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【知的財産ランドスケープ】宇宙ビジネスにおける特許情報を用いたランドスケープ分析② 衛星ビジネス(技術)
2024.11.14
前回のまとめ
前回の第1回(https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2024/16314.html)では、宇宙ビジネスの中でも人工衛星の機器製造、データ利用、軌道上サービスを含む「衛星ビジネス」に着目し、まずはオーナーの観点からのランドスケープ分析を行いました。今回は、同じ衛星ビジネスにおける技術の観点からの分析を行いましたので、その内容についてご紹介します。
IPCランキング
技術観点からの分析では国際特許分類(IPC)を用いました。IPCは特許出願された発明を技術領域毎に分類するため国際的に統一された分類であり、各特許公報の初めの頁に表示されています。IPCは階層構造を有しており、階層を上位から下位に展開していくことで、その特許に関する大まかな技術領域から、より詳細な要素技術まで把握することができます。
IPCの構造
出所:INPIT知財総合支援窓口(熊本県ポータル)
https://chizai-portal.inpit.go.jp/madoguchi/kumamoto/consultation/support/patent/class/
以下はIPC別特許ファミリー件数のランキングを示したものです。IPC(技術)としては、方位・距離測定、通信、宇宙航空体、データ処理に関するものが上位にランクインしています。
IPC別特許ファミリー件数
これをオーナー別に見ると、Thales、Airbus、Boeingなどの大手航空・宇宙メーカーは宇宙航空体(衛星、衛星部品などのハードウェア)の開発に強みを有する一方で、新興メーカーについてはEchoStar、Huawei、ViaSatなど、特に通信関連技術に注力している企業が多いことが窺えます。
IPC×オーナー
特許スコア
続いて、前回と同様に、技術的価値を示すTRを縦軸に、過去5年の出願割合を横軸に取ったバブルチャートを作成し、各IPCのポジショニングを確認しました。以下のバブルチャートの見方としては、TRが高いほど技術的注目度が高く、過去5年割合が高いほど近年のトレンドであることを意味します。したがって、右上の象限にポジショニングされるものは、技術的注目度が高く、かつ、近年のトレンド、ということになり、要注目のオーナーや技術であることを示唆しています。
技術スコア(TR)×過去5年割合
このバブルチャートにIPCの上位1~15位をポジショニングしたのが以下の図です。G06Q「管理・商用・金融目的などに特に適合した情報通信技術」はファミリー件数はそれほど多くはないものの、TRが最も高く、注目度の高い技術であると言えます。ここで、G06Qはビジネスモデルとの関連が深い「ビジネス関連発明」に付されるIPCになります。
技術スコア(TR)×過去5年割合(IPC別1~15位)
G06Qをさらに下位階層に展開したものが以下の図になります。サービス業、資源、輸送、マーケティング、農業、ロジスティクスなど、幅広いビジネスに衛星技術が活用されていることがわかります。
G06Q(ビジネス関連)の内訳
以下はIPCの上位16~30位をポジショニングしたものです。G06N「特定の計算モデルに基づく計算装置」はTRと直近5年割合がともに高く、近年の要注目技術であることが示唆されます。
技術スコア(TR)×過去5年割合(IPC別16~30位)
G06Nをさらに下位階層に展開したものが以下の図になります。ニューラルネットワーク、機械学習など、AI技術を用いたものが多くみられます。
G06N(特定計算モデル)の内訳
以下、上記のバブルチャートで注目度の高い技術としてポジショニングされたG06Q、G06Nについて、特許のミクロ分析によりさらに深堀しました。
G06Q(ビジネス関連)
G06Qは全485ファミリーのうち、TRが高いものとしては、マルチソースデータ融合に基づくハイブリッド太陽光発電電力予測方法およびシステム(US2022/373984A1)、インテリジェント土壌サンプリングのためのシステムおよび方法(US2023/255133A1)、自然災害発生後の財産損害を定量的に測定および認識するための、航空および/または衛星画像ベースの光学センサーシステムおよび方法(US2024/0020969A1)など、衛星データを活用したリモートセンシングに関する特許が多く含まれています。
US2022/373984A1(資源に関連するG06Q10/06が付与)は、複数のデータリソースを融合して、太陽光発電の超短期予測を行うハイブリッド予測方法とシステムに関する特許であり、発電データ、気象データ、衛星画像データを統合して、各予測サブモデル(畳み込みニューラルネットワーク、長短期記憶ネットワーク、極端勾配ブースティングツリー)に入力し、天候タイプに応じたモデルの重み付けを行い、最終的な発電量予測を実現するものです。これにより、異なる気象条件に対応した精度の高い予測が可能になるとされています。US2024/0020969A1(マーケティング・価格推定に関連するG06Q30/02が付与)は、自然災害後の土地や建物に対する物理的被害を、航空機または衛星画像に基づき自動的に測定・評価するシステムに関する特許であり、複数のリモートセンサーを用いて高解像度のデジタル画像を取得し、被災地の地形図を生成することで、特定の物件に対する災害の影響を定量的に評価し、損害額や損失を予測します。この特許により、迅速な災害対応や効率的な損害保険処理が支援され、異なる分野や機関間でのリスク対応の調整が可能になるとされています。
US2024/0020969A1の図面
US2024/0020969A1の出願人であるSwiss Reinsuranceの衛星ビジネス関連ニュースについて調べたところ、2021年に合成開口レーダーを搭載した地球観測衛星の製造・運用を行っているフィンランドのICEYEと提携し、洪水などの災害対策の支援や、保険金支払いの迅速化などを図ることが発表されています。
Swiss Reinsuranceの衛星ビジネス関連ニュース
出所:PRTIMES
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000060281.html
G06N(特定計算モデル)
G06Nは全238ファミリーのうち、TRが高いものとしては、火災監視(US11202926B2)、任意の時空間位置における二酸化炭素濃度を予測するための影響要因分析方法(CN113919448B)、自然災害発生後の財産損害を定量的に測定および認識するための航空および/または衛星画像ベースの光学センサーシステムおよび方法(US2024/0020969A1)、マルチソースデータ融合に基づくハイブリッド太陽光発電電力予測方法およびシステム(US2022/373984A1)など、G06Qと同様にリモートセンシングに関する特許が上位に多く見られます。
US11202926B2(機械学習に関連するG06N20が付与)は、火災監視および予測に関する技術であり、衛星画像、植生情報、気象データを活用して、火災の状況をリアルタイムで監視・更新するシステムに関する特許です。この特許は、機械学習を用いて衛星画像の解像度を向上させ、各地点の火災発生確率を高精度に推定することが可能であり、これにより、火災管理者は火災の進行状況を迅速に把握し、適切な消火活動や避難計画を立てることができるため、被害を最小限に抑えることが可能になるとされています。CN113919448B(機械学習に関連するG06N20が付与)は、衛星データと環境要因を組み合わせた機械学習モデルを用いて、地域ごとの大気中の二酸化炭素(CO2)の時空間分布をシミュレーションし、さらに、CO2分布に影響を与える環境要因の重要性を定量的に評価する方法に関する特許です。この特許は、衛星観測が困難な地域でも高精度なCO2分布予測が可能となり、政策立案においても科学的根拠を提供することができるとされています。
US11202926B2の図面
これと関連するニュースとして、US11202926B2の出願人であるOne Concernは、2019年に損保ジャパンおよびウェザーニュースと提携し、AIを活用した防災・減災システムの開発を目指すことを発表しています。
One Concernの衛星ビジネス関連ニュース
出所:SOMPOホールディングス
https://www.sompo-japan.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2018/20190325_1.pdf
衛星ビジネスの小活
以下、第1回および第2回でご紹介した「衛星ビジネス」に関するランドスケープ分析の小活になります。
- 2010年以降、中国からの出願が突出して多く、1980年以降の累計でも米国の約4倍、日本の約7倍の特許ファミリー件数となっている。
- 特許のオーナーとしては、Huawei、Qualcommの技術スコアが高く、両者ともマーケット規模の大きい衛星対応スマートフォン・IoT機器や、自動運転関連技術に注力している。特にHuaweiは技術スコア、直近5年割合がともに高く、近年、これらの技術領域に価値の高い特許を多数出願していることが示唆される。
- 日本のオーナーの中では三菱電機がスコアの高い衛星コンステレーション関連の特許を多数出願しており、衛星コンステーションビジネスへの参画へ向けて特許ポートフォリオを強化していることが伺える。
- 特許の技術(IPC)としては、ビジネス関連発明に関するものの技術スコア・直近5年割合が高く、資源、農業、マーケティング分野など、衛星データを用いたリモートセンシングに関して幅広いビジネス領域に特許が出願されている。
- 近年伸びている注目領域としてはAI技術を用いたものがあり、衛星データと衛星以外から取得したパラメータの両方をAIを用いて解析することで、災害、環境、エネルギーなどを監視・予測するものが増加している。
第1回および第2回では、宇宙ビジネスの中でも衛星ビジネスに焦点を当て、オーナー別および技術別にランドスケープ分析を行いました。次回はロケットビジネスに着目したランドスケープ分析の結果についてご紹介します。
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