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【英国法ブログ】2022年英国経済犯罪法(Economic Crime (Transparency and Enforcement) Act 2022)
2022.11.16
概要
ウクライナ侵攻に対する英政府によるロシアに対する制裁を契機として、英国では、The Economic Crime (Transparency and Enforcement) Act 2022(以下、「本法」といいます。)という法律が2022年3月15日に裁可を受け、成立しています。
本法では、「適格不動産」(qualifying estate)を所有し、または取得する海外事業体にかかる実質的所有者(beneficial owner)等の情報をCompanies Houseに登録することを義務付けています。
ここで「適格不動産」とは、英国の土地について自由土地保有権(freehold estate)または7年以上の期間を有する賃借権(leasehold)を指します。したがって、自由土地保有権または7年以上の期間を有する賃借権を所有し、または取得する海外事業者にかかる実質的所有者の情報等が登録の対象となります。新たに適格不動産を取得する場合だけでなく、適格不動産を既に保有している海外事業体も本法の対象とされているので注意が必要です。すなわち、1999年1月1日以降に適格不動産を取得し、現在も保有している海外事業体は、本法の登録規定が発効してから6か月以内(2023年1月31日まで)に実質的所有者情報等を登録しなければならないとされています。
また、「実質的所有者」とは、概要、以下の者を指します。
- 直接又は間接的に、当該海外事業体の株式の25%超を保有する者
- 直接又は間接的に、当該海外事業体の25%超の議決権を保有する者
- 直接又は間接的に、当該海外事業体の取締役会の過半数を選任または解任する権利を有している者
- 海外事業体に対して重要な影響力または支配力を行使する権利を有し、または実際に行使している者
- 信託、パートナーシップ、法人化されていない団体、または規制される法律の下で法人ではないその他の団体の活動に対して、重大な影響または支配を行使する、または実際に行使する権利を有する者
登録手続
英国において、「適格不動産」(qualifying estate)を取得した海外事業体は、所有権の登記手続を行う前に、まずはCompanies Houseに対し、実質的所有者情報等の登録を行うことになります。登録を行うためには、UK Registered Agentにより、実質的所有者について本人確認を受ける必要があります。実質的所有情報等を登録した後、海外事業体は、Companies Houseから、ID番号を割り当てられ、当該ID番号を土地の登記申請書とともにHM land Registryに提出して、所有権等を登記できるようになります。
登録をしない場合
前記のとおり、適格不動産を新たに取得したにもかかわらず、実質的所有者等の情報を登録しなかった場合、土地登記簿に適格不動産を登録することができなくなります。1999年1月1日以降に適格不動産を取得した場合で、現在も保有している海外事業体は、本法の登録規定が発効してから6か月以内(2023年1月31日まで)に実質的所有者情報等を登録しなければなりませんが、当該義務を怠った場合、当該土地を所有する海外事業体は、当該土地を処分することができなくなります。さらに6か月以内(2023年1月31日まで)に実質的所有者等の情報を登録していない場合、罰金又は禁固刑が科されるおそれもあります。
まとめ
英国は、ロシア富裕層の投資対象先とされていることから、英政府が本法に基づき実質的な土地の所有者であるロシア富裕層を把握することは、英政府によるロシアに対する更なる経済措置につながるものと考えられています。一方で、対ロシア政策に関係なく、英国の土地を取得しようと考えている日本企業や既に英国に土地を有している日本企業についても、本法の規制の対象になりますので、登録手続を怠ることで不利益な処分を受けないよう手続を履践していただければと思います。