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【インド】【商標】インターネット上での模倣品販売に対する裁判所の暫定的救済
2023.01.25
※「インド最新法令情報‐(2023年1月号) インターネット上での模倣品販売に対する裁判所の暫定的救済‐」と同一の内容です。
はじめに
2022年8月3日、デリー高等裁判所(以下「デリー高裁」という。)は、原告の商標権を侵害する模倣品がウェブサイト上で販売されているという主張に基づく訴訟事件において、当該ウェブサイトの運営者に対して、模倣品の販売を暫定的に禁止すること、並びにインド政府当局及びインターネットサービス事業者等に対して、当該運営者を特定する情報を開示すること及び当該ウェブサイトを暫定的に無効化することなどを命じる暫定的救済(以下総称して「本件暫定的救済」という。)を付与した。
インターネット技術の発達により、ブランドの知的財産権に対する侵害がインターネット上で行われることが増加している。その結果、知的財産権者は、侵害者を特定して自己の権利を保護することが従来よりも難しくなっている。
本件暫定的救済は、インターネット上での模倣品販売において、模倣品販売者に対する暫定的差止めのみならず、第三者たるインターネットサービス事業者等に対しても模倣品販売者を特定する情報の開示等を命じるものであり、知的財産権者の権利保護に大きく寄与するものである。本号では、本件暫定的救済の概要を解説したうえで、本件暫定的救済がインドでビジネスを行う日系企業に対して与えうる影響を検討する。なお、以下では、本件暫定的救済の結論部分に直結しない事実関係を割愛している点にご留意いただきたい。
本件暫定的救済の概要
(1)事案
原告である米国企業New Balance Athletics Inc.(以下「本件原告」という。)は、1986年頃からインド国内で「New Balance」等の商標を登録し、当該商標を付した履物類を販売している。一方、氏名不詳の被告(以下「本件被告」という。)は、「www.myshoeshop.in」というウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)において、「New Balance」等の名称を付した模倣品を販売している。なお、本件被告は、本件ウェブサイト上にて、販売している履物類が模倣品であることを明言している。
本件原告は、本件被告による「New Balance」等の名称の使用が本件原告の商標権の侵害に当たると主張して、本件被告に対する模倣品販売の暫定的差止めのほか、第三者たるインド政府当局及びインターネットサービス事業者等を共同被告に加え、これら共同被告に対して本件被告を特定する情報の開示及び本件ウェブサイトの無効化等を命じる暫定的救済を求めて、デリー高裁に提訴した(事件番号CS(COMM) 531/2022)。
(2)判断内容
デリー高裁は、本件ウェブサイト上で販売している「New Balance」等の名称を付した履物類が模倣品であることを本件被告が明言していること、本件原告の商標のみならず、Adidas、Louis Vuitton及びNikeを含む多数の著名な商標も侵害されていること、並びに本件被告による模倣品の販売によって本件原告及び消費者に回復不能な損害が生じることなどが一応認められると判断し、本件暫定的救済を付与した。
具体的には、①本件被告に対して、模倣品の販売を暫定的に禁止すること、②本件ウェブサイトのドメイン名登録業者に対して、本件ウェブサイトの運営者情報を開示すること及び本件ウェブサイトを暫定的に無効化すること、③インド政府当局(電子情報技術省(Ministry of Electronics and Information Technology, MeitY)及び電気通信局(Department of Telecommunications, DoT)と思われる。)に対して、本件ウェブサイトの暫定的無効化に必要な命令を発付すること、④電気通信事業者に対して、本件ウェブサイト上の模倣品を宣伝している携帯電話番号の利用者情報を開示すること、並びに⑤インスタグラムの運営会社に対し、本件被告が「@myshoeshop」というアカウント名で開設しているインスタグラムページを暫定的に無効化することを命じた。
日系企業への影響
インドに進出する日系企業の中には、世界的に著名な商標等を有する企業が多く、インド現地企業による類似商標の使用等に長年悩まされてきた。特に近年は、インターネット上での模倣品販売が増加し、販売者の特定及び実効的な対応が困難となっている。
本件暫定的救済は、インド政府当局及びインターネットサービス事業者等に対して、模倣品販売者の特定及び模倣品販売行為が行われているウェブサイト等の停止に必要な措置をとることを命じるものであり、知的財産権侵害に対する迅速かつ実効的な対応を可能とする。そのため、本件暫定的救済は、自社の知的財産権をより迅速かつ確実に保護することを望む日系企業にとって、好ましいものといえる。
補足
本件は、ウェブサイトの運営者が模倣品を販売していることを明言していた事案だった。仮に、そのように明言していない事案においては、ウェブサイトから商品を購入し、当該ウェブサイトにおいて模倣品が販売されていることを裏付ける証拠を確保したうえで、裁判所に暫定的救済を求めることになると考えられる。
以上
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