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才口弁護士に聞いてみよう(23)
2022.07.04
TMIの顧問弁護士であり、最高裁判事の重責も務められた才口弁護士に聞く、現代の「仕事」と「生き方」のヒント。
私は、ロースクールに通う学生です。いよいよ来年、司法試験を受ける年次になりました。
修習はもちろん楽しみですが、私は弁護士志望のため、そろそろ就職先の事務所のことを考えていかなければなりません。今は伝統的な少人数の事務所の中にも高い専門性を持った事務所がありますし、大手や海外系の事務所など、さまざまな法律事務所があります。現時点では、どのような事務所が合っているのか自分でもしっかりとしたイメージを持っていないのですが、就職希望先の事務所を選んでいくにあたり、どのような考え方でアプローチすると良いでしょうか。アドバイスがあれば、ぜひ教えていただけますと幸いです。
これは、旧司法試験合格者の私には想定外の設問です。
法科大学院が創設されて18年が経過し、既にロースクール出身者が多数輩出されている法曹界で設問のような悩みを抱えておられる学生がおられるとは驚きです。
早期に司法試験に合格するのが先決問題とお答えしても回答になりませんので、せっかくの機会ですから、まずは司法制度改革の経過を振り返ってみます。
司法制度改革は、従前の日本の司法制度が裁判期間の長さ、弁護士費用の高さ、裁判所の行政よりのスタンスなどを改善するために1999(平成11)年から行われている司法制度全般に関する改革です。人的基盤の整備のため法曹養成制度を改革し、まず2004(平成16)年に法科大学院制度が創設されました。私は母校の法科大学院で「倒産法」を担当する予定でしたが、青天の霹靂で同年1月から最高裁判所判事に任用されましたので、その機会を逸しました。
また、法科大学院創設に合わせて2003(平成15)年8月から「法科大学院適正試験」が実施されましたが、2018(平成30)年度には実施が見送られ、その後は実施されていません。
最後は、「司法試験予備試験」です。旧司法試験の完全廃止に伴い2011(平成23)年から実施されている司法試験の資格を付与するために司法試験法第5条に基づいて行われる国家試験です。なかなかの難関試験で2021(令和3)年の合格者は467人、合格率は3.99パーセントです。
前置きが長くなりました。前述の司法制度改革の経緯を踏まえて回答します。
あなたは司法試験合格の自信がおありのようですが、そうであれば最初から弁護士志望と決めて邁進することもないのではありませんか。
司法が立法、行政と国家権力の三権の一翼を担い、その司法を裁判官、検察官、弁護士が掌ります。司法制度改革における人的基盤の整備では、司法試験合格者の増加とともに裁判官・検察官の増員が望まれています。
この程度で任官推奨をやめて、端的に事務所選びのノウ・ハウを伝授しましょう。
従前の回答でも申し述べたとおり、弁護士業務は多種・多様化して事件が偏在し、有能・豊富な人材を擁する大型事務所のニーズが深まりました。あなたが志望する分野に堪能な事務所がありましたら、敢然とアタックして採用の幸運を勝ち取ってください。しかし、大手法律事務所の(すべてではありませんが)多くでは、採用後に、個別のパートナーに配属されて暫時修行の途を歩むことになるとも聞いています。その場合には、人間的、組織的な立ち振る舞いの難しさに直面することもあるでしょう。どのような弁護士になりたいと思ってその門を叩くのか、自分でよく考えることです。くれぐれもご留意ください。
かたや、自ら専門性を求めて独自の分野を開拓する手立てもあります。私の法曹人生はまさにこれで、“倒産事件”に活路を見出し今日に至りました。しかし、この専門分野が恒久的なライフ・ワークになるかどうかは保障の限りではありません。時代と社会・経済情勢が法的ニーズに変革をもたらすことを、ゆめゆめ忘れてはなりません。
結局、弁護士は一人一人の法曹です。所属している「法律事務所」があなたの値打ちを決めるのではなく、あなたが、その法律事務所の値打ちを決めるのです。「あの事務所の●●先生」ではなく、「●●先生の所属している事務所」と言われるような法曹になる。そういう気概をもって望めば、事務所選びによる環境差は、概ね吸収できるのではないでしょうか。
まずは、前述の予備試験を経るかどうかはともかく、司法試験に合格して、どうぞ将来自らの足で立つ立派な法曹をめざしてください。
完
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