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【スマートシティ連載企画】第14回 オンライン診療指針の改訂のポイント
2022.06.27
はじめに
スマートシティでは、日々の健康状態やライフログが可視化され、これらのデータが健康診断データなどと共に電子カルテに統合されるとともに、発病が疑われる場合には、自宅にいながら、最適なオンライン診療やオンライン服薬が提供されることなどが期待されています。
※オンライン服薬指導については以下のページをご参照ください。
https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2022/13576.html
昨今、新型コロナウイルス感染症の流行拡大等に伴って、オンライン診療が徐々に普及しておりますが、オンライン診療については、主として医師法20条(※)への抵触の有無が法的な論点として挙げられており、これに対して、厚生労働省は、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「オンライン診療指針」といいます。)を策定し、医師法20条等との関係で適法と判断される適切なオンライン診療及びオンライン受診勧奨の在り方を示しています。
そして、今般、「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」における検討の結論を踏まえ、令和4年1月にオンライン診療指針が改訂されましたので(以下「本改訂」といいます。)、本ブログでは、その主な改訂内容を紹介いたします。
(本ブログは、2022年2月21日に投稿した記事を、スマートシティ連載企画向けに加筆し転載しております。)
※医師法20条
〔無診察治療等の禁止〕 第20条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。 |
オンライン診療指針の主な改訂内容
本改訂以前のオンライン診療指針においては、初診対面の原則が定められており、初診からオンライン診療を実施できるケースは例外的な事案に限定されていましたが、本改訂においては、初診対面の原則が大幅に緩和され、初診からオンライン診療を行うことができるケースが増えました。
具体的には、本改訂において、以下のケースにおいて、初診からオンライン診療を行えることとなりました。
① 「かかりつけの医師」(=日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師)が行う場合
② 既往歴、服薬歴、アレルギー歴等の他、症状から勘案して問診及び視診を補完するのに必要な医学的情報を過去の診療録、診療情報提供書、健康診断の結果、地域医療情報ネットワーク、お薬手帳、Personal Health Record等から把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合(なお、この場合、事前に得た情報を診療録に記載する必要があります。)
③ 以下のいずれかに該当し、医師が診療前相談を行った上で初診からのオンライン診療を行う場合(診療前相談を行った後に引き続いてオンライン診療を実施することが可能です。なお、オンライン診療の実施後、対面診療につなげられるようにしておくことが、安全性が担保されたオンライン診療が実施できる体制として求められます。)
- 「かかりつけの医師」がオンライン診療を行っていない場合や、休日夜間等で、「かかりつけの医師」がオンライン診療に対応できない場合
- 患者に「かかりつけの医師」がいない場合
- 「かかりつけの医師」がオンライン診療に対応している専門的な医療等を提供する医療機関に紹介する場合(必要な連携を行っている場合、D to P with D の場合を含みます。)や、セカンドオピニオンのために受診する場合
オンライン診療では、得られる情報が視覚及び聴覚に限られる中で、可能な限り、疾病の見落としや誤診を防ぐ必要があること、また、医師が、患者から心身の状態に関する適切な情報を得るために、日頃より直接の対面診療を重ねるなど、医師-患者間で信頼関係を築いておく必要があることから、上記①が原則となります。
上記③の「診療前相談」とは、「日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師以外の医師が初診からのオンライン診療を行おうとする場合(医師が患者の医学的情報を十分に把握できる場合を除く。)に、医師-患者間で映像を用いたリアルタイムのやりとりを行い、医師が患者の症状及び医学的情報を確認する行為」と定義されており(診断、処方その他の診療行為はこれに含まれません。)、医師が適切な情報を把握でき、医師・患者双方がオンラインでの診療が可能であると判断し、相互に合意した場合に初診からオンライン診療を実施することが可能となります。
なお、診療前相談を行い、オンライン診療を実施する場合においては、診療前相談で得た情報を診療録に記載する必要があり、オンライン診療に至らなかった場合にも診療前相談の記録は保存しておくことが望ましいとされています。
次に、オンライン診療の限界として、以下の2点に注意する必要があります。
① オンライン診療の実施の可否の判断については、安全にオンライン診療が行えることを確認しておくことが必要であることから、オンライン診療が困難な症状として、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」等を踏まえて医師が判断し、オンライン診療が適さない場合には対面診療を実施する(対面診療が可能な医療機関を紹介する場合も含みます。) ことが必要となり、緊急性が高い症状の場合は速やかに対面受診を促すことが求められます。
② 初診からのオンライン診療の場合及び新たな疾患に対して医薬品の処方を行う場合は、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」等の関係学会が定める診療ガイドラインを参考に行うことが求められるとともに、初診の場合には以下の処方が禁止されます。
- 麻薬及び向精神薬の処方
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤)の処方
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方
以上のとおり、オンライン診療にはその性質上一定の制約があります。
そして、オンライン診療を行う際には、「診療計画」として一定の事項につき患者の合意を得ておくべきですが、特に初診からのオンライン診療を行う場合については、診察の後にその後の方針(例えば、次回の診察の日時及び方法並びに症状の増悪があった場合の対面診療の受診先等)を患者に説明することが求められます。
本改訂におけるオンライン診療指針の主な改訂内容は、以上のとおりです。
詳細については以下をご参照ください。
ご参照:
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月(令和4年1月一部改訂))
https://www.mhlw.go.jp/content/000889114.pdf
「「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A」(平成30年12月(令和4年1月一部改訂))
https://www.mhlw.go.jp/content/000903640.pdf
おわりに
日本の各地において、高齢化や地理的要因等により、住民が適切なタイミングで適切な医療を受けることができず症状が重症化し、医療費が増大するといった問題が生じています。高齢化に留まらず、現役世代の急減という局面を迎える日本において、医療アクセスの確保は重要性を増しており、医療アクセスに不安を抱える住民のサポート体制を整えることは、地方自治体の重要課題となっています。
スマートシティでは、住民がオンライン診療を通じて自宅に居ながら最適な医療を受けることができ、心身共に健康を保ちながら活力ある生活を送ることが期待されています。オンライン診療は、地域活性化にも資する重要なサービスであるため、スマートシティ及びオンライン診療のより一層の普及が期待されます。
最後に、私が一部執筆させていただいた書籍をご紹介させていただきます。
私は、第6章の「オンライン診療の法的留意点」を執筆させていただきましたが(本改訂の内容は反映されておりません。)、他の章においては、実際の活用事例のほか、オンライン診療の実践のために必要不可欠な情報が網羅的に紹介されておりますので、オンライン診療に関心のある方はぜひご一読いただけますと幸いです。
『オンライン診療 実践パーフェクトガイド』(日経BP/日経ヘルスケア)2021年11月29日発行
https://www.tmi.gr.jp/eyes/publication/2021/13021.html
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