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【相続ブログ】相続制度と遺産共有・相続登記を含む登記制度(8)所有不動産記録証明制度(改正不動産登記法119条の2)
2023.08.23
はじめに
令和3年4月21日に、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。これらの法律は、所有者不明土地等の発生予防と利用の円滑化の観点から総合的に民事法制を見直すことを目的としたものですが、令和5年4月1日から順次施行されており、実務上も大きな影響を持つと考えられます。相続プラクティスグループでは、これらの法律を「相隣関係・共有制度」「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」「財産管理制度」の3つに大別して、ブログとしてそれぞれの内容の記事を連載いたします。この記事は、「相続制度と遺産の共有・相続登記を含む登記制度」の第8回となります。
所有不動産記録証明制度(改正後の不動産登記法119条の2)
【施行日未定】
【改正のポイント】 |
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の成立(令和3年改正)で、所有不動産記録証明制度という新たな制度が新設されました。
以下では、Q&A方式で、所有不動産記録証明制度について具体的に見ていきましょう。
〔設例〕 |
(1) 法改正の内容
ア 改正の要旨
従前の不動産登記法の下では、登記記録が一筆の土地や一棟の建物ごとに作成されており、日本全国の数多ある不動産の中から、特定の者が所有権の登記名義人となっているものを網羅的に抽出し、それを公開する仕組みはありませんでした。
その結果、所有権の登記名義人が死亡した場合に、その死亡者が生前どのような不動産を所有していたのかについて、相続人が把握しきれないという問題がありました。さらに、把握できず見逃された不動産が、相続登記がされないまま放置されることによって、所有者不明不動産の発生につながってしまうとの指摘がされていました。そのため、相続人が容易に被相続人名義の不動産を把握できる制度の導入が望まれていました。
そこで、改正後の不動産登記法(以下「改正不登法」といいます。)では、特定の者が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、所定の事項を証明する所有不動産記録証明制度が新設されました(改正不登法119条の2)。
また、そのような不動産がない場合には、その旨が証明されることになります(改正不登法119条の2第1項括弧書き)。
(※)なお、証明書の交付請求先となる登記所については、この事務を取り扱うことができるシステムの配備の可否や費用負担などの事情を踏まえ、法務大臣が指定することとされており(改正不登法119条の2第3項)、交付請求にあたっての手数料の金額等は、登記事項証明書の交付等についての規定を準用し、今後の政令等で定められる予定です(同条4項、不動産登記法119条3項、4項)。
イ 交付請求が可能な者の範囲について
所有不動産記録証明制度は、簡単に被相続人名義の不動産を把握したいというニーズを満たすために新設されましたが、相続の場面に限らず、生存中の自然人や法人についても、その者が登記名義人となっている不動産を一覧的に把握したいというニーズは広く認められます。但し、所有不動産記録証明書の内容は所有権の登記名義人のプライバシーや信用に関わる情報を含むものであることから、限定も必要です。
そこで、改正不登法では、自然人・法人とも、自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産について、所有不動産記録証明書の交付を請求できることとされました(改正不登法119条の2第1項)。
また、相続人その他の一般承継人についても、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求できるとされています(改正不登法119条の2第2項)。
ウ 制度開始時期
所有不動産記録証明制度は、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の公布日(2021年4月28日)より5年以内に施行される予定となっており、施行され次第請求可能となります。
(2) 設例の検討
上記の設例で、Aは、Xが所有していた不動産の情報を網羅的に取得したいと考えています。
AはXの相続人ですので、(1)イで述べたとおり、Xの所有不動産記録証明書の交付を請求できる者に該当します。
したがって、Aは登記所の登記官に対し、所有不動産記録証明書の交付を請求することによって、Xが所有権の登記名義人となっている不動産があれば、その不動産が一覧的にリスト化された証明書(Xが所有権の登記名義人となっている不動産がなければ、その旨の証明書)の交付を受けることができます。
このように、Aは所有不動産記録証明制度を利用することで、死亡したXが生前どのような不動産を所有していたのかを把握することができます。
但し、所有不動産記録証明制度は2021年4月28日から5年以内に施行される予定となっており、本制度の詳細は今後具体的に定められる予定となっていますので、留意が必要です。
[参考]
(※)村松秀樹=大谷太編著『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』(一般社団法人金融財政事情研究会、2022)322~325頁