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【シンガポール】知的財産関連法の改正について
2022.04.28
はじめに
シンガポール議会は、2022年1月12日、特許法・商標法をはじめとする知的財産関連法の改正法(The Intellectual Property (Amendment) Act 2022)(以下「本改正法」といいます。)を可決しました(注1)。本改正法は、知的財産権の登録手続をより効率的かつビジネスに適したものとすることを目的としており、2022年4月29日より施行されます。
本改正法は、①ビジネス利便性の向上、②運用効率の改善、③法令及び手続きの明確化を大きなテーマとしており、本改正法に基づく改正により、シンガポールでの知的財産権の登録手続きがより使いやすいものとなることが期待されています。また、本改正法の施行にあわせて、出願料等の各種手数料が増額されるとともに、シンガポール知的財産庁(以下「IPOS」といいます。)の新たなオンラインファイリングシステム(IPOS Digital Hub)が導入されます。そこで、本改正法による主な改正内容をご紹介させていただきます。
特許法(Patents Act 1994)の改正内容
(1) 国際出願の英訳公開申請手続き・公開手数料の廃止
英語以外の言語で出願された国際出願の国内移行段階において、英訳の公開を求める申請書(Form 36)の提出手続き及び英訳の公開手数料が廃止されます。これにより、国内移行の際に英訳が提出されている場合には、出願公開にあわせて自動的に英訳も公開されることになります。
(2) 審査段階における関連書類の提出義務の簡素化
優先権主張を伴う出願の場合又は出願の欠落部分を追補する場合に、関連する先行出願の写し及びその英訳を提出する必要がなくなります。また、登録官が出願人に対して英語での調査報告書又は国際調査報告書の写しを提出している場合には、出願人は審査報告書を申請する際に調査報告書の写しを提出する必要がなくなります。
(3) 補正指令書による補正命令
現行の特許法では、実体審査において審査官が補正の必要があると認めた場合には、出願人に対して見解書(Written Opinion)を提供することになっていますが(特許法29条7項)、審査手続きをより迅速に進めるため、本改正法では、実質的な応答が必要なく、軽微な補正で対処できる場合には、見解書に代えて、補正指令書(Invitation to Amend)を出願人に提供し、補正を求めることで足りることとされています。補正指令書を受領した出願人は、2か月以内に補正に応じるか又は拒絶する必要があり、この期限は延長することは認められません。
(4) 登録官による裁量公開
本改正法により、登録官は、第三者からの請求がない場合であっても、裁量によって、公開された出願に関する一切の情報及び書類を公開することができるようになります。
商標法(Trade Marks Act 1998)の改正内容
(1) 部分登録制度の導入
商標出願が登録要件を満たさない場合、登録官は、その出願を拒絶することに加え、登録要件を満たす指定商品・役務に関する部分のみの登録を認めることができるようになります。登録官が部分登録を認めた場合には、登録要件を満たさない指定商品・役務に関する部分は出願が取り下げられたものとみなされます。
(2) 回復申請期間の短縮
所定の期限内に応答しなかった等の理由により取り下げられたとみなされる商標出願について、現行の商標法では取り下げられたとみなされた日から6か月間は回復の申請を行うことができますが、本改正法では回復申請の期間が2か月に短縮されることとなります。
各種費用の増額・新たなオンラインファイリングシステム(IPOS Digital Hub)の導入
本改正法の施行にあわせ、2022年4月29日より、出願料等の各種手数料が増額されます。詳細はIPOSの通達(Circular No. 1/2022・2/2022のAnnex B)(注2)に記載されていますが、特許出願料は160シンガポールドルから170シンガポールドルに、商標出願料は1区分あたり240シンガポールドル(IPOSの事前承認データベースに登録されている商品・役務のみを指定する場合)/341シンガポールドル(IPOSの事前承認データベースに登録されている商品・役務以外の商品・役務を指定する場合)から、それぞれ280シンガポールドル/380シンガポールドルに増額されます。
また、IPOSは、知的財産権の登録手続をより効率的かつビジネスに適したものとするために、新たなオンラインファイリングシステムであるIPOS Digital Hubを導入することとしました。IPOS Digital Hubは、2022年5月4日の12時から運用が開始される予定です。これに伴い、現在のオンラインファイリングシステムであるIP2SGは、4月29日の午前0時をもって使用できなくなり、4月29日から5月3日までの間は、オンラインファイリングができなくなりますので、ご注意ください。
※2022年5月2日追記
IPOSは、2022年4月28日に通達(Circular No. 3, 4, 5/2022)(注3)を発行し、IPOS Digital Hubの運用開始日を2022年6月2日の12時に延期することを発表しました。これに伴い、本改正法の施行日(各種手数料の増額を含みます。)も2022年5月26日に延期されることとなりました。また、現在のオンラインファイリングシステムであるIP2SGは、5月26日の午前0時まで使用することができるようになり、5月26日から6月1日までの間はオンラインファイリングができなくなります。
(注1)https://sso.agc.gov.sg//Acts-Supp/7-2022/Published/20220228?DocDate=20220228
(注2)https://www.ipos.gov.sg/docs/default-source/default-document-library/annexb-circular-11mar2022.pdf
(注3)https://www.ipos.gov.sg/news/updates/ViewDetails/circular-revised-launch-date-for-ipos-digital-hub-decommission-date-for-ip2sg-effective-date-of-legislative-amendments-and-fee-updates-excluded-days/
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