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才口弁護士に聞いてみよう(21)
2022.05.02
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
弁護士である以上、常に新しいものに興味を持ち、学び続けることが大事だと思いますが、その一方で、仕事や生活のリズムを保つ上で、何かルーティーンと呼べるようなものを作るのも大事なのではないかと思います。
先生が日ごろの生活の中で、大事にしているルーティーンは何かありますでしょうか。
「ルーティーン」とは日常の仕事の手順のことですね。わが法曹人生を振り返って再考してみたいと思います。
倒産弁護士としてがむしゃらに働いていた当時は、早朝に出勤して懸案事項を処理し、適材を随所に手配してから会議に臨み、所管に報告し、あるいは集会を開催して方向性を定め、深夜に帰宅して一日の職務を総括する「精励恪勤(セイレイカッキン)」な日々でした。
実に無味乾燥な職務遂行でしたが、そんな中にも必須の「ルーティーン」がありました。
1.早朝出勤
親にもらった丈夫な体で朝、空が白むと寝ていられない性分でした。早朝7時台には出勤するので、家族のみならず関係各所にも多大の迷惑をかけました。
でも、管財人等の職務は早朝出勤しないと会社の業務は開始しません。決済書類や手形・小切手に捺印しないと事業継続ができないのです。“朝起きは三文の得”と慣用されるとおり午前中の頭がクリアな時間帯が一番仕事の能率が上がります。
2.衆議一決
多くの人の意見を一つにまとめることが鉄則です。弁護士稼業に独断専行は禁物です。
しょせん、専門家ぶっても知識や経験には限界がありますので多くの人の意見を徴し、衆目の一致するところで結論を導くのが常道です。パートナーとアソシエイトとの関係も同様です。当然、業務の目的やクライアントのニーズを無視して稼業は成り立ちません。
3.士気鼓舞
目的成就のためには士気を鼓舞して相手に立ち向かいます。紛争解決や勝訴のためには情熱を持って事案に対処しないと相手や裁判官を説得できず、良い結果は得られません。
更生管財人当時は「心機一転」、「奮励努力」、「衆議一決」などの四文字熟語を月間目標に掲げ、これを半切の画仙紙に墨汁で自書して会社の玄関に掲げて士気を鼓舞し、心技体の精神を徹底したのです。
4.一義明確
道理にかなった明確な主張や更生計画案でないと、裁判所や債権者を折伏(しゃくぶく・説得)できません。
最高裁においても、判決は簡潔明瞭を旨とし、反対意見も補足意見も必要最小限度に留めました。識者の一部から、省エネ判決は説得力に欠けるとか、退官後も意気軒昂なのは在任中の余力などと皮肉を言われましたが、判決が当事者や国民に納得が得られるのは簡潔明瞭であることにしかず、更生計画案も同様と確信しています。
どうぞ、準備書面や控訴・上告理由書のみならずクライアントに対する報告書に至るまで「一義明確」を主眼に作成するよう心がけて欲しいと思います。
5.貼る・メモる
最後に、「ルーティーン」の一つの秘策を伝授します。
多忙・煩雑な弁護士や管財人業務では効率の良い仕事の手順が不可欠です。事は簡単“大学ノート”の活用です。常時、手元に“大学ノート”をおいて、日付順に面談した相手の名刺を貼り、傍らに面談要旨を添え書きしておくという単純な作業です。加えて、ホットな政治、経済及び重要判決並びに裁判所の枢要人事等の新聞記事を切り抜いて貼れば完璧です。
ネットやスマホの時代には馴染まない手法かもしれませんが、存外、世相や面談した相手の身分・地位、連絡先の確認や懸案・早期処理事項を想起するのに大変重宝です。
私はこの“大学ノート”を『備忘録』と命名して現在も継続しています。
特に、緊急処理事項は朱墨や赤ペンで記載しておきます。いつも頭の片隅に留めて思考しますので、就寝中に夢の中で覚醒され、問題解決の糸口を見出すこともあります。
以上が私の法曹人生の中で大事にしていた「ルーティーン」です。
“ゆめゆめ忘るるべからず”としゃれて紹介の締めとします。
完
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