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【実務相談金融商品取引法】重要情報を外部に伝達する場合の留意点-フェア・ディスクロージャー・ルール及びインサイダー取引規制-
2021.05.06
相談内容:当社(上場会社)は、未公表の重要情報を当社の株主でもある取引先にお伝えする必要があるのですが、どのような点に留意すべきでしょうか。
上場会社の情報管理の重要性は高まりつつあり、不用意に情報を外部に流失することは法令違反となり、会社に重大な損害を与える可能性もあるため、注意する必要があります。
相談内容のご質問については、フェア・ディスクロージャー・ルール及びインサイダー取引規制の検討が必要となりますので、本稿においては、両規制の概要を解説しつつ、相談内容に回答したいと存じます。
フェア・ディスクロージャー・ルール
金融商品取引法上、上場会社等(情報提供者)が公表されていない重要な情報(規制対象情報)をその業務に関して証券会社、投資家等(取引関係者)に伝達する場合、
・ 意図的な伝達の場合は、同時に、
・ 意図的でない伝達の場合は、速やかに、
当該情報をホームページ等(公表方法)で公表しなければならないとされております(いわゆるフェア・ディスクロージャー・ルール)。
規制対象情報、情報提供者、取引関係者、及び公表方法等の詳細は下記の表をご参照ください。
お問合せのケースでいいますと、取引先は、通常、フェア・ディスクロージャー・ルールの規制対象である取引関係者に該当しないものの、今回の取引先は株主でもあるため、上場会社が、取引先に対し、未公表の重要情報について広報に係る業務として提供する場合には、フェア・ディスクロージャー・ルールの対象になると考えられます。より具体的には、例えば、取引先に納めた製品に重大な不具合があり、その説明をしなければならない場合等については、広報に係る業務として提供するわけではないため、フェア・ディスクロージャー・ルールの対象にはならないと考えられます。
他方で、未公表の重要情報について広報に係る業務として提供しているかどうかは必ずしも明確ではないケースもあると思われますが、その場合には、相手方との間で守秘義務契約(守秘義務及び売買禁止義務を規定)を締結していれば、FDルールの対象外となりますので、(相手方との関係でそのような対応が可能なのであれば)当該守秘義務契約を締結することが安全といえます。
インサイダー取引規制
金融商品取引法上のインサイダー取引規制において、
① 会社関係者(注1)・公開買付者等関係者(注2)・第1次情報受領者は、
② 上場会社等の業務等に関する重要事実(注3)・公開買付け等事実(注4)を、
③ その者の職務等に関し知りながら、
④ 当該重要事実・公開買付け等事実が公表される前に、
⑤ 当該上場会社等の株券等の売買等を行ってはならない
とされており、広く知られている規制と思います。
他方で、金融商品取引法上のインサイダー取引規制においては、
① 上場会社等の重要事実・公開買付等事実を職務等に関し知った会社関係者・公開買付者等関係者が、
② 他人に対し、
③ 重要事実・公開買付等事実の公表前に売買等をさせることにより他人に利益を得させ、又は他人の損失を回避させる目的(目的要件)をもって、
④ 情報伝達・取引推奨を行ってはならない
とされており(いわゆるインサイダー取引規制の情報伝達・取引推奨規制)、課徴金等の摘発事例も増加傾向にあり、注意が必要です。
お問合せのケースでいいますと、貴社(上場会社)が、未公表の重要情報を貴社の株主でもある取引先にどのような理由でお伝えするか等の個別具体的な事情によりますが、取引関係上伝達が必要な場合等正当な目的があるのであれば、通常、重要事実・公開買付等事実の公表前に売買等をさせることにより他人に利益を得させ、又は他人の損失を回避させる目的があるとはいえないと思われますので、インサイダー取引規制の情報伝達の禁止に抵触しないと考えられます。もし相手方との間で守秘義務契約を締結するのであれば、当該守秘義務契約において、売買禁止義務又は目的外利用禁止の規定を設けておくとより望ましいといえるでしょう。
本稿について、ご質問がある場合には、以下のメールアドレスまでお問い合わせください。
tmi-blog-inquiry@tmi.gr.jp
注1 「会社関係者」・・・上場会社の役員、代理人、使用人、その他従業員(「役員等」)、法令に基づく権限を有する者、契約締結者 等
注2 「公開買付者等関係者」・・・公開買付者の役員等、法令に基づく権限を有する者、契約締結者 等
注3 東京証券取引所の「重要事実一覧表」参照 http://cns.main.jp/tokyoscott/wp-content/uploads/2015/09/89dfc2b9b85a1f4f5acb3904165a419e.pdf
注4 「公開買付け等事実」・・・公開買付け・5%以上の買い集め行為等の実施又は中止を決定した事実
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