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海外係争のサポート業務
2024.10.07
はじめに
TMIでは、海外の係争に巻き込まれた日本企業を、現地の弁護士と協働してサポートすることがあります。本稿では、負荷がとりわけ大きい米国の特許訴訟のサポート業務について、米国の特許訴訟の概要と共にご紹介いたします。
米国の特許訴訟の概要
ディスカバリ
広く知られているように、米国には、ディスカバリと呼ばれる証拠開示制度があります。ディスカバリにしたがって両当事者は、プロテクティブ・オーダーと呼ばれる裁判所の命令で規定される秘密保持義務の下、訴訟に関連する情報を原則として相手方に提供する義務を負います。例えば、ある機能に関する特許で提訴された場合、被告は、その機能を有する製品の型番や、各製品の売上や、その機能の設計データに関する情報等を相手方に提供しなければならない可能性があります。知的財産部門は一般にこのような情報を保有していませんから、被告の知的財産部門は、事業部門や営業部門等、様々な部門と連携して情報を収集しなければなりません。
デポジション
ディスカバリの後半には、デポジションと呼ばれる手続きが行われます。デポジションでは、訴訟に関連する幾つかのトピックに関して知見を有する従業員が、そのトピックに関する相手方の弁護士からの様々な質問にその場で回答しなければなりません。例えば、侵害主張されている機能について知見を有する被告の従業員であるエンジニアは、ディスカバリで相手方に提供した設計データ等に基づいて相手方の弁護士から浴びせられる様々な質問にその場で回答しなければなりません。
エキスパート・レポート
日本の特許訴訟には、ディスカバリほど強力な証拠開示制度がありませんので、特許権者は、提訴前に侵害を裏付ける証拠を準備することが一般的だと思います。
これに対し米国の特許訴訟では、ディスカバリで収集した設計データ等の技術情報や、デポジションで相手方の従業員から得られた証言等をベースに、エキスパートと呼ばれる専門的知識を有する第三者がエキスパート・レポートと呼ばれる報告書を準備することによって侵害主張(並びに無効主張や損害賠償額の主張)がなされることが一般的です。このため、製品解析しても侵害されているかどうか直ちに分からないような発明に関する特許であっても、諸外国と比較して、米国では提訴しやすい環境が整っているといえるかもしれません。原則として陪審が、両当事者のエキスパートの主張を聞いて、侵害の有無や損害賠償額を判断する点においても、裁判官が侵害の有無等を判断する諸外国の特許訴訟とは異なります。
TMIによるサポート
このような米国の特許訴訟では米国の法律事務所の訴訟専門の弁護士が事件をハンドリングしますから、必ずしもTMIの弁護士や弁理士が必要というわけではありません。しかしながら、以下のような場面では、TMIがサポートをさせていただくこともあります。
ディスカバリのサポート
上述したようにディスカバリの対象となる情報は多岐にわたりますから、様々な部門と連携して情報を収集する必要があります。米国の特許訴訟に慣れている企業はともかくとして、稀にしか米国で提訴されることがない日本企業が相手方からのディスカバリ要求に適切に対応することは、容易ではありません。米国の特許訴訟制度や、ディスカバリの必要性及び範囲に関して他の部門からなされるであろう多くの質問にも、知的財産部門は回答しなければなりません。
加えて日本企業が保有する資料は、通常日本語で記載されています。設計データ等の技術文書は、社内用語を使って簡略的に記載されていることも少なくないので、ディスカバリの対象となっている情報を収集することはもとより、収集した文書に記載されている内容を理解して米国弁護士に正しく伝達することは、骨が折れる作業です。
TMIには、技術に精通し英語にも堪能な弁護士や弁理士が多数おりますので、このような場面においてサポートをさせていただくことがあります。
デポジションのサポート
上述したようにデポジションでの証言内容は、相手方のエキスパートによる侵害主張等に利用されます。デポジションに長じた相手方の弁護士は、巧妙な質問を投げかけて相手方に有利な証言を従業員から引き出そうとするわけです。
このためデポジションにおいては、相手方弁護士からの質問に対してできるだけ回答しないことが基本的な方針となります。しかしながら、所定のトピックが指定されたデポジションにおいて、従業員は会社を代表して質問に回答する義務を負いますから、わからない、と回答し続ければよいというものでもありません。
このようなデポジションのメカニズムを十分に理解しないまま、ビデオ撮影されながら長時間にわたり相手方の弁護士からの尋問に晒されるデポジションに臨んでしまうと、従業員は混乱してしまい、自社にとって不利な証言をしてしまうことがあります。
このためデポジションにあたっては、入念な準備が欠かせません。複数日にわたって会議を開催し、デポジションのメカニズムや回答のコツをデポジションに臨む従業員に説明し、しっかりと理解してもらうことが肝要です。私達が日本語で説明を補足しつつ、このようなデポジションのお手伝いをさせていただくこともあります。
またデポジションの準備のための会議は、設計者を始めとするキーパーソンと米国の訴訟弁護士が顔を合わせて議論する貴重な場面でもあります。しかしながら、たとえ通訳がついても、設計者による技術的な説明の趣旨が米国の弁護士に正しく伝わらないことは頻繁に起こります。また、米国の弁護士は多くの場合日本語を理解しませんから、設計者と米国の弁護士との会話がかみ合わないまま、しかも、会話がかみ合っていないことに気づかれないまま、延々と打ち合わせが進行してしまうこともあります。このようなときに議論を整理させていただき、時間の無駄とならないように軌道修正させていただくこともあります。
最後に
本稿では米国の特許訴訟を中心に説明させていただきました。TMIには様々な国の法制度に知見を有する専門家がいますから、この他にも、中国や欧州をはじめとする様々な国の係争に巻き込まれた日本企業を現地の弁護士等と協働してサポートすることがあります。海外係争に直面すると、日本企業と現地の弁護士とのコミュニケーションギャップが原因となって、不利な局面を招くことがあります。本稿が、海外係争に巻き込まれた日本企業が取り得る選択肢の一助になれば幸いです。
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