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【令和元年改正会社法特集】 改正会社法施行前より検討・対応すべき事項のまとめ(株主提案権の制限)
2021.01.18
「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」といいます。)が、2019年12月4日に成立し、株主提案権の制限を含むその一部が2021年3月1日より施行されます。
本稿においては、株主提案権の制限について、その内容や、改正会社法の施行前に対応しておくべき事項について、解説いたします。
株主提案権の制限
株主提案権とは、一般に、以下の3つの権利の総称をいいます。
①議題提案権・・・株主が、一定の事項を株主総会・種類株主総会の目的(議題)とすることを請求する権利(会社法303条1項、325条)
②議案提出権・・・株主が、株主総会・種類株主総会において、すでに株主総会の議題とされている事項について、自ら議案を提出することを請求する権利(会社法304条、325条)
③議案要領通知請求権・・・株主が、株主総会・種類株主総会の目的である事項につき、議案の要領を招集通知に記載・記録することを請求する権利(会社法305条1項、325条)
改正会社法においては、株主提案権の濫用的な行使を制限する目的で、③議案要領通知請求権について、改正が行われました。すなわち、取締役会設置会社の株主が、議案要領通知請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が10 を超えるときは、会社は「十を超える数に相当することとなる数の議案」(超過議案)について、議案要領通知請求を拒絶することができる旨の改正がなされました(改正会社法305条4項)(注1・注2)。
また、「十を超える数に相当することとなる数の議案」は、株主が議案相互間の優先順位を定めている場合を除いて、原則として、取締役がこれを定めることとされました(改正会社法305 条5 項)。
対応すべき事項
取締役による、「十を超える数に相当することとなる数の議案」の決定方法については、あらかじめ何らかのルールを定めておかなければ、実務上の混乱が生じるおそれがあります。
また、株主が取締役の議案の決定方法に不服がある場合、議案の要領を株主総会の招集通知に記載することなどを求める仮処分の申立てを行うことや、取締役や会社に対して損害賠償請求をすることなどが考えられるとされており(注3)、取締役が恣意的に議案を決定してしまいますと、これらのリスクを負う可能性があります。
そこで、取締役会設置会社は「十を超える数に相当することとなる数の議案」の決定方法について、あらかじめ、株式取扱規程において定めておくことが考えられます。取締役は、決定方法が合理的なものである限り、当該決定方法にしたがって超過議案を決定することができると考えられています(注4・注5)。
合理的な決定方法として、立案担当者解説では、以下のような規定が例示されております(注6)。
「議案を、原則として、株主が記載している順序に従って、横書きの場合には上から(縦書きの場合には右から)数えて決定するものとするが、議案が秩序立って記載されていないなど、その順序を判断することが困難である場合には、取締役が任意に選択するものとする方法」
実務的には、株主が10を超える数の議案の提案を請求した場合に備え、上記のとおり株式取扱規程に予め規定を定めておき、そのような事態が実際に発生した場合には、株主にいずれの議案を優先するか等確認し、株主からの確認が取れない場合に当該株式取扱規程に従って対応するということが考えられます(注7)。
改正会社法が適用される時期
最後に、株主提案権の制限に関する改正は、2021年3月1日から施行されますが、施行日前にされた議案要領通知請求については、なお従前の例によることとされています(改正会社法附則3条)。
このように株主提案権の制限に関する改正は、2021年3月1日から適用されることとなりますが、上記のとおり、取締役が恣意的に議案を決定した場合には、議案の要領を株主総会の招集通知に記載することなどを求める仮処分の申立てや、取締役又は会社に対する損害賠償請求をされる可能性があるため、取締役が恣意的に議案を決定したとみられないよう、改正会社法が適用される2021年3月1日より前から、株式取扱規程を改定するかどうかの検討を進められるのが望ましいといえます。
本稿について、ご質問がある場合には、以下のメールアドレスまでお問い合わせください。
tmi-blog-inquiry@tmi.gr.jp
今般の改正会社法についてより詳しくお知りになりたい方がいらっしゃいましたら、弊所より、「実務逐条解説 令和元年会社法改正」も発刊されておりますので、ご参照いただければ幸いです。
https://www.shojihomu.co.jp/publication?publicationId=14602864
注1 株主が、株主総会の議場において提出する修正動議については、議案の数の制限は適用されません。
注2 役員等の選任又は解任等に関する議案については、選任又は解任しようとする役員等の候補者の数にかかわらず、これを1の議案とみなすとされております(改正会社法305条4項1号、2号)。また、定款の変更に関する議案については、2以上の議案について異なる議決がされたとすれば、当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを1の議案とみなすとされております(改正会社法305条4項4号)。
注3 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』64頁(商事法務、2020年)
注4 竹林・前掲注3)63頁
注5 取締役が、「十を超える数に相当することとなる数の議案」を決定することが難しいと考えた場合には、当該取締役の判断により、議案要領通知請求を拒絶しないことも認められます(竹林・前掲注3)64頁)。ただし、株主平等原則(会社法109条1項)に反するような取扱いはできないため注意が必要です。
注6 竹林俊憲ほか「令和元年改正会社法の解説[Ⅱ]」旬刊商事法務2223号10頁
注7 会社は、株主が提出した議案の数が10を超えているとして、一部の議案について議案要領通知請求を拒絶する場合であっても、当該株主に対してその判断を通知する義務は負わないものの、会社が任意に株主に対してその判断を通知し、株主との間で意思疎通を図り、両者間の認識の齟齬の解消を試みることは妨げられないと考えられています(竹林・前掲注3)64頁)。