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【中国】【特許】実施細則・審査基準改正(2023.12.21)-4不正出願対策
2024.03.07
本改正の概要
中国国務院は、2023年12月21日、専利法実施細則の改正条文を公表し、同日、中国国家知的財産局(CNIPA)は、専利審査基準の改正内容を公表しました。
今般の審査基準の改正は、主に、2021年6月1日から施行されている第4回改正専利法での改正事項に関連する審査基準を追加・改訂するものです。
既にお届けした実施細則改正内容の速報、(1)特許期間調整(PTA)制度に関する改正点の説明、(2)遅延審査制度に関する改正点の説明、(3)コンピュータソフト・AI関連発明審査基準の説明に続き、本文では、不正出願対策に関する実際細則、審査基準及びその他の規定の全体像をご紹介します。
本規定は、いわゆるコピー出願や水増し出願等の正常ではない出願への対策を目的とするものであり、日本の出願人による出願は、通常、その取締り対象ではありません。しかしながら、今後、日本の出願人による出願が不正出願対策にひっかかる可能性がないとは言えず、どのような出願が不正出願とみなされるのか、また、みなされた場合の救済策はあるのか、といった点について理解しておくことは有益です。
不正出願対策規定の概要
不正出願対策の法的根拠としては、2021年6月に改正された専利法に原則的な条文が追加され、2022年12月に改正された実施細則改正に、より具体的な規定が追加されました。
専利法第20条:
専利出願と専利権の行使は、信義誠実の原則を遵守しなければならない。専利権を濫用して公共利益又は他人の合法的な権益に損害を与えてはならない。
実施細則第11条:
専利出願は誠実信用の原則に従わなければならない。各種の専利出願を提出する場合は、実際の発明創造活動を基礎としなければならず、虚偽を行ってはならない。
更に実施細則では、上記条文への違反が、方式審査・実体審査段階での拒絶理由や、無効理由となること、また、上記実施細則第11条に違反した場合、当局による警告及び10万元以下の過料の対象となることが規定されました。
不正出願とは
中国国家知的財産局(CNIPA)は、実施細則及び審査基準の改正内容を公表したのと同じ2023年12月21日に、「専利出願の規範化に関する規則」を公表しました。その第3条では、不正出願とみなされる行為について、以下の8つの類型が挙げられています。この「規則」は2024年1月20日から施行されています。
- 複数の出願の発明の内容が明らかに同じ場合、又は、異なる発明の特徴・要素の実質的に簡単な組み合わせにより形成されている場合。
- 出願に捏造、偽造、変造された発明の内容、実験データ又は技術的効果が含まれる場合、或いは、従来技術又は従来意匠のコピー、簡単な置換、寄集め等に類する状況の場合。
- 発明の内容が主にコンピュータ技術等を利用してランダムに生成されたものである場合。
- 発明が明らかに技術の改良、設計の常識に合わない場合、或いは、改悪、積み重ね、又は不必要に請求の範囲を減縮したものである場合。
- 出願人が実際の研究開発活動なしに多数の出願を行っており、且つ、合理的な説明ができない場合。
- 実質的に特定の事業体、個人又は住所に関連する多数の出願を悪意で分散させ、前後させ、又は異なる地域で出願した場合。
- 正当な目的で出願をする権利を譲渡又は譲受し、或いは、発明者、設計者を虚偽に変更した場合。
- 信義誠実の原則に反し、専利業務の正常な秩序を乱すその他の非正常な専利出願行為。
また、同じく中国国家知的財産局(CNIPA)が2021年3月に公表した「専利出願行為の規範化に関する弁法」では、不正出願行為が9つの類型に整理されています。その内容は、特許事務所・専利代理師による不正出願の誘導・教唆等の行為が含まれる以外は、上記「規定」と同様です。
不正出願に対する国家知識産権局の運用
中国の増大する特許・商標出願が国内外の登録機関のリソースを圧迫している、と指摘する米国政府からの外圧もあり、国家知的財産局(CNIPA)は近年、不正出願対策に非常に力を入れています。特に2021年以降は専門の対策部門を作り、AIと人手の両方を活用したフィルタリングにより非正常出願を抽出し、出願人への通知を行っています。国家知的財産局(CNIPA)の発表によれば、2021年だけで81.5万件の出願に対し不正出願とみなす旨の通知が発行され、それに対する取下げ率は97%とのことです。
審査官が不正出願とみなされる出願を自ら発見し、又は通報により知り得た場合、代理人及び/又は出願人に対し、「不正出願の自主調査及び改善通知」が発行されます。当該通知は、地方の知的財産局からのメール又はSMSの形で発行される場合もあります。通知の内容は、出願人に対し指定期間内に不正出願ではない旨の意見を陳述して証明資料を提出するか、自主的に出願を取り下げるよう求めるものです。出願人が指定期限内に応答しない場合、国家知的財産局(CNIPA)から更に、15日以内の応答を求める通知が発行され、これにも応答しない場合、出願は取り下げられたものとみなされます。
出願人が行った意見陳述によって、不正出願ではないとの認定がなされた場合、国家知的財産局(CNIPA)から、本願が正常な審査過程に入った旨の通知が発行され、通常の審査プロセスが開始されます。出願人の意見陳述によっても不正出願との認定が覆らなかった場合、審査官は出願を拒絶することができ、この拒絶に対し出願人は、不服審判を提起することが可能です。
不正出願対策の日本出願に対する影響
これまでのところ、日本の出願人による正常な出願が、「不正出願」として拒絶された事例は、寡聞にして耳にしたことがありません。基本的に、不正出願対策は外国出願人の出願を対象とするものではないと言われています。
しかしながら、中国出願人の不正な目的を有しない特許出願に対し、「実験データが捏造と思われる」との理由で、不正出願通知が発行された事例等は存在します。このような通知を受け取らない、又は受け取った際に反論できるようにしておくために、特に実験データを含む出願では、データの合理性・客観性の担保に留意が必要と思われます。
また、上記の類型1にあるように、類似する出願を同日又は近い時期に複数行った場合、「不正出願」とみなされる可能性が高まる点にも注意が必要です。分割出願を含め、類似する複数の出願を近い時期に行う必要がある場合、各出願の技術内容・効果の違いや、複数出願が必要な理由等について整理しておくことが望ましいでしょう。
不正出願が審査の初期段階で排除され、正常な出願に審査リソースが割り当てられて審査速度が向上することは、出願人にとっても望ましいことです。一方、大量の出願に対し不正出願通知が発行されている現状にあっては、誤って、不正な意図のない出願に通知が発行されてしまう可能性もゼロとは言えません。そういった場合の対策について理解しておくことは、出願人にとって有益なことと思われます。
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