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【相続ブログ】相隣関係・共有制度(3)越境した竹木の枝の切取り(民法233条)
2022.12.19
越境した竹木の枝の切取り(民法233条)【施行日:令和5年4月1日】
【改正のポイント】 |
今般の改正では、越境した竹木の枝の切取りに関するルールについて、従来の改正前民法で存在した不具合が見直されました。
以下では、QA方式で越境した竹木の枝の切取りに関するルールを全体的に見てみましょう。
Q3:テレビ番組で、隣地からはみ出てきた木の根は切ってもよいが、枝を切るのは法律違反と言っているのを見たことがあります。民法が改正され、このルールが変更されたと聞いたのですが、どのように変更されたのでしょうか。
A3:
(1)改正前民法における問題点
改正前民法においては、隣地の竹木の「枝」が境界線を越えて自らの土地に越境してきた場合、土地の所有者は、自らその枝を切除することは認められず、その竹木の所有者に対してその枝を切除するように請求することができるとされている一方で、隣地の竹木の「根」が境界線を超えて自らの土地に越境してきた場合には、土地の所有者は自らその根を切り取ることができる、とされていました。このように、越境してきた木の根は切ってよいが、枝を切るのは許されない、という差異が生じているのは、(筆者として植物学的に正しいかどうかの検証はできておりませんが)このような民法のルールの制定当時において、枝についてはその切除によって竹木そのものに影響が出る恐れが大きく、植え替えの機会を与える必要があるのに対して、枝と比較すれば根は重要ではなく、根の場合には移植の機会を与える必要はないとの考慮があった、と言われています(我妻栄『民法講義II 新訂物権法』295頁(岩波書店、電子書籍版、2021年))。
しかし、枝を自ら切除できず、その所有者に対して切除するように請求することができるのみに留まる、という規律では、不便な場面があることは容易に想像できるところです。もちろん、竹木の所有者に枝を切除するように請求したところ、これに任意に応じて、枝を切除してくれる場合には何も問題はありません。しかし、竹木の所有者が枝を切除しない場合には、土地の所有者としては、竹木の所有者に対する枝の切除請求訴訟を提起して、請求認容判決を得たうえで強制執行の手続をとる、というフローにより、ようやく枝を切除することができることになります。枝の越境が生じるたびにこのような手続を負担せざるを得ないとすれば、非常に迂遠かつ過重であり、土地の円滑な管理の妨げになっている、との指摘が従来よりなされているところでした。
このような問題意識から、今回の改正では枝の切除を容易にすることを内容とする法改正が行われました。
(2) 越境した竹木の枝の切除に関する法改正の内容
では、具体的にどのような規定が置かれたのでしょうか。改正内容を見ていきましょう。
第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り) |
1 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。 |
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。 |
3 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。 |
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。 |
(ア) 枝の切除に関する原則論
新233条1項は、「その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」という規定となっていますので、従来の原則論は維持されています。改正に関する中間試案の段階においては、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、土地所有者は、自らその枝を切り取ることができる。」と、竹木の根に準ずる内容の別の案も提案されていましたが、結局竹木の所有者の権利を無断で侵害することは却ってトラブルを頻発させる事態ともなりかねず、竹木の所有者に何らかの対処を検討させる機会を与えるべき(竹木の所有者に対する手続保障)という意見が多数であったため、現在の条文案が採用されることとなりました。
(イ) 越境した枝を土地の所有者が自ら切除することができる場合
新233条3項は、従来の原則論を前提としつつ、例外的に越境を受けている土地の所有者が越境している枝を自ら切除することができる場合を新しく定めています。
A)催告後の切除(新民法233条3項1号)
まず、竹木の所有者に対して、越境した枝を切除するように催告したものの、相当期間経過後も越境した枝を切除しない場合には、越境を受けている土地の所有者は自ら枝を切除することができます。
催告の方法について特段規定は存在しませんので、口頭による催告も許容されていると思われますが、催告したか否かで認識にずれが生じるとトラブルの元ですので、「あなたの土地に生えている木の枝が私の土地に越境しているから、越境している枝を切除してほしい。●日以内に切除がなければ、私の方で切除する。」といった内容を記載した書面を追跡サービス付の配達方法を使って送ったり、そのような内容の電子メールやファックスを送付するなどして催告し、後で催告をしたこと自体や催告の内容が争いにならないように、記録が残る形での催告方法をとることをお勧めします。
また、ここでいう相当期間とは、竹木の所有者が竹木の枝を切除するために必要と考えられる期間を指し、個別の事案により異なりますが、通常は2週間程度を要すると考えられています。
B)竹木の所有者を知ることができない場合等の切除(新民法233条3項2号)
竹木所有者を知ることができない、又は所在を知ることができない場合についても、枝の所有者に切除させるのではなく、枝による越境を受けている土地の所有者はその枝を自ら切除することができます。
もっとも、どのような場合にも「知ることができない場合」が認められるわけではなく、一定程度の努力をしてもなお「知ることができない場合」に、はじめて「知ることができない場合」に該当すると解されています。ここでいう一定程度の努力とは、個別の事案により異なりますが、基本的には、現地の調査に加えて、不動産登記簿・立木登記簿や住民票といった公的記録を確認するなどの方法により調査を尽くしても竹木の所有者、又はその所在を知ることができないとき、を指すと考えられますので、そのような一定程度の努力をしたことを後日説明できるように、取得した公的書面は手元に残しておくようにしましょう。不動産登記簿及び立木登記簿については法務局、住民票についてはお住いの市区町村で取得することができますが(なお、住民票については正当な理由が必要ですが、本件であれば、越境してきている枝を切除するため、ということになるでしょう。)、分からないことがあればお近くの弁護士等の法律専門職に相談することをおすすめします。
C)急迫の事情がある場合の切除(新民法233条3項3号)
急迫の事情がある場合についても、枝の所有者に切除させるのではなく、枝による越境を受けている土地の所有者はその枝を自ら切除することができます。
ここでいう急迫の事情とは、例えば、地震により破損した建物の修繕工事に必要な足場を組むために、隣地から越境した枝を切り取る必要がある場合や、台風等の災害により枝が折れ、落下する危険が生じている場合などが挙げられます。
個別事案によって認められるか否かは異なりますが、枝の所有者に枝を自ら切り取らせる機会を与える猶予がない程度の急迫性が認められるか否か、という基準に従って考えることになるでしょう。
D)費用負担
枝による越境を受けている土地の所有者が自ら枝を切り取ることが認められる場合において、その切除にかかる費用については、竹木の所有者が負担するべきものと解されています。これは土地所有権を侵害されているから切除する必要が生じていること、土地所有者が自ら切り取ることにより竹木の所有者が本来負っている枝の切除義務を免れることができたこと、という点が考慮されているといえます。
仮に竹木所有者が任意に費用を支払わない場合には、費用を負担した土地の所有者は不当利得(民法703条)や不法行為(民法709条)などを根拠に、枝の切取り費用を竹木の所有者に対して請求することになりますが、最終的には訴訟手続によらざるを得ないため、実際には請求する費用に対し回収費用の方が高くつくこととなり、経済合理性を欠くこと(事実上あきらめざるを得ないこと)が少なくないと思われます。
E)小括
今回の改正では、竹木の所有者により切除させる、という原則論は維持しつつ、例外的に枝による越境を受けている土地の所有者が自ら枝を切除することができる場合について規定されました。
なお、当然のことながら、新民法233条は、お隣同士の私人間の問題を解決するために私人が活用する場合のみを想定しているものではなく、私人所有の竹木の枝が国や地方公共団体が所有している道路等の土地に越境している場合において、国や地方公共団体が活用する場合も想定している規定です。
(ウ) 越境している竹木が共有状態にある場合の処理
ところで、越境している竹木が何人かの共有状態にある場合、枝による越境を受けている土地の所有者は、共有者それぞれに対して切除を求めることができるものの、共有者側にとってみれば、越境した枝の切除は共有物の変更(改正前民法251条1項)にあたるため、竹木の共有者全員の同意が必要になり、その結果として枝による越境を受けている土地の所有者は共有者全員の同意を取得するか、同意を得られない場合には、全員に対して枝の切除請求訴訟を提起する必要があることから、相当の時間や労力を費やさざるを得ない事態が生じていました。
この点について、新233条2項は「各共有者」が「その枝を切り取ることができる」と規定することで、竹木の共有者が何人いる場合であっても、そのうちの1人が枝を切り取ることができることを明文化しました。
例えば、竹木が複数名で共有されている場合、その竹木の枝による越境を受けている土地の所有者は、233条3項1号に基づく催告をする際には、同号の趣旨が竹木の所有者に切除の機会を与えることにあることを鑑みて、基本的には竹木の共有者全員に対して催告を行う必要があります。しかし、一部の共有者を知ることができない場合には、233条3項2号に基づき、当該共有者については催告を経ずとも自ら枝を切除することが可能になります。さらに、新233条2項が新設されたことにより、竹木の共有者の1人が、枝による越境を受けている土地の所有者に対して、自らに代わり枝を切除することを承諾あるいは委託した場合にも、それにより枝を切除することができるようになります。
(3) Qに対する回答
以上より、テレビ番組が言っているルールは改正民法の施行後(令和5年4月1日以降)においても原則として妥当するものの、越境をしている竹木の枝を切り取ることができる例外的な規定が新設されたことにより、一定の場合には竹木の枝による越境を受けている土地の所有者が自ら枝を切除することができるようになった、ということになります。
枝の切除のために必要な場合には、隣地を使用することも許されるようになりました(新民法209条1項3号)ので、竹木の枝の侵入により困っている土地所有者の方はご活用を検討ください。
もっとも、権利があることと権利の行使が紛争を生じさせないかは別の問題ですので、基本的には話し合いにより枝の切除を行うことをおすすめいたします。
[参考]
・法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント(令和4年10月版)」29頁、https://www.moj.go.jp/content/001377947.pdf(令和4年10月6日更新)
・法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」、https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html(令和4年11月28日更新))
・法務省民事局参事官室・民事第2課「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」99~103頁、https://www.moj.go.jp/content/001312344.pdf
・村松秀樹・大谷太編著「第2章 相隣関係の見直し 第3節 越境した竹木の枝の切取り」『Q&A 令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』49~53頁(一般社団法人金融財政事情研究会、2022)