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才口弁護士に聞いてみよう(22)
2022.06.01
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
才口先生は、どのような観点から、受任する事件と、お断りをする事件を判断されていらっしゃいますでしょうか。自分の許容量の問題に加え、筋の問題、能力の問題など、いろいろな観点で受任判断に迷う場面があるように感じています。弁護士を職に選んだ以上、ご依頼のあったことについてはすべて力になりたいのが本音ですが、現実はそうもいかず、どのように自分の中で基準を作っていくか、悩んでいます。
個人や組織の実際の力量である「身の丈」を知ることです。
生業として選ばれた“弁護士”も存外容易な稼業ではありません。
弁護士の使命は、人権の擁護と社会正義の実現にあり(弁護士法第1条)、その職務は訴訟事件、非訟事件、行政不服申立、その他一般の法律事務です(同法第3条1項)。
メガローファームに在職される弁護士は、訴訟・非訟・行政事件などに関与される方もおられますが、その多くはファイナンス、M&A、エンタメ等特化された専門分野を生業とされ、これらは前第3条1項末尾の「その他一般の法律事務」の関与です。
弁護士の職務は委任による代理関係が原則ですが、昨今は能動的事件も増えています。
事件受任の判断基準は、弁護士の職責の根本基準である弁護士法第2条に規定される「深い教養の保持と品性の陶冶」に依拠する問題です。その選別は、個々の弁護士の資質や素養に負う部分が多く、学問によって容易に選別の基準値である人間性や知性が磨き高められるものではありません。その多くは経験により学習しますので、“失敗は成功の母”の慣用句を身もって体現してください。
受任の際に心がけるべき要点は次のとおりです。
(1) 事件の筋と軸
事件には「筋」と「軸」があります。弁護士は「法の支配」の下で紛争を解決しなければなりません。「軸」をずらし、“屁理屈”こねて紛争解決をしてもクライアントは喜ぶかもしれませんが、法曹人として顧みれば気恥ずかしい事件になります。
紛争解決は「法の支配」の下に正論をもって旨とすべきです。
まず、相談内容から事件の「筋」を推論して落としどころを探ります。事実関係の確認は書証を優先して人証は第二義とします。控訴審・上級審事件はともかく同業者の関与事件は避けます。日弁連の機関紙「自由と正義」末尾記載の懲戒事案の点検や目配りが必要です。
(2) 受任能力
弁護士の力量の問題です。研鑽と経験と専門性によって培われますが、組織力も紛争解決の原動力です。メガローファームはパートナーの傘下にアソシエイトはじめ、パラリーガルに至るまで多くのスタッフを擁しています。問題は如何に適材適所の人財を駆使するかです。機敏にして的確な判断能力者を参謀として登用して自己の力量不足を補います。
(3) 不受任事件の対応
弁護士職務は有償ですから“がりがり亡者”になることを避けます。得てして甘い話には謀略があり、その選別の眼力も弁護士の素養の一つです。不受任事件の対応は簡潔・丁寧を旨とします。回答は表現が簡単で要領を得たものであり、必要に応じて書面に認めておけば紛争の予防になります。また事件のコンフリクトは不受任の正当事由ですが、当事務所程度の規模になれば弁護士間にことのほか利害対立があることを再認識し、チェックを怠りなく行いましょう。
ご下問に対する回答が新人弁護士研修の「講話」めいてきました。“てんから和尚にはなれない”とは名言です。八十路を超えた老骨が研鑽と経験から得た偽らざる心境です。
現在、郷里の長野では7年に一度の“善光寺御開帳”が開催されています。
ご本尊の「阿弥陀如来像」は身の丈『一尺五寸』(約50㎝)と伝承されます。
このご本尊に繋がれている回向柱に手を触れて極楽安養浄土を願うのです。
「身の丈」の効用は単に計測的長短だけではありません。
“御開帳”は今月末の前立本尊御遷座式をもって幕を閉じます。
完
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