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種類株主総会について考える(1)いつ必要になるのか
2023.01.26
種類株主総会、という制度があります。スタートアップのように種類株式を使った資金調達に慣れている方々であれば「ご存じ」のものですが、そうでない方にはそれほど親しみのあるものではありません。また、解釈はもちろんのこと、運用上も、この種類株主総会は悩ましい面もあり、また、相当に奥深いものであったりします。
そこで今回は、このよく分からない「種類株主総会」について、少し整理してみましょう。
種類株主総会?
そもそも、種類株主総会というのは何なのでしょうか。
(定義) |
まず大本になるのはこの定義規定。今では種類株式も、種類株主総会も、当たり前のものとして存在していますが、これらの制度導入時は、株主平等原則との関係など様々な議論がありました。今存在している制度は、それらの問題を一つ一つ整理した上でできあがっているものです。一口に「種類株主総会」といっても色々な意味合いを持つものがあることから、定義は(各意味合いの性質や内容をすべてカバーできるように)抽象的かつ形式的な内容になっています。種類株主の総会、というのは、分かるような分からないような感じですね。単に「総会」という言葉が使われているのも、味わい深いものがあります。
この定義を前提に、会社法が種類株主総会について特に規律しているのは、321条から325条の5か条です。これに加えて、色々なところに、種類株主総会に関する条文が散らばっています。
その効力を生じない
すなわち、この種類株主総会について、会社法は、会社がある事項を行おうとするとき、
当該事項は、…種類株主…を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。 |
という規定(や実質的に同等の規定)を置くことで、その活躍の場面を定めています。具体的には、以下の図表のとおりです。
図に記載されたパターンになります。誤解を恐れずに、思い切りざっくり(更に)まとめてしまうと、
こちらを気にしておけば、通常は、ほぼほぼカバーできてしまうと思います。
このうち、1つ目は種類株式を設定した後のエクイティファイナンスやストックオプション発行時に気にすればよいことで、3つ目(種類株式で定めた拒否権、役員選任権の対象)は当たり前といえば当たり前、4つ目の組織再編は日常的に対応が必要な状況というのは数多くの子会社を抱えるグループ企業くらいだと思いますので、結局、一番悩ましくかつ難しいのは、2つ目の「いずれかの種類株主に損害を及ぼしそうな定款変更、分割併合株主割当無償割当等、組織再編」ということになります。これが、いわゆる322条です。
322条
まず、条文を見てみましょう。
(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会) 第322条 1号 次に掲げる事項についての定款の変更(第111条第1項又は第2項に規定するものを除く。) Ⅱ 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。 Ⅲ 第1項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第1項第1号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。 Ⅳ ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第2項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。 |
1項柱書には、①1項各号に掲げる行為をする場合、かつ、②ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき、には、その(損害が及ぶ可能性のある)種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その行為は効力を生じないよ、ということを言っています。
そして、その各号は、ざっくり言うと、
1号 | 定款変更 |
1号の2 | 株式等売渡請求の承認 |
2号~6号 | 株式の併合・分割・無償割当・株主割当、新株予約権の株主割当・無償割当 |
7号~14号 | 組織再編 |
つまり、会社がこれらの行為をしようとするときで、かつ、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときには、その種類の種類株主総会をやってね、というのが会社法の基本的な発想ということになります。
但し、このルールは、原則、定款で排除することができます(2項)。すなわち、定款で「こういうときに種類株主総会をやらなくてもいいです」ということを定めておけば、その種類株主総会の承認を得なくても、ある行為を行うことができることになります。
但し、定款で排除した場合には、その反動として、「損害を及ぼすおそれがある」種類株主に株式買取請求権が認められる点には留意が必要です(116条1項3号。なお、組織再編の場合も785条、797条、806条で株式買取請求権が認められています。)。この点はあまり意識されていないことも多いため、気をつけておくべきでしょう。
そして更にややこしいのですが、このうち、1号の定款変更は、定款で定めても基本的に排除できません。排除できるのは、単元株式数に関する定款変更だけです。
以上のようなややこしいルールをシンプルに覚えておくとすると、多少不正確のきらいはありますが、
定款にどう定めていようと、定款を変更して①種類の追加、②株式の内容変更、③発行可能(種類)株式数の増加、をしようとするときは、それである株主に損害が及ぶおそれがあるのであれば、種類株主総会が必要で、原則定款でも排除不可 |
その数や株主の保有する株式・新株予約権の割合が変動する場合には、それである株主に損害が及ぼすおそれがあるのであれば、種類株主総会が必要だが、定款で排除可 |
組織再編によってある株主に損害が及ぼすおそれがあるのであれば、種類株主総会が必要だが、定款で排除可 |
ということで割り切ってしまっても良いのかもしれません(種類株主総会は、ピンときて「これ必要じゃないか?」と思うことが大切ですから、そのアンテナという意味では多少不正確でもまずは構わないと思います。)。
損害を及ぼすおそれ
そして、この「損害を及ぼすおそれ」とは何か、ということについては、研究者の先生方による様々な研究が行われています。実務としては「これはOK」「これはおそれあり」という類型化がされていると判断に迷わなくて済むのですが、それには限界があるため、比較的一般的に、
- ある種類の株主の割合的権利が、抽象的に、変更前より不利益になる場合
をもって、「損害を及ぼすおそれがある」と判断されることが多いようです。例でよく挙げられているのは、「年8%だったA種優先株式の優先配当の比率を年5%に引き下げる旨の内容変更は、配当が実際に行われるまではA種優先株主に具体的な損害があるわけではないものの、抽象的に権利が不利益に変更されているため、損害を及ぼすおそれがあるとされる」といった考え方ですね。
これは全く違和感がないところなのですが、難しいのは、例えば同じくA種の優先配当の比率を変更するとして、年5%⇒年8%のようにする場合です。このとき、A種は不利益を被ることはないので、A種優先株主による種類株主総会は不要という整理ができそうです。他方、普通株主にとってみると、この変更は、自分たちに不利益に働き得る、という見方もあり得ます(厳密には配当の定め方によりますが、A種優先配当によって使われる配当原資が増えることになる場合、普通株主に配当される金額が減ってしまうという観点)。この場合に普通株主による種類株主総会は必要でしょうか。
また、A種の内容として、配当の比率は下げるが非参加型を参加型にする、というような変更を加える場合(=不利益な変更と有利な変更が併存する場合)はどうか、などなど、実際に考えていくと、この判断は簡単ではありません。
したがって、実務では、少し保守的に考えて種類株主総会を「とりあえずやっておく」ということも十分に考えられるところですが、何もかも「該当する可能性は否定できない!」と判断するのでは制度の意味合いが減殺されてしまいます。どこまでが必要と考え、どこからは不要と考えるか、実務の程度感は人それぞれ、という状況かもしれません。
長くなってきましたので、今回はここまで。322条については面白い論点がいくつもありますので、続編にて更に深掘りしたいと思います。
以上