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令和6年特許庁政策推進懇談会中間整理
2024.07.01
はじめに
特許庁は、知的財産制度改善に向けて、知的財産制度に関する諸課題を検討するため、有識者を構成員とする特許庁政策推進懇談会を令和4年に立ち上げ、同年4月から6月にかけて議論した結果を「知財活用促進に向けた知的財産制度の在り方~とりまとめ~」として公表しており、当該議論に基づき、一部の論点については、法改正に至りました。
今年も本懇談会において議論が行われ、令和6年3月から6月にかけて非公開で行われた議論の報告書に相当する「特許庁政策推進懇談会中間整理」(以下「本中間整理」といいます。)が、6月29日に公表されましたので、ここにご紹介いたします。
なお、本中間整理は、「政策推進懇談会での議論を踏まえ、知的財産政策に関して、今後の検討の方向性を提言するものである。」と位置付けられています(本中間整理4頁)。
各論点
本中間整理の3頁の目次を見ていただければわかるとおり、本懇談会で検討がなされた論点は多岐に渡ります。
本懇談会での議論が当初から予定されていた、特許に関連する論点としては、「1.国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護」、「4.ePCTによるオンライン出願・発送の導入」、「6.国内優先権に基づく先の出願のみなし取下げの廃止」、「10.損害賠償の過失推定規定」、また、追加で議論がなされることとなった、特許に関連する論点として、「11.差止請求権の制限」、「12.懲罰的損害賠償・利益吐き出し型損害賠償」があります。また、商標に関連する論点としては、「7.商標Web出願の導入」、「9.仮想空間における商標の保護」、さらに、意匠に関連する論点としては、「2.仮想空間における意匠の保護」、「3.生成AI技術の発達に対する制度面での適切な対応(意匠)」、「8.意匠法条約への対応」、共通する論点としては「5.公報におけるプライバシーの保護」などです。
いずれの論点についても、本中間整理に、問題意識、検討の方向性、懇談会メンバーのご意見等が記載されており、最先端の論点について現状と課題が整理された資料であると思われます。ご関心がある論点について読んでみてはいかがでしょうか。
今後について
本中間整理において、何ら留保をつけることなく、各小委員会において「集中的に検討を深める必要がある」と整理された論点については、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会、同商標制度小委員会、同意匠制度小委員会等で引き続き検討がなされ、立法に向けての議論がなされることが想定されています。具体的には、以下の論点について、「集中的に検討を深める必要がある」と明記されております(下線は筆者らによるもの。)。
1.国際的な事業活動におけるネットワーク関連発明等の適切な権利保護
「特許法において、実質的に国内の実施行為と認める要件を明文化する方向で、特許制度小委員会において、集中的に検討を深める必要がある。なお、この際、最高裁に上告中のドワンゴ対FC2事件の状況を注視すべきである。」(本中間整理6頁)
この論点は、令和4年の政策推進懇談会では、AI、IoT時代に対応した特許の「実施」の定義見直しの論点として取り上げられておりましたが、その後、知財高裁において属地主義を柔軟に解した判決が出されたことなどを踏まえて、今回(令和6年)の政策推進懇談会では、実施行為の一部が海外で行われている場合でも、発明の「技術的効果」及び「経済的効果」が国内で発現していることを要件として、実質的に国内における行為と認められることを明文化するという方向での議論がなされました。特許制度小委員会では、かかる方向性に沿って、具体的な条文案の検討がなされるものと思われます。なお、本論点の詳細については、弊所記事もご覧ください。
2.仮想空間における意匠の保護
「以上を踏まえ、意匠法の保護対象の範囲及び保護の在り方に関して更なる検討を進めていくが、適時適切な意匠制度の見直しを図るためには、まず、制度見直しの必要性及び許容性を見極めることが重要である。そのため、令和6年4月に施行された改正不正競争防止法の影響をはじめとする他法域の動向や海外における議論の動向を注視するとともに、本懇談会における各意見及び令和5年度の調査研究の結果をもとに、仮想空間のデザイン創作や仮想空間におけるビジネスに関わる者等から引き続き広く意見聴取を行い、意匠法による保護のニーズや意匠法によって保護した場合に創作現場に与える影響についての詳細な情報を収集する。また、必要性・許容性が満たされ、制度的論点について検討を行う場合は、上記①、②及びその他の方向性についてそれぞれメリット・デメリットを示した上で、意匠制度小委員会において、集中的に検討を深める必要がある。」(本中間整理16頁)
4.ePCTによるオンライン出願・発送の導入
「ユーザーの利便性向上を図るべく、ePCTを活用したオンライン出願・発送の導入に向けて、特許制度小委員会において、国内の特許関係法令とPCT規則間におけるオンライン発送に関する考え方の違いなど、必要な制度的措置の在り方(及び運用設計)について集中的に検討を深める必要がある。」(本中間整理38頁)
5.公報におけるプライバシーの保護
「公報における個人の出願人・発明者等の住所については、市区町村までの概略表記とすることを軸に、特許制度小委員会等において、制度的措置の具体的な内容について集中的に検討を深める必要がある。具体的には、個人の出願人・発明者等の住所に関するユーザーニーズについて、ヒアリング等を通じて改めて確認し、その結果を踏まえて、出願書類等の閲覧やJ-PlatPat・特許情報標準データといった情報開示・提供ツールも含めて、どの媒体でどの程度までの住所情報を開示することが適切であるかの検討・整理を行い、システムへの影響も考慮した具体的な検討を進めることが必要である。」(本中間整理41頁及び42頁)
なお、本中間整理の各項目の「(3)今後の検討の方向性」において、各論点の検討の今後の検討の方向性につき簡潔にまとめられておりますので、ここを読んでいただければ、各論点の今後の検討の方向性はある程度把握できると思います。
最後に
弊職(松山)は、本懇談会立ち上げ当時から、本懇談会メンバーとして議論に参加をさせていただいており、今回も、各方面でご活躍の有識者たちが幅広い観点から議論に参加をさせていただきました。様々な組織を代表して参加されていらっしゃる方々や、学者の先生方等、お立場や考え方が異なる本懇談会のメンバーが、日本の知的財産制度をより良くしていこうという共通した熱い想いの下に、活発な議論を行い、その結果を纏めたものが本中間整理となります。
特許制度小委員会の委員も拝命しておりますので、本中間整理に掲げられた論点を含む法改正の動向について、また、引き続きこのブログでご報告ができればと思います。