ブログ
【労働法ブログ】フリーランスの労働者性
2023.10.30
はじめに
近年、日本においては働き方の多様化が進み、企業との間で雇用契約を締結せずに働く、いわゆる「フリーランス」人口は1577万人に上ると言われています(新・フリーランス実態調査2021-2022年版)。このようなフリーランスは、今後、2023年4月28日に成立した特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆる「フリーランス新法」)上の「特定受託事業者」に該当する場合、同法の施行がなされることによって取引の適正化と就業環境の整備がなされていくことが考えられます。
一方で、フリーランスは、企業との間で業務委託契約を締結することが多いものの、その働き方の実体から、雇用契約を締結する「労働者」であると判断されるケースもあります。仮に、フリーランスが労働基準法上の労働者と認められた場合、仕事の発注者との関係では、労働基準法上の労働時間規制や割増賃金に関するルールが適用されることになります。
そこで、そもそもどのような場合に、そのフリーランスが労働基準法上の「労働者」と認められるかを認識しておく必要があります。
労働基準法上の「労働者」性
一般に「労働者」とは、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義されています(労働契約法2条1項)。この労働者該当性を判断するにあたっては、以下の諸点を判断要素とした使用従属性の有無が問題となります(労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(1985年12月19日))。
(1)「使用従属性」に関する判断基準 | ① 「指揮監督下の労働」であること a. 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無 b. 業務遂行上の指揮監督の有無 c. 拘束性の有無 d. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素) ② 「報酬の労務対償性」があること |
(2)「労働者性」の判断を補強する要素 | ① 事業者性の有無 ② 専属性の程度 |
これらの判断要素については、2021年3月26日に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」においても基本的に踏襲されました。
以下では、特に、「使用従属性」に関する判断基準として挙げられている各々の要素について、より詳細をご紹介します。
(1)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
発注者等から具体的な仕事の依頼や、業務に従事するよう指示があった場合などに、フリーランス自身がその受諾の可否を決められるかがポイントです。この点をフリーランスが決められる場合には、指揮監督関係を否定する重要な要素となります。
ただ、以下の場合、指揮監督関係の有無については、契約内容なども考慮して判断する必要があると考えられています。
・特定の発注者等との間に専属の下請契約を結んでいるために、事実上仕事の依頼を拒否することができない場合 |
例えば、アニメーターが発注者との関係で専属契約を締結していることにより、その発注者の仕事を事実上断ることができなかったとしても、それが契約等に基づいていたりする場合には、直ちに指揮監督関係が肯定されるわけではありません。
(2)業務遂行上の指揮監督の有無
業務の内容や遂行方法について、発注者等から具体的な指揮命令を受けているか否かがポイントです。具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係を肯定する基本的かつ重要な要素となります。
例えば、以下の場合、指揮監督関係を肯定する要素になるとされています。
・芸能関係の仕事において、俳優や(撮影、照明等の)技術スタッフに対して、演技・作業の細部に至るまで指示がなされている場合 |
一方で、例えば、芸能関係者の労働者性の判断基準に関する報告書(労働基準法研究会労働契約等法制部会「労働者性検討専門部会報告」(1996年3月))では、演技・作業の細部に至るまでの指示を行わず、大まかな指示に留まる場合でも、直ちに指揮監督関係が否定されはしないとされています。「細部に至るまで」がどの範囲であるかは評価の問題ではありますが、いずれにしても(一般のフリーランスではないものの)芸能関係の演技・作業について何らかの指示があった場合には、指揮監督関係が肯定され得ることに注意が必要です。
(3)拘束性の有無
発注者等から、勤務場所と勤務時間が指定され、管理されているか否かがポイントです。ただし、勤務場所や勤務時間の指定があったとしても、それが業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを考慮することが必要です。
例えば、以下の場合、指揮監督関係を肯定する要素になるとされています。
・映画やテレビ番組の撮影で、監督の指示によって一旦決まっていた撮影の時間帯が変動したときに、これに応じなければならない場合 |
これに対して、例えば、コンサート会場でのピアニストによる演奏は、その性質上、コンサート等の場所や時間を特定せざるを得ず、この場所や時間の指定が直ちに指揮監督関係を肯定するとはいえません。
(4)報酬の労務対償性
支払われる報酬が、発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められるかがポイントです。これが肯定される場合には、使用従属性を補強する要素となります。
例えば、以下の場合、報酬の労務対償性を肯定する要素になるとされています。
・映画やテレビ番組の撮影において、撮影に要する予定日数を考慮しつつ作品一本あたりいくらと報酬が決められており、拘束時間日数が当初の予定より延びた場合には、報酬がそれに応じて増える場合 |
つまり、一定の時間をもとに報酬が決められ、その時間が延長すると報酬が増える関係にある場合には、報酬の労務対償性が肯定されることになります。
今後、フリーランスと業務を進めていく際の留意点
フリーランスとして働く人々が増えている中で、上述したフリーランス新法の成立は、フリーランスと取引を行う事業者に対する一定の注意喚起であるといえます。
そういった中で、発注者としては、フリーランスとの契約の在り方についても今後改めて検討していく余地があります。すなわち、例えば、クリエーターなど、創作的な活動をする人々に対してはその業務の遂行方法に一定の裁量があるため、これまでと同様に業務委託契約を締結することが考えられるのに対し、発注者が業務の遂行方法等も含めて一定の管理をしたい場合には、業務委託契約ではなく、有期雇用契約を締結することも一つの選択肢になりえます。
事業者にとってフリーランスと雇用契約を締結することは時間管理が必要となったり、社会保険への加入が必要になる等、ハードルが高い側面もありますが、依頼業務の実態を踏まえた上で、双方納得のいく合意形成を図る必要があります。
以上
Member
PROFILE