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「担保法制の見直しに関する中間試案」について
2023.02.01
はじめに
法制審議会総会における「動産や債権等を担保の目的として行う資金調達の利用の拡大など、不動産以外の財産を担保の目的とする取引の実情等に鑑み、その法律関係の明確化や安定性の確保等の観点から、担保に関する法制の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」との諮問を受けて、2021年2月10日、法制審議会担保法制部会(以下「部会」という。)が設置された。そして、部会における議論を経て、2023年1月20日、「担保法制の見直しに関する中間試案」(以下「中間試案」という。)及び「担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明」が公表された。中間試案の段階で共通の理解が形成されている論点は必ずしも多くはないため今後の議論を注視する必要があるが、中間試案において示された方向性は、今後の実務を検討するにあたって参照すべきものである。
本稿では、中間試案のうち実体法関係すなわち「第1章・担保権の効力」及び「第2章・担保権の対抗要件及び優劣関係」について、現行法下の解釈と中間試案における提案との異同や、中間試案で提案された内容に対する異論の有無を意識しつつ、中間試案及び「担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明」を概観する。なお、本稿において「第●…」と記載するときは、中間試案の項番を指すものとする。
概要
部会は、前述の諮問のとおり、「不動産以外の財産を担保の目的とする取引の実情等に鑑み、その法律関係の明確化や安定性の確保等の観点から、担保に関する法制の見直しを行う」ことを目的とするものである。すなわち、実務上広く利用されているものの明文規定のない譲渡担保や所有権留保等について、その効力、対抗要件具備の方法及び実行方法の明文化、並びに法的倒産手続との関係の整理を図るとともに、包括的な事業担保権や、動産及び財産権以外の財産権を目的とする担保のように新しい担保権についての規律を試みている。
総論について
規律の方法として、抵当権や質権と並ぶ約定の典型担保物権として、特に動産を目的とする非占有型の担保物権を新たに設けるか(担保物権創設型)、「担保の目的で動産の所有権を移転する契約」や「担保の目的で動産の所有権を留保する契約」がされた場合に、その契約当事者が具体的にどのような権利義務を有するのかを規定していくか(担保目的取引規律型)という議論がなされていた。この点は、形式は異なっていても実質的にはそれほど大きな差はないと考えられることから、この規定の形式については最終的には法制的な観点から整理がされるものとされており(部会第12回会議議事録1頁・笹井発言)、中間試案においては実質的な内容を議論することとされるにとどまった。
この論点の存在を踏まえ、中間試案においては「譲渡担保権」等の文言は避けられており、代わりに、「新たな規定に係る担保権」等の文言が用いられている。本稿では説明の便宜のため従来用いられてきた文言も併用する。
第1章・担保権の効力について
(1) 個別動産を目的とする新たな規定に係る担保権の実体的効力について
まず、中間試案においては、動産譲渡担保権を重複して設定できること(第1.5(1))及び占有改定を対抗要件として認めること(第4.1(1)ア)が記載されている。いずれについても部会において大きな異論は認められなかったが、これらによりいくつかの論点に影響が及んでいる。
動産譲渡担保権の効力の及ぶ範囲について、付合物についても及ぶことは部会において意見の一致が見られた(第1.1)。他方、設定後に附属させられた従物について及ぶかどうかについては部会において争いがあり、本文においては、担保権設定との先後を問わず附属させた従物にも及ぶとされつつも、注においては、設定当時およそ予想されていなかった従物にまで担保権の効力を及ぼすのは妥当ではないという立場から、設定後に附属させられた従物については解釈に委ねるべきであるとの考え方も示されている(第1.1)。
設定者の権限について、設定者が目的物の使用収益をすることができることは部会において意見の一致が見られた(第1.4)。また、設定者が重複して譲渡担保権を設定できることについても部会において意見の一致が見られた(第1.5(1))。設定者が目的物を真正譲渡することができるかどうかについて、現行法においては肯定されているものの、部会においては担保目的物を第三者に譲渡できるとすると、目的物が担保権者の把握していない場所に移動されるなどして目的物の管理に支障が生ずるという観点から、設定者は目的物の真正譲渡ができないとする考え方も示された。かかる議論を踏まえ、この点については本文において両論併記されている(第1.5(2))。
担保権者の権限について、債務不履行があるまで目的物を第三者に譲渡できないことには部会において意見の一致が見られた(第1.6(1))。譲渡担保権を他の債権の担保とすること(転担保)及び担保権及びその順位の譲渡・放棄、順位の変更ができるかどうかは、実務上のニーズや公示の観点から引き続き検討するとされている(第1.6(2))。リファイナンスに活用できるとの指摘がある一方で、占有改定が対抗要件として認められるため公示の観点で難があることとの関係で、議論が続けられることとなる。
物上代位について、現行法上、代替的物上代位(目的物が滅失又は毀損した場合の代償物に対する物上代位)については認められることが通説であるとされるが、中間試案では、加えて、付加的物上代位(目的物から派生した増加価値に対する物上代位)についても認めることとされている(第1.7(1))。
根担保権は、認められる(第1.9(1))。しかし、極度額の要否、根担保権の分割譲渡の可否等、多くの論点が今後の検討に委ねられている。
(2) 個別債権を目的とする新たな規定に係る担保権の実体的効力(債権譲渡担保権)について
基本的には動産譲渡担保権と同様の規定をすることが想定されている(第2)。
(3)集合動産・集合債権を目的とする担保権の実体的効力について
現行法上、理論構成として集合物概念を介するかどうかに議論はあるが、将来取得する動産を含めて対抗要件の具備を可能とすることは概ね異論がない。中間試案においても、一定の方法により特定された範囲に属する動産の集合体(設定後に新たに動産がその集合体に加入をすることが予定されているものを含む。)を一括して目的とすることができるとされている(第3.1)。
特定性については、種類、所在場所、量的範囲その他の方法により特定された範囲に属する動産という記載がなされるのみでどのような特定がされれば十分であるかをそれ以上具体化して明らかにすることはされなかった。なお、部会においては「在庫一切」という概括的な方法による特定の可否について議論がなされたが、他の要素による特定性の高さと相関的に判断されるものであり、一概に特定方法として十分かどうかを決することはできないとの意見があったことが紹介されている。
経済的一体性等の要件の要否について、部会では動産の集合体と認められるためには、経済的一体性や取引上の一体性などの要件が必要であるとの意見も見られたが、現行法下の判例がそのような要件を要求していないこと、不明確であるがゆえに取引を阻害するおそれがあることから、中間試案では注記にとどめられた。
設定者の権限について、現行法においては、通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的である集合物を構成する個別動産を処分する権限が付与されており、その権限内でされた処分の相手方は、当該個別動産について、譲渡担保の拘束を受けることのない完全な所有権を取得することができると解されており、中間試案においても同様の記載がされている(第3.2(1))。もっとも、設定後に新たに動産がその集合体に加入することが予定されているものに限定されており、複数の動産が目的財産とされていても、そのような目的物の入れ替わりが想定されていない担保権については、この規定は適用されない(第3.2)。また、「残りの個別動産が●●個を下回らない範囲で」処分権限を認めるような合意も有効である(第3.2(1)但書き)。
設定者の権限を越えた処分がされた場合について、現行法においては目的物が集合物から離脱したと認められない限り、相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないとされている(最判平成18年7月20日)が、目的物が集合物から離脱した場合に、相手方は当然に所有権を承継取得し得るのか、即時取得が可能となるにすぎないのか等については議論が分かれている。中間試案においては、本文において即時取得による保護(設定者が権限を超えた処分をした以上、原則として相手方は権利を取得することができないが、即時取得が成立する場合には相手方は担保権の負担のない権利を取得する)がなされ得ることが記載されているが(第3.3(1))、注において集合動産から逸出をした動産の処分については別異に考えるべきであるという考え方も示されている。また、本文において、通常の事業の範囲を超えた処分がされたときであっても、相手方がその処分が通常の事業の範囲内でされたと信じる正当な理由があるときは担保権の負担のない権利を取得することが記載されているが(第3.3(2))、前掲最判平成18年7月20日が集合物からの離脱の有無により規律を分けていることに鑑み、注において目的物が集合動産から逸出をしている必要があるとの考え方も示されている。その他設定者の処分権限について別段の定めがある場合における取扱いが場合に分けて示されている。
集合債権を目的とする譲渡担保権について、現行法において認められている集合将来債権譲渡担保の有効性が、中間試案においても認められている(第3.4(1))。集合債権の特定性については、現行法においては、最判平成12年4月21日により「予約完結時に譲渡の目的となるべき債権を譲渡人が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足り」るとされている。中間試案においても、この考え方は基本的に維持されている。中間試案では、「譲渡担保の目的債権が債権発生年月日の始期及び終期並びに債権発生原因等によって特定され」ることが要求されており(第3.4(1))、これは集合債権の特定要件としては、他の債権から識別ができる程度に特定されているかが問題となることを前提に、その代表的な特定要素を掲げているものである。
集合債権の特定範囲に含まれる債権の取立権限について、本文においては設定者が通常の事業の範囲内で取立権限を有すると記載されているが(第3.4(1))、注においては、最判平成13年11月22日の判示も踏まえ、担保権者による取立権限の付与が必要であるとの考え方も示されている。
担保価値維持義務・補充義務について、一般論として認められることは概ね異論がない。しかしながら、規定化に関しては評価的な要素を含む要件を設けざるを得ず、規定を設けても法律関係が必ずしも明確になるわけではないなどの理由により、規定の要否については引き続き検討することとされている(第3.5)。
第2章・担保権の対抗要件及び優劣関係について
(1) 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等について
対抗要件について、引渡し(占有改定を含む)を対抗要件として維持し、対抗要件を登記に一元化しないことには、前述のとおり、異論が見られない(第4.1(1)ア)。
集合動産担保権の対抗要件については、現行法においては、最判昭和62年11月10日に従い、集合物を構成する個々の動産であって現存するものについて引渡しを受ければ第三者対抗要件を具備することができ、その後新たに集合物の構成部分として加入した動産があっても、これを含む集合物について対抗要件が具備されたのは、飽くまで最初に引渡しを受けた時点であると解されている。中間試案においては、この解釈は基本的に維持されている。なお、近いうちに動産が所在場所に搬入されることが予定されているなど、観念的には集合動産が存在していると認められる場合には、その構成部分として現存する物がなかったとしても、対抗要件を具備することができると考えられるため、最判昭和62年11月10日における「現存する」との文言は用いられていない(第4.1(1)イ)。
新たな規定に係る動産担保権相互の優劣について、前述のとおり、動産譲渡担保権は重複して設定されていることとの関係で問題となり、原則として対抗要件の具備の前後によることとされている(第4.1(2)ア・イ)。なお、集合動産に1個の新たな規定に係る集合動産担保権が設定されており、その設定後、個別動産担保権が設定された個別動産が加入したときには、現行法上、解釈が定まっていない。中間試案においても、本文において、集合動産譲渡担保権について対抗要件を具備した時とする立場と、個別動産が集合動産に加入した時とする立場が両論併記されている(第4.1(2)ウ)。
登記優先ルールについて、中間試案においては、動産譲渡登記によって対抗要件を具備した新たな規定に係る動産担保権は、占有改定によって対抗要件を具備した新たな規定に係る動産担保権に優先することが提案されている(第4.1(2)エ)。登記優先ルールは、新たな規定に係る動産担保権相互の優劣を定めるルールとして位置付けられており、あくまで担保同士の順位を決定するための基準であるため、真正譲渡と担保の優劣には適用されない。また、現実の引渡し、簡易な引渡し及び指図による占有移転による対抗要件具備は登記優先ルールの対象外である。なお、注においては、登記優先ルールは取引コストを増加させるおそれがあるため、登記優先ルールの適用範囲を融資金額が相対的に高額になると考えられる集合動産を担保権の目的とする場合に限定すべきとの考え方も提案されている。
留保所有権の対抗要件について、現行法上、対抗要件の要否については、所有権留保の法的構成とも関連して学説上見解が分かれている。中間試案においては、目的物の代金債権を担保する留保所有権(以下「狭義の留保所有権」という。)と、目的物の代金債権以外の債権を担保する留保所有権(以下「拡大された留保所有権」という。)が区別されている。そして、狭義の留保所有権については、本文において対抗要件の要否が両論併記されているのに対し、拡大された留保所有権については、引き渡しがなければ第三者に対抗することができないことについて異論は示されていない(第4.2(1))。
留保所有権の優劣関係について、目的物の代金債権を担保する限度では、他の新たな規定に係る動産担保権に当然に優先するとされ、その他については第三者に対抗できるようになった時の前後によるとされている(第4.2(2))。部会においては、かかる優先権を認める要件として、一定期間経過内に登記を求めるべきとの意見もあったため、これが注に記載されている。また、注において、輸入ファイナンスのように、動産を購入するための資金の融資に基づく債権など、目的物である動産と密接な関連性を有する一定の債権を担保する新たな規定に係る動産担保権についても、狭義の留保所有権と同様に取り扱い、優先権も与える考え方が示されている。
(2) 債権譲渡担保権の対抗要件等について
基本的には現行法に従った提案がなされており、債権譲渡担保については、新たな規定に係る動産担保権と異なり、登記優先ルールは採用しないこととされているが、注において登記優先ルールを採用する考え方もあったことが記載されている(第6.2)。
(3) 動産・債権譲渡登記制度の見直しについて
現状の登記制度は、譲渡人である企業の商号等を指定して検索することによって、その企業が行った全ての動産譲渡登記(及び債権譲渡登記)を知ることができる実質的な人的編成主義を採用している。そして、動産・債権譲渡登記をすることができるのは、法人による動産及び債権の譲渡並びに債権質の設定に限定されている。その効果も、引渡しや確定日付のある証書による通知・承諾とみなすといったものであり、譲渡担保権や債権質の処分等の登記は予定されていない。
このように、動産・債権譲渡登記は、物的に編成されておらず、動産や債権の特定方法は申請人に委ねられている。そのため、例えば、同一の譲渡人がある動産を担保目的で複数人に譲渡し、それぞれ動産譲渡登記をしたとしても、登記上異なる方法により動産を特定していた場合には、担保目的物の同一性は登記記録から一義的には明らかにならない(登記された目的財産の同一性判断のリスク)。
そこで、同一の動産又は債権を目的とする新たな規定に係る担保権に関する権利関係を一覧的に公示する仕組みの導入の要否が検討されている。中間試案においては、①このような仕組みを導入しないこととする案と、②新たな規定に係る動産担保権の設定の対抗要件である登記を行うこととし(第一層)、その上で、新たな規定に係る担保権相互の関連性及び新たな規定に係る担保権の処分等を公示するための目録(第二層。「関連担保目録」)を創設することとする案とが本文において両論併記されている(第7.1)。この点②案においても、登記の関連付け(共同して、関連担保目録に複数の動産・債権譲渡登記を関連付ける旨の登記)は、飽くまで当事者の申請情報を基に行われるものであって、関連担保目録で関連付けられた新たな規定に係る担保権が、実体法上先後順位関係にあることを保証するものではなく、実体法上先後順位関係にあるが、関連担保目録には記録されていない他の新たな規定に係る担保権が存在する可能性を否定することもできないことが指摘されている。
新たな規定に係る担保権の処分等を登記できるようにすることの要否及びその範囲並びにその公示方法については、引き続き検討することとされている。
登記をすることができる動産若しくは債権の譲渡人又は新たな規定に係る担保権の設定 者の範囲について、前述のとおり、現状は譲渡人として登記できる者が法人に限定されているが、中間試案では、商号の登記をした商人がする動産譲渡(新たな規定に係る担保権の設定)に限って、個人についても動産譲渡登記の対象に加えることについて引き続き検討する旨が記載されている(第7.3)。
おわりに
以上、中間試案の第1章及び第2章について紹介した。
中間試案においては、これらのほか、担保権の実行、担保権の倒産手続きにおける取扱い、事業担保制度についての提案も行われている。これらについては別途紹介する予定である。
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