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日本企業も無関係ではない!フランスで強まるインフルエンサー規制のポイント
2026.01.20
SNSでの影響力を広告・販促に活用する「インフルエンサーマーケティング」は、いまや国境を越えて当たり前の手法になりました。日本でもステルスマーケティングへの対応が進む一方、フランスでは、インフルエンサー活動そのものを対象にした包括的な枠組みが法令として整備されています。
フランスで成立した2023年6月9日法(Loi n°2023-451)は、消費者保護と取引の透明化を目的に、インフルエンサー、広告主、エージェント、さらにはプラットフォームの関係を法的に整理するための"専用の枠組み"を置いた点に特徴があります。本法律は、国民議会(Assemblée nationale)では有効票352票中259票の賛成により、また上院(Sénat)では、有効票ベースで全会一致により可決されました。
法律が定義する「インフルエンサー」と「エージェント」
まず押さえておきたいのは、フランス法が想定する「インフルエンサー」の捉え方です。一般に想像されがちなフォロワー数の多寡ではなく、要件で定義されます。すなわち、「報酬又は現物供与を対価として、自らの知名度を活用し、電子的手段により、商品・サービス・又は何らかの活動について、直接又は間接のプロモーションを目的とするコンテンツを発信する自然人又は法人」と定義されます。したがって、本人が「自分はインフルエンサーではない」と思っていても、対価性と宣伝目的があれば「インフルエンサー」とみなされる可能性がある、というのが制度設計上の肝になります。
加えて、この法律は「エージェント」という概念も新たに定義しています。法律上の定義は、「インフルエンサーを有償で代理し、自然人又は法人(及びその代理人)との間で、商品・サービス・何らかの活動の有償プロモーションを目的として活動する者」とされています。
2026年1月から書面契約が義務化
この枠組みのうち、日本の企業やインフルエンサーにとって実務上のインパクトが大きいのが、本法律に定義されるインフルエンサーが行う商業的影響活動について、契約の「書面化」をめぐるルールです。当初、法律自体は、一定の場合にインフルエンサー・広告主・エージェント間で書面契約を求める建付けを置いていましたが、実務上最も重要な「どの程度の取引規模で書面契約の義務が発生するのか」という基準は、政令で定められることになっていました。
02.1.書面契約が必要となる基準
2025年11月28日の政令(Décret n°2025-1137)に基づき、同一の広告主から同一暦年に受け取る対価の合計が1,000ユーロ(税抜)以上である場合に、書面契約が必要になります。そしてこの「合計」には、金銭報酬だけでなく、現物供与の価値(ギフティング、招待、サービス提供など)も含まれます。現物提供は、ややもすると、「おまけ」として軽く扱われがちですが、フランスのルールでは、価値を持つ対価として閾値判定に組み込まれている点が重要です。
02.2.必須記載事項を欠くと「無効」に
上記の書面化の義務を怠った場合に契約は無効とみなされますが、さらに注意すべきは、書面契約が「ただ存在すればよい」のではなく、必須記載事項を欠くと契約が無効になり得る点です。必須とされる事項として、以下が挙げられています。
- 契約当事者の身元及び連絡先(税務上の居住国を含む)
- 委託される業務の性質と範囲
- 報酬の金額又は算定方法、及び現物供与の価値
- 契約当事者の権利義務(特に知的財産権に関する事項)
- フランス国内の視聴者を対象とする場合には、契約がフランス法に準拠する旨の記載
契約書を形式的に取り交わしていたとしても、必須記載事項が欠けていれば、契約自体が無効となり得る―このような制度設計の下では、実務上、テンプレートの整備・運用を徹底するとともに、必須記載事項の漏れを防ぐ案件管理体制の構築が重要となります。
連帯責任の導入
本法律の重要な特徴として、連帯責任の原則が導入されています。本法律第8条第III項により、広告主、インフルエンサー、及びエージェントは、商業的影響活動の契約の履行において第三者に生じた損害について、連帯して賠償責任を負うとされています。
これは、問題が発生した場合に「自分は関係ない」と責任を回避することが難しくなることを意味します。広告主にとっても、起用するインフルエンサーやエージェントの選定・管理がこれまで以上に重要になります。
投稿の透明性を担保する表示義務
契約面の整備に加え、フランスの枠組みでは、インフルエンサーによる投稿の透明性を確保するための表示義務も制度の中核をなします。
具体的には、プロモーション投稿であることを明確にするため、「publicité(広告)」又は「collaboration commerciale(商業タイアップ)」といった文言を表示することが求められます。また、体型や顔を修正するフィルター等により加工を施した画像については「images retouchées(加工画像)」の表示が必要とされ、AI等により生成された画像については「images virtuelles(生成画像)」と明示することが求められます。これらの表示は、視聴者が一目で認識できる態様で、動画・画像の全体にわたり、かつプロモーション期間を通じて継続して表示する必要があります。
禁止されているプロモーション
本法律は、消費者被害が生じやすい領域に強く目配りしている点でも特徴的です。
05.1.金融分野
本法律はインフルエンサーによるプロモーションを原則として禁じる対象として、まず「金融契約(contrats financiers)」を挙げています。ここでいう金融契約は、フランスの金融・通貨法典上の定義に基づくもので、先物、オプション、スワップ等のデリバティブ取引を対象とします。
まず、暗号資産サービスについては、広告主がフランス金融市場庁(AMF)にPSAN(暗号資産サービス提供者)として登録又は認可されていない限り、インフルエンサーによるプロモーションは原則として禁止されます。
これに対し、暗号資産そのもの、すなわち「暗号資産」や「ユーティリティトークン」についても、PSAN登録・認可と結びつく形でプロモーションが制限されます。他方で、プロモーション対象の資産が、そもそもPSANの登録義務・認可制度の射程外にある場合には、禁止の対象外となり得る可能性があり、これにはNFTが含まれます。
加えて、ICO(initial coin offering)については、AMFの承認を取得していない限り、プロモーションは禁止となります。
05.2.健康分野
健康分野については、本法律は、二層構造で理解すると整理しやすいです。第一に、一定の類型についてプロモーションが禁止されており、その例として美容整形に係る行為、治療、及び、下記のタバコ規制の対象とならないニコチン製品が挙げられています。
第二に、インフルエンサーにも、既存のEU法・フランス法に基づく広告・表示規制がそのまま適用されることを、あらためて明確にしています。具体的には、医薬品、医療機器、体外診断用医療機器、食品に関する健康強調表示、塩分・糖分を添加した飲料、アルコール飲料、タバコ製品、電子タバコ製品等の広告規制が、インフルエンサーのプロモーションにも適用されます。
05.3.その他の禁止事項
本法律は、スポーツに関する助言・予想のプロモーションを禁じています。 また、CPF(職業訓練口座)を利用した研修についても、報酬又は物品等の提供を受けることと引き換えに勧誘・宣伝する行為が禁止されています。 さらに、ギャンブル・賭博については、未成年者を技術的に排除し得るプラットフォームに限定される場合を除き、プロモーションは禁じられています。
ドロップシッピング
ドロップシッピング(drop shipping)とは、販売者(この場合はインフルエンサー)が在庫を持たず、注文を受けた後に仕入先(サプライヤー)から消費者へ直接商品を発送させる販売形態です。インフルエンサーは商品のプロモーションと販売のみを担い、在庫管理や発送は行いません。
近年、この形態でのトラブルが多発しています。本法律第6条では、インフルエンサーが商品の販売促進のみを行い、配送を行わない場合であっても、購入者に対して全責任を負うと明記されています。
つまり、インフルエンサーは「配送を行っていない」ことをもって当然に責任を免れることはできません。商品の未着や不適合があった場合、インフルエンサー自身が責任を問われます。販売スキームにドロップシッピングが含まれる場合には、広告主・販売者・プラットフォームとの役割分担や、問い合わせ窓口、返金・交換の運用まで含めて設計しておく必要があります。
違反時のリスク
違反時のリスクは軽くありません。刑事罰としては、最大2年の拘禁刑及び最大30万ユーロの罰金が規定されており、加重事由がある場合には最大7年の拘禁刑となり得ます。また、DGCCRF(競争・消費・詐欺抑止総局)の権限も強化されており、是正命令等に「履行を確保するための制裁金(astreintes)」を付すことができるとされています。
インフルエンサーがDGCCRFの命令に従わない場合、DGCCRFはプラットフォームに対し、消費者への警告メッセージの表示、アカウントの検索結果からの除外(デリスティング)、アカウントへのアクセス制限又はブロックといった措置を求めることができます。
フランスでは、過去2年間で300人以上のインフルエンサーがDGCCRFの監督対象となり、約半数が違反状態にあったと報告されています。
「インフルエンサー第2法」の準備も進行中
フランス国内では、追加的な法整備(通称「インフルエンサー第2法」)に向けた検討も進んでいるとされ、いくつかの論点が挙げられています。
具体的には、SNS上の有害な言説、とりわけミソジニー的(女性蔑視的)言説への対策に加え、エージェント業の規制強化が検討対象とされています。この点は、公開SNS上の活動に限られず、会員制・限定公開といったプライベートな配信プラットフォーム上での活動も射程に入り得るものとして議論されており、特に性的なコンテンツ制作への積極的な勧誘を防止する観点が示されています。さらに、インフルエンサー収入に関する課税制度の整備や、マーケットプレイスにおける不適合商品の問題を念頭に置いたプラットフォーム責任の強化なども論点として挙げられています。
まとめ
フランスの消費者を対象にインフルエンサーマーケティングを展開する日本企業にとっては、まず、書面契約の要否を早期に見極めたうえで、契約書ひな形を整備し、必須記載事項の漏れがないことを確実に確認することが重要です。あわせて、広告であることの明示や加工・生成コンテンツに関する表示など、透明性を確保する表示ルールが、実務運用において適切に遵守されているかを継続的にチェックする必要があります。


