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設計と施工の共同企業体(JV)の考察
2025.08.06
設計・施工一括方式(デザインビルド方式)
近年の公共工事は、設計・施工一括方式(デザインビルド方式)での発注が行われることが多く、民間の工事の場合も効率的設計、工事費の抑制、工期の短縮の観点から設計の段階から施工会社が設計に関与する場合があるように思われる。
設計・施工一括方式のメリットとして、①単一組織が明確な責任をもつ、②発注者自身の調整統合業務を軽減できる、③設計期間と施工期間をオーバーラップさせることによる時間削減、④段階的施工の採用による時間削減、⑤施工の専門家が設計の当初からかかわることによるコストダウン、時間削減、⑥設計施工が一体だと変更がやりやすい、⑦設計にかかわるリスクを受注者側に移転できる、⑧事業の早期段階で事業費を固めることができる、といった点が挙げられている(平成13年3月付け設計・施工一括発注方式導入検討委員会報告書1)。
注1:事務局を文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、郵政事業庁、防衛施設庁とし委員長を國島正彦東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻教授とする委員会https://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/keiyaku/ikkatu/kisya2.pdf
設計・施工一括方式の実施体制
(1)設計部門を持つ施工会社による設計・施工
この設計・施工一括方式が問題なく実施できる体制は、設計部門を持つ施工会社が設計・施工を行う体制である。この場合、施工会社において、建設業許可だけでなく、建築士事務所登録を有していることが必要となる。この体制の場合、設計部門と施工部門が密に調整をすることで、無駄な設計を排除し、コスト的にも無駄のない設計や施工期間の短縮を実現しやすく、設計・施工一括方式のメリットを実現しやすい。もっとも、建設業における人手不足から、1つの施工会社において、設計まで行うことができない場合がある。
(2)施工会社が元請となり設計会社が下請となる設計・施工
次に考えられる体制としては、施工会社が元請となり、設計会社が下請となる体制がある。この体制の場合、元請となる施工会社において、建築士事務所登録をしていることが必要となるが、施工会社が設計会社に対し、指示をする立場となることから、コストの削減や施工期間の短縮を意識した設計内容を実現しやすいというメリットがある。もっとも、実務的には、設計会社と施工会社の力関係からか、設計会社が施工会社の下請となる契約が行われることは少ないと思われる。
(3)設計会社と施工会社の共同企業体の受注による設計・施工
次に考えられる体制として設計会社と施工会社が共同企業体(JV)となり工事を受注する体制がある。
建設工事に関しては、共同企業体の施工方式として、甲型共同企業体(共同施工方式。全構成員が各々あらかじめ定めた出資の割合に応じて資金、人員、機械等を拠出し、混然一体となって工事を施工する方式)及び乙型共同企業体(分担施工方式。各構成員間で共同企業体の請け負った工事をあらかじめ分割し、各構成員は、それぞれの分担した工事について責任をもって施工する方式)があり、どちらの場合も共同企業体の法的性格は、実務上一般的に民法上の組合(民法667条1項)とされている2。
甲型共同企業体及び乙型共同企業体は、それぞれ国土交通省から協定書のひな型が提示されている。しかし、これらは建設工事を想定したものであり、施工を中心として作成されたものであるから、設計会社と施工会社がそれぞれ設計業務と施工業務を分担する共同企業体を想定したものではない。もっとも、設計会社と施工会社が共同企業体(JV)を構成する場合、双方が設計・施工業務を混然一体となって行うものではなく、それぞれの役割が設計業務と施工業務に別れると考えられるため、上記の甲型共同企業体及び乙型共同企業体の性質に照らすと、乙型共同企業体の形式の延長と整理することが考えられる。
また、建設工事に関しては、甲型共同企業体の協定書の雛形、乙型共同企業体の協定書の雛形があるが3、設計と施工の共同企業体に関しては協定書の雛形が存在しない。この点、設計会社と施工会社の間で設計業務、施工業務の役割分担があることから、乙型共同企業体の特定建設工事共同企業体協定書に準じる形で作成することが自然と考えられる。
乙型共同企業体の場合、共同企業体の構成員が行う分担業務に応じ、それぞれの構成員が建設業の許可や建築士事務所登録を有していればよいので、設計業務を行う設計会社は建築士事務所登録、施工業務を行う施工会社は建設業の許可を有していることを要するが、施工会社が共同企業体の代表者となるからといって、施工会社が建築士事務所登録を有していることが必要となるわけではない。
注2:最判平成10年4月14日等
注3:甲型共同企業体についてhttps://www.mlit.go.jp/common/000004810.pdf、乙型共同企業体についてhttps://www.mlit.go.jp/common/000004811.pdf
設計と施工の共同企業体と設計・施工一括方式のメリットの実現
設計と施工の共同企業体の場合、冒頭で述べた設計・施工一括方式のメリットはどの程度あるのであろうか。
冒頭で述べたとおり、設計・施工を一括で行うことにより、施工会社がコストを検討・確認しながら設計を進めるため、コストを抑えられることがメリットであるとされる。しかし、設計、施工が別法人で構成される共同企業体の場合、施工者は、共同企業体の代表者ではあってもあくまで民法上の組合組織の代表であるにすぎず、設計会社に対する指示権限を持たない。そのため施工会社がコストを意識して設計会社に対し、合理的な設計をするよう指示をすることができず、このメリットが得られない。むしろ、施工会社が設計会社に対し指示する権限を持たないため、設計内容が過大なものとなる可能性もある。
また、設計・施工一括方式の場合、設計段階から施工する施工会社が工程を考えながら設計を進めるため、工期の短縮につながる点もメリットであるとされている。しかし、設計、施工が別法人で構成される共同企業体の場合、設計会社と施工会社に上下関係がないため、設計内容の決定が遅れやすいことや設計変更が多くなることが考えられる。また、施工会社の工程に関する検討や意向が設計に反映されにくく、工期の短縮につながらない場合がありうる。
さらに、設計会社と施工会社が1つの会社の場合、施工部門の得意とする技術を生かした設計による施工期間削減、コスト削減がやりやすいのに対し、設計会社と施工会社が別会社の場合、施工会社の得意とする技術を生かした設計による施工期間削減やコスト削減がやりにくいといった問題がある。
このように、設計と施工を別会社とする設計・施工一括方式は、施工会社から設計会社に対し、指示権限がないため、設計・施工一括方式のメリットを活かしにくいということができそうである。そのため、発注者において、共同企業体の代表者に対して指示を行うだけでなく、設計会社に対しても直接工事費や施工期間に関する指示を行う必要が高いと思われる。
構成員の責任
発注者と共同企業体との間の取引によって、共同企業体に損害賠償責任が生じた場合、共同企業体は法人格を有していないことから、実際に責任を負うのは、共同企業体の構成員である設計会社、施工会社ということになる。
鹿児島地判昭和48年6月28日(判例時報720号86頁)は、構成員間の契約の中で「企業体は建設事業を共同連帯して営むことを目的とする」、「各構成員は建設工事の請負契約の履行に関し、連帯して責任を負うものとする」と定められていることから、共同企業体の業務執行中の不法行為について、組合の構成員全員が不真正連帯債務を負うとした。この点、共同企業体の構成員の間の協定書において、各構成員が建設工事の請負契約の履行に関し、連帯して責任を負うものとする、との定めがあるならば、各構成員が不真正連帯債務を負うのは当然といえる。
さらに、最判平成10年4月14日(民集 52巻3号813頁)は、商法511条1項が、「数人の者がその1人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。」と定めていることに基づき、共同企業体がその事業のために第三者に対し負担した債務は、その構成員が自らの商行為によって負担した債務というべきであることから、各構成員は、共同企業体がその事業のために第三者に対し負担した債務について、商法511条1項により連帯債務を負うとしている。すなわち、同判決は、「共同企業体の構成員が会社である場合には、会社が共同企業体を結成してその構成員として共同企業体の事業を行う行為は、会社の営業のためにする行為(附属的商行為)にほかならず、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき構成員が負う債務は、構成員である会社にとって自らの商行為により負担した債務というべきものである。したがって、右の場合には、共同企業体の各構成員は、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき、商法511条1項により連帯債務を負うと解するのが相当である。」と判示している。
このように、構成員間の協定書の中で共同企業体の第三者に対し負う債務が各構成員の不真正連帯債務となることを定めていなかったとしても、共同企業体が第三者に負う債務は各構成員の不真正連帯債務となるということができる。
以上から、設計と施工の共同企業体の場合も、共同企業体が第三者に対して損害賠償責任を負う場合、設計会社、施工会社ともに不真正連帯債務を負うことになるということができる。
ただし、設計会社、施工会社がともに不真正連帯債務を負うとしても、実際のところ、設計会社の場合、施工会社ほどに会社の資産が大きくなく、支払能力もないことが多いと思われる。
まとめ
設計・施工一括方式(デザインビルド)は、施工の専門家が設計の段階から関わることで、施工期間の短縮やコストの削減、効率的な施工の実現を図るものであるが、3で述べた点からすると、設計会社と施工会社の共同企業体による設計・施工一括方式の場合、施工会社から設計会社に対する指示権限がなく、両者の間の意思疎通が十分でない場合があり、設計・施工一括方式による施工期間短縮、コストの削減といったメリットを得にくいという問題がある。そこで、発注者から設計会社、施工会社に対し直接、設計内容、規模、グレード、工事費、施工期間等に関する指示を行い、縛りをかける必要が高いと思われる。