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【英国法ブログ:英国契約法】Heads of Termsに法的拘束力がないと判断された事例
2022.07.15
本ブログでは、英国契約法に関連する近時の事案を御紹介して、英国法を準拠法とする契約書のドラフティングやレビュウの御参考にしていただくことを目的としています。今回は、2022年6月14日、英国高等法院でのPretoria Energy Company (Chittering) Ltd v Blankney Estates Ltd [2022] EWHC 1467 (Ch)を御紹介します。
契約を締結する前の交渉段階で当事者間で予備的に書面を交わすことがあります。交わされる書面の名称は、「Letter of Intent」、「Memorandum of Understanding」、「Heads of Terms」(以下、まとめて「HoT」といいます。)と様々です。契約を締結する前に交わされるこれらの書面について、英国契約法に基づく法的拘束力は認められるのでしょうか。特に目新しい論点ではありませんが、本事案では不動産リース契約に関連して交わされたHoTに記載されていた事項の法的拘束力が問題とされました。
英国契約法の下で当事者間の合意に法的拘束力が認められるためには、当事者に法的関係を築く意図(intention to create legal relations)が必要とされています。本事案において、裁判官は、次のような事項を検討して、本件HoTを交わしただけでは当事者には法的関係を築く意図はなく、問題とされた本件HoTに記載されていた事項について、法的拘束力はないと判断しています。
- 本件HoTの前のドラフトでは、「本件HoTに記載された条件、価格、条項に従う」と規定されていたが、当該文言は削除され、2014年7月31日まで第三者と交渉を行わないという条項(ロックアウト条項)に修正された経緯
- ロックアウト条項について、当事者は法的拘束力を有することに合意していたが、ロックアウト条項以外の取引条件についても法的拘束力が認められるとすれば、2014年7月31日以降、第三者と取引条件を交渉することが困難になること
- 交渉されていたリース契約は、特殊な土地賃貸借を内容とするところ、単に敷地、期間、賃料、賃料の見直しについて本件HoTに定められていたとしても契約に不可欠な条件を当事者が合意していたと認めることはできないこと
HoTは、契約を締結する前の交渉段階で、ある程度スピード感をもって締結する必要があるため、しっかりとしたリーガルチェックをを受けないで交わされることがあります。そのため、後日その内容について紛争になる場合もあります。そのような紛争を避けるためには、HoTに法的拘束力を持たせる意図を有しているか、明確に記載しておくことが重要です。また、HoTで定められている一部の条項についてのみ法的拘束力を持たせたいということもあります。そのような場合には、HoTで具体的にどの条項について法的拘束力を持たせるのか明記しておくことも重要です。