要件を満たさない場合には、後述のようにEU市場で製品の販売ができなくなるといった影響が生じます。
※PPWRの規定上、EUへの「Importer (輸入事業者)」とされているため、以下「輸入事業者」と記載しますが、日本からみると輸出事業者となります。
(1) 適用を受ける経済事業者(適用対象)
PPWRは、EU市場に包装材や包装された製品を上市する製造事業者、輸入事業者、流通事業者、認定代理人など、サプライチェーン上の複数の経済事業者に義務を課します。特に日本企業の場合、EU域内に製品を輸出する製造事業者や、EU域内で製品を上市する輸入事業者が主要な対象となりえます。
この規則は、各規定の適用開始日以降にEU市場に流通する全ての包装製品に適用されるため、要件を満たすことのできない包装材を使用している場合、当該製品はEU市場に上市することができず、販売停止、製品の撤去、又は制裁措置といった重大な影響を受ける可能性があります。
(2) 対象となる「包装」の範囲(対象物)
PPWRは、製品を保護し、取り扱い、配送し、提示するために使用される全ての包装材と、それによって生じる包装廃棄物を対象とします。包装の素材はプラスチック、紙・段ボール、金属、ガラス、木材など、多岐に渡ります。
より具体的には、食品包装(プラスチックトレイ、個包装袋、スナック菓子の袋及び紙箱等)、飲料用ボトル(ペットボトル、ガラス瓶及び缶等)、化粧品・医薬品の容器(チューブ、瓶、紙箱等)、電子機器の箱(スマートフォン及びイヤホンの箱等)、洗剤ボトル並びにシャンプーボトル等が考えられます。
各事業者が対応すべき事項とスケジュール・義務の内容
対象となる包装は、大きく以下の3つの要件を満たす必要があります。
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(1) 持続可能性要件:包装の設計、構成素材、リサイクル性、最小化などに関する要件 |
(1) 持続可能性要件
関連事業者にとって重要かつ喫緊の課題となるのが、包装の設計自体を根本的に見直す必要が生じる可能性がある以下の要件です。
① リサイクル可能な包装の設計と性能等級(6条)
PPWRの核心は、「市場に出される全ての包装は、マテリアルリサイクルに対応できるように設計されなければならない」という原則です 。
- リサイクル性能等級と段階的適用:
- 全ての包装は「A」「B」「C」「技術的にリサイクル不可」の4段階で評価され、EU市場で販売するためには、リサイクル可能設計の最低基準を満たす必要があります 。
- 第1段階(2030年以降):等級C以上(リサイクル可能設計70%以上)が求められます。
- 第2段階(2038年以降):等級B以上(リサイクル可能設計80%以上)へと基準が引き上げられます 。
- 「技術的にリサイクル不可」と評価された包装を付した製品及び上記段階ごとのリサイクル可能設計の基準を満たさない包装を付した製品は、EU市場での販売が禁止されます。
- 大規模リサイクルの要件(2035年以降):
- 2035年以降、全ての包装は、単に「リサイクル可能に設計されている」だけでなく、実際にインフラによって収集・選別されることを意味する「大規模リサイクル」が行われている必要があります。
- 大規模リサイクルと見なされるためには、年間リサイクル材の量が55%以上(木材については30%)という高い目標が設定されています。
この要件に対応するには、多層フィルムや複合素材で構成された包装材について、単一素材化(モノマテリアル化)や、リサイクルしやすい代替素材への切り替えなど、包装の構造を見直すことも検討する必要があります。
② プラスチック包装材のリサイクル含有割合・再生材利用(7条)
PPWRでは、バージン素材(新たに製造された原料・素材)の使用量削減を目的として、プラスチック包装材に対する再生材の最低利用率が義務付けられます。
- 最低含有割合の義務: 2030年1月1日(又は実施規則の発効日から3年後のいずれか遅い時点)以降、PET、その他のプラスチック包装材に対し、一定割合以上のリサイクル材を使用することが義務付けられます。
- 基準の引き上げ: 2040年に再生材の最低含有率がさらに引き上げられる予定であり、長期的なリサイクル材の安定調達と、リサイクル技術の安全な確保が関連事業者に求められます。
③ 有害物質の使用規制(5条)
PPWRは、包装材に含まれる特定有害物質の使用についても厳格な制限を課しています。
- PFAS規制:2026年8月12日以降、食品接触包装材におけるPFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)の含有量濃度に基準値が設けられ、それを超える場合、上市が禁止されます。
- 重金属規制:全包装において、使用される鉛、カドミウム、水銀、六価クロムの合計濃度は、引き続き100 mg/kg以下でなければなりません。
④ その他の重要な持続可能性要件
PPWRの持続可能性の柱として、その他包装材の設計、使用及び廃棄に関する以下の追加的な要件が設定されています。
- 包装の最小化(10条):2030年以降、包装は製品の機能維持に必要な最小限の重量と体積で設計されなければなりません。二重底や不必要な多層構造など、不必要に体積を増やすことのみを目的とする包装は禁止されます。
- 再利用可能な包装(11条): 再利用可能な包装とみなされるためには、消費者の健康、安全、衛生に関する要件を満たしたうえで、再利用・再充填することを目的として設計され、市場に投入される等の要件を満たす必要があります。
- 堆肥化可能な包装(9条):2028年2月12日以降、製品と一緒に使用され破棄される浸透性のティーバッグやコーヒーバッグ等及び果物や野菜に貼付される粘着シールラベルは、堆肥化可能であることが求められます。
(2) ラベル規制(統一ラベルによる情報開示)(12条)
PPWRでは、2028年8月12日(又は施行規則の発効日から2年後のいずれか遅い時点)以降、包装材の分別やリサイクルに関する正確な情報を消費者に伝えるため、統一ラベル表示が義務付けられます。
(3) 適合性と市場管理に関する要件
PPWRの適用を受ける製品をEU市場で販売を継続するためには、上記の設計要件に加え、以下の管理体制を構築する必要があります。
①適合性評価と技術文書・適合宣言書の作成(35条から39条)
製造事業者は、自社の包装がPPWRの全ての持続可能性要件・ラベル要件を満たしていることを証明するため、適合性評価を実施し、その結果を記載した技術文書を作成するとともに、適合宣言書を作成・保存する義務があります。
②拡大生産者責任(EPR)の義務(45条から47条)
PPWRの適用を受ける事業者は、拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)制度に基づく義務を履行する必要があります。事業者は拡大生産者責任における「Producer (生産者)」に該当する場合、製品のライフサイクル全体を通じて生じる費用を負担する必要があります。この生産者の負担費用は、将来的にはその包装のリサイクル性能等級に応じて調整される見込みであり、リサイクル性の高い(等級Aに近い)包装材を使用する事業者は、リサイクル性の低い包装材を使用する事業者よりも、EPRの費用負担が軽くなる可能性があり、包装設計への投資を促す経済的インセンティブとなることが想定されます。
③生産者管理簿への登録(44条)
生産者は、包装を利用する場合、加盟国が作成する生産者登録簿へ登録する必要があります。一方で、認定代理人や生産者責任組織への委任も可能であるとのことであり、日本にのみ拠点を有する事業者については、これらの登録及び委任の対応について注意を払う必要があると考えられます。
④再利用システムへの参加(27条)
再利用可能な包装材を使用する経済事業者は、再利用システムに参加し、包装が同システムに適合することを確保しなければなりません。各経済事業者は、2030年以降、一定割合の包装が再利用可能な包装であることを確保する義務を負います。
違反のリスク:市場アクセス禁止と罰則
PPWRの要件を満たすことができない場合、事業者はEU市場での販売停止など、事業運営に重大な影響を及ぼすリスクに直面します。主なリスクは以下のとおりです。
(1) EU市場アクセスの中断・禁止(4条、62条)
PPWRに適合しない包装材を使用した製品は、適用開始日以降、EU市場での販売ができなくなります。また、PPWRの各義務への違反がある場合、加盟国は当該違反を解消するよう違反経済事業者に求めるとともに、当該事業者に対し、製品の回収や撤去を確実とするためのあらゆる措置を講じるものとされています。
(2) 加盟国による罰則の適用(68条)
PPWRの規定は、加盟国に対し、2027年2月12日までに、規則の規定に違反した場合に適用される罰則を定めることを義務付けています。この罰則は、効果的であること(Effective)、釣り合いが取れていること(Proportionate)、抑止力があること(Dissuasive)の3つの原則を満たす必要があります。
具体的な罰則内容については、各加盟国が国内法で定めることとされていますが、当該罰則は、単なる軽微な罰金ではなく、違反行為が繰り返されないように、事業者の経済活動に実質的な影響を与えるレベルの罰則が設定されることが想定されています。製造事業者や輸入事業者は、市場アクセス禁止のリスクに加え、加盟国が定める罰則(巨額の罰金等になる可能性もあります。)のリスクも負うことになります。
おわりに
ここまで、PPWRのポイントについて解説してきました。本解説はPPWRの内容を網羅したものではなく、また、今後下位規則等で詳細な基準等が規定されることとなっているものもありますので、今後の当局の動きを注視する必要があります。
EUが目指す循環経済への移行は、包装の設計段階からリサイクル材の利用、そして廃棄物管理まで、サプライチェーン全体にわたる変革を企業に求めています。
PPWRへの対応は、EU市場での競争優位性を確保し、企業のサステナビリティ(持続可能性)を証明するための重要な試金石となります。猶予期間は限られており、2026年8月12日の適用開始に向けて、現在の体制を点検するとともに、自社に必要な対応策を早急に確認・実施することが求められます。

