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才口弁護士に聞いてみよう(1)
2020.09.26
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
「私は5年目の弁護士です。ありがたいことに沢山のご依頼をいただき、取り組むべき仕事が十分にある状態で働くことができていますが、最近、手元の複数の仕事の進め方に迷うことが多く、また、多忙やご依頼いただく仕事のプレッシャーも高まり、全体として、レスポンス、処理のスピーディさが落ちてきているように思っています。ストレスやプレッシャーと、先生はどのように向き合ってこられましたか。仕事の進め方について、ヒントはありますでしょうか。」
1.顧問の才口千晴です。
5年目の弁護士A君、私の「弁護士10年1人前説」の数え歌では、君は「五つ未だに洟垂(はなたれ)小僧」ですね。
弁護士修行の真っ只中にいます。職務繁忙まことに結構です。羨ましさとともに、自分の昔を思い出しました。
私の生き様は、約5年間の最高裁判事時代を含めて半世紀以上の法曹人生です。この間、幾多の辛酸を舐め、俗称「倒産弁護士」として今日まで職務遂行できたのは、親に貰った丈夫な身体と職務に取り組む姿勢・胆力がその根源にあります。
ストレスやフラストレーションは、法曹が対峙し解消しなければならない持病です。今回は、弁護士の心構え、事件処理の仕方やストレス等の解消法を伝授しましょう。
2.弁護士には明るさと愛嬌が必要です。
弁護士は、依頼者から相談を受けた時、糾問的な発言やただ慎重な回答をするのは禁物です。依頼者は、たいていの場合、何らかに困って相談にいらっしゃることをお忘れなく。その人に対し、配慮ない言葉を浴びせてはいけません。たとえ、法律的には解決が難しい案件であっても、「努力します」とか「精一杯頑張ります」くらいの返事をしてあげましょう。それが、弁護士の使命であり、心遣いです。
A君は生来陽気な質ですか?どうぞ明るく対応してあげて下さい。
3.事件処理は、迅速かつ的確でなければいけません。
コピーは湿式の青焼、証拠に提出する登記簿謄本をカーボン紙で手書きをした私たちのイソ弁時代とは異なり、現在は技術革新によって職務に要求されるスピードの次元が飛躍的に進歩しました。現状は、24時間メールが頻繁に飛びかっている時世です。遅滞・不的確な事件処理では弁護士の生存競争に負けます。
でも、近代機器の操作が不得手な弁護士にも、大きな仕事が舞い込んでくることはあります。例えば、今年はとある会社の取締役の職務執行に関する調査委員会の職務を任されました。補助者の優秀な弁護士と共に、約2か月半、合計約700時間昼夜兼行で調査・検討し、大部な報告書を仕上げました。ヒアリング等は電話・WEB会議で、作業の大半はリモートワークでした。お蔭様で衰えた視力も回復し、起案はもとより委員・補助者の原案を過不足なく加除修正でき、まだまだ弁護士としての現役の仕事に不足なし、と自負しています。
お伝えしたいのは、古今、機器の進化を問わず、事件処理の鉄則である「迅速・的確」は不変ということです。
A君、事件処理の方法に遺漏はありませんか? 至急点検して下さい。
4.ストレスを貯めない事件処理の仕方
前置きが長くなってすみません。ご質問の本題に入ります。大きく2つ、ポイントをお教えしましょう。それは、「重たい仕事、苦しい仕事から処理する」ということと、「仕事の悪循環を避ける」ということです。
「重たい仕事、苦しい仕事から処理する。」
仕事は、緊急を要する事件を早急に処理し、可及的速やかに重たい仕事、苦しい仕事に着手しましょう。
ストレスやフラストレーションの根源である事件を先に処理するのです。
具体的な手順としては、次のような手立てです。
◇ 嫌な代理人と交渉を始める。
人間誰にも好き不好きがあります。また個性の強い弁護士もいます。「当たって砕けろ、成果なくて元元」の精神でぶつかりましょう。存外、成果があったり、その方と仲良くなったりするものです。
◇ 依頼者とじっくり話し合う。
事件には絡繰りがあって、依頼者の意図や問題の在り処が、代理人の理解と違ったりすることがよくあります。早期に依頼者との意思疎通をはかりましょう。
私は最高裁判事時代に行政・民事・刑事の30余人の調査官と職務を遂行しましたが、時折、担当事件の調査報告書がなかなか提出されないことがあり、そのような場合に当人に状況を尋ねると、(論点の誤解のようなものも勿論ありますが、)当事者や訴訟代理人に対する気兼ねや決断の難しさなど、早期に話し合い、摺り合わせをすれば解決できる事情の影響を受けていることがありました。
未済事件を沢山抱えて煩悶するようなことがないよう、論点の角度を変えて調査することや、依頼者、当事者の意図を正確に把握するための労を惜しまないことです。
A君は我が国の将来を担う弁護士でしょうから、事件の問題の在り処を速く見出し、それを早急に処理して、ストレスから解放されましょう。必ずや事件処理の回転がスムーズになるはずです。
◇ 危ない事件は速く処理する。
弁護士稼業は複雑で、時には「危ない事件」を受任することとなったり、「危ない事件」の相手方代理人になったりすることもあるでしょう。受任時に疑念があっても断わることが難しい状況であったり、代理人として紛争に巻き込まれたりすることがあるのです。
そんな事件からは速く退くことが大事です。度胸を決めて、必要な筋を通し、将来に禍根を残さないことが肝要です。予期せぬ紛争に巻き込まれたら、これがまたストレスの種になります。
A君が自身で処理できないのであれば、速やかにパートナーやしかるべき上司に相談して、素早く処理してしまいましょう。
「仕事の悪循環を避ける。」
重たい事件や嫌な仕事から解放されたら、残った事件を処理していきます。将来的展望や仕事以外の活動もありましょう。また、家庭生活もあります。
ここで、事件処理に手詰まりになったら、どんどんとその分配をしましょう。手順と礼接を尽くして、同僚や後輩に分担を頼むのです。この場合、頼んだ仕事には口出しをしないことが大事です。
悪循環を回避すれば職務を効率的に遂行できるのです。
5.まとめ
以上、実(まこと)しやかにいろいろと申し上げました。その内容は『古くて新しい問題』を経験に基づき語り伝えたに過ぎません。これは言い換えれば、温故知新すなわち「古きをたずねて新しきを知る」ことかもしれません。
私も、先輩から伝授された『古くて新しい問題』を、半世紀余の法曹人生の事件処理を通じて検証させて貰いました。
その一端を披歴して、A君ら後輩の快適な職務遂行の一助となれば幸いです。
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