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【裁判例】令和2年(行ケ)第10066号 2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器事件
2021.11.08
判決の内容
訂正後の請求項1に係る発明(本件発明1)の進歩性の判断を維持した一方で,訂正後の請求項2,3に係る発明(本件発明2,3)の進歩性の判断には誤りがあるとして無効審決の一部が取り消された事例。
事件番号(係属部・裁判長)
知財高裁令和3年1月14日判決(判決要旨)(判決全文)
令和2年(行ケ)第10066号(知財高裁第2部 森義之裁判長)
無効審判請求成立審決に対する審決取消訴訟
事案の概要
発明の名称を「2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器」とする特許第5892573号(本件特許)に係る無効審判請求事件において,特許庁が,本件発明1-3について進歩性を否定し,無効審判請求は成立する旨の審決を下したことに対して,無効審判被請求人である原告が取消しを求めた事案。本件発明2に関して,特許庁は,本件発明2と甲2(中華民国実用新案公告第M430142U1号公報)に記載の発明(甲2発明)との間の相違点A,Bを認定した上で,両相違点A,Bのいずれも,当業者が容易に想到し得たものであると判断し,本件発明2の進歩性を否定した。本判決は,甲2発明に,甲1(中華民国実用新案公告第M428641U1号公報)に記載の甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ(2軸ヒンジ)において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521,第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸534により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回転軸12を交互に回転させるようにした点」との技術的事項を適用する動機付けはないというべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構成とすることが甲1文献により動機付けられているということはできないから,本件審決の判断は誤りであるとして,審決の一部を取り消した。
主な争点に対する判断
(1) 結論
甲2発明において,相違点Aに係る本件発明2の構成とすることは,甲1文献記載技術的事項2に基づいて当業者が容易に想到し得たものといえるとした本件審決の判断は誤りである。
(2) 理由
ア.相違点Aについて
相違点Aは,以下のとおりである。
本件発明2は,「第1ヒンジシャフト(10)」と「第2ヒンジシャフト(12)」とを「平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材」を「所定間隔を空けて設けられ」「て成る連結部材(20)及びスライドガイド部材(22)」とし,「第1ロックカム部材(23)」,「第2ロックカム部材(24)」及び「ロック部材(21)」は,「前記連結部材(20)及び前記スライドガイド部材(22)の間に」「設けられ」ており,しかも,「ロック部材(21)」は,「前記連結部材(20)と前記スライドガイド部材(22)に対しスライド可能に係合される」ものであるのに対し,甲2発明は,第1回転軸11と第2回転軸21とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する部材である「接続部材3」に対して,「第1当接部112」及び「第2当接部212」は隣接して設けられ,また,「摺動位置決め部34」は,「接続部材3」の「軌道部33に沿って摺動する」ように設けられている点。
イ.甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けの有無について
(ア)本件審決では,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2が記載されているところ,甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明1の構成とすることは容易であると判断した。本判決では,甲2には,「本考案で開示されている開閉が安定した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落[0016])との記載があり,同記載と甲2の図2からすると,甲2発明に係るヒンジは,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えていることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術的事項2を適用する必要はない。
(イ)甲1発明における第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片53は,機能的に連動しており,一体的に構成されているといえる。また,切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522,支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411も,機能的に連動しており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されているといえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転可能に支持できる構成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がないことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用する動機付けはないというべきである。
ウ.相違点Aの容易想到性について
したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないというべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構成とすることが甲1文献により動機付けられているということはできない。以上より,本件発明2が,甲2発明に甲1文献に記載された技術を適用して,容易に発明できたということはできず,本件発明2に係る原告の取消事由2は理由がある。
コメント
審決においては,相違点Aについては,甲1文献記載技術的事項2が記載されているところ,甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,相違点Aに係る本件発明2の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものといえると判断した。
これに対して,本判決では,①甲2発明に係るヒンジにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術的事項2を適用する必要はないと判断し,審決の上記判断を排斥した上で,さらに,②甲1発明における複数の構成部材が一体的に構成されている事情から,これらの構成部材の一部のみを恣意的に取り出して甲2発明に適用する動機付けはない旨を判断した。
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