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才口弁護士に聞いてみよう(25)
2022.09.03
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。今回が最終回です。
2年間にわたる老骨弁護士の拙筆「才口弁護士に聞いてみよう」のご愛読ありがとうございました。
9月3日に誕生日を迎えて満84歳になります。
最高裁判所判事退官14年、TMI総合法律事務所にお世話になって12年が経ちました。
「人生百年時代」と人生80歳のゴールが20年延び、「長生きしなければならない」との呪縛にとらわれます。そんな折に事務所のブログ執筆のご下命があり、意思、思考、創造など前頭葉を活性化させる絶好の機会を与えていただきました。
本音を語れば、毎月のご下問は難局を打開したいものが多く、結論を導くのに四苦八苦しました。自分の過去の経験を紐どき、状況を分析し、将来を展望するなど経験則により相応の回答を導きました。歴史に学ばない未来はありません。
“塵も積もれば山となる”とうとう25回目の最終回を迎えることができました。
感激と感謝そして安堵の念で一杯です。ご愛読ありがとうございました。
全ブログを分析すれば、問題は過去、現在、未来にわたります。世の中の苦難や道理は三世に通ずる事象に過ぎません。修羅場をいかに潜り抜けるかの知恵と技が必要です。
回答者の経験則としては、司法の一翼を担う弁護士から裁判官へ、そして再び弁護士に回帰した経験が結論を導くのに大いに役立ちました。“権力対抗者”から“権力行使者”へと立ち位置が変わり、あらためて弁護士の宿命や思考経路などがよく判ったのです。また、“権力対抗者”が経験した“権力行使者”の実態は回答の随所に記載したとおりです。
昨今の弁護士の苦悩は、事件処理にとどまらず書面記載の要領や自己の性格や処理能力に至るまで各人各様でした。「好きなことをやっていれば選択肢は広がる」、「失敗こそが価値がある」と先人は説いています。あきらめずに定説を疑い、別の結論を推論して自己見解を確立して下さい。事件処理は試行と経験により徐々に研ぎ澄まされます。
また、書面は表現が簡単で要領を得たものにします。簡潔な文書は相手方や裁判官を説得し、すき間のないベタ文は難解にして説得力に欠けます。契約書や報告書も同様です。
閑話休題。本稿を執筆している書斎の左側の壁に『蒼翠在眼』の色紙が懸けてあります。
窓越しに見える樹木は青々として眼に鮮やかです。揮毫の主は清朝最後の皇帝溥儀の弟で書家の愛新覚羅溥傑氏です。墨痕が鮮やかで墨の黒と色紙の白が見事に調和しています。字間・筆間があり、ベタがありません。弁護士作成の書面もかくも格調高く、感銘や納得を与えるものであってほしいと思います。
「人生百年時代」とはいえ、老骨が将来を語るのは荷が重いので所感を述べます。
イソ弁(居候弁護士)を経て、事務所を立ち上げ、“倒産弁護士”として活躍した往時とは最近の弁護士事情は異なります。事件は大手法律事務所や専門家事務所に偏在して従来型の市井の弁護士は疲弊しています。司法修習生は事案が多様で豊富な大手事務所等に殺到し、熾烈な競争を経て金銭的にも恵まれたポジションを獲得しています。その有為な新人弁護士が地位に安住して弁護士業務に意欲的ではない者を見受けます。希望した部門や指導者に恵まれず挫折した例もありますが、多くは本人の我儘や忍耐不足によるものです。
「弁護士気質」は司法制度改革や試験方法の変更により予想以上に変貌しました。
“艱難(かんなん)汝(なんじ)を玉にす”を心に銘じて奮起して欲しいものです。
終わりは前途有為な後輩諸士に贈る言葉です。
サミュエル・ウルマンの詩『青春』を愛し、職務の糧としてきました。
アメリカで活躍したドイツ人実業家であり詩人の傑作です。
“青春とは人生の或る期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ”に始まります。
人は信念と共に若く 疑惑と共に老ゆる。
人は自信と共に若く 恐怖と共に老ゆる。
希望ある限り若く 失望と共に老い朽ちる。
この三節を将来を託す後輩諸士に贈ります。
希望があれば“若く”、失望すれば老い“朽ちる”のです。
ゆめゆめお忘れなく、日々ご精進下さい。
本稿を執筆している書斎の右側の壁に『無事』の扁額が懸けてあります。
最高裁判所判事退官直前の2008年8月に揮毫した自作です。
約4年8ヵ月勤務した職場と職務に対する感謝の心境を『無事』としたためました。
2年間にわたるブログを書き終えた心境も14年前と変わりません。
完
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