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シリーズ:トランプ2.0の動向と対応 ~ その① 相互関税・自動車関税等の最新動向~
2025.02.21
トランプ政権による関税が世界中を震撼させています。各国が対抗的な動きを示す中、2月7日の日米首脳会談では、石破総理から米国の関税に対する懸念表明はされなかったと報道されています。企業は正確な分析と共に、自ら必要な対応を行い、日本政府等にも働きかける必要があります。
TMI総合法律事務所の関税チームでの取組みとともに、トランプ2.0の関税政策の動向と対応方法について、連載していきます。
トランプ政権の関税措置
~2月13日発表「相互関税のインパクト」~
大統領選挙期間中から関税に幾度となく言及し、自らを”tariff man”と自称していたトランプ氏は、2025年1月20日の就任演説の中で、米国の労働者保護の観点から通商システムの見直しと関税賦課を宣言しました。その後、現在に至るまで以下のような政策を実施しています。
<就任後の各措置の整理>
- 1月26日、米国からの不法移民送還を拒否したコロンビア政府に対する制裁措置として、(a)同国からの全輸入品に対する25%の関税賦課、(b)1週間後からは50%の関税賦課を宣言
⇒コロンビア政府による不法移民受入れ合意に伴い、制裁措置は撤回。 - 2月1日、カナダ産・メキシコ産の全製品に対する25%の追加関税賦課(ただし、カナダ産の原油等のエネルギー資源に対しては10%の追加関税)を発表
⇒2月4日、カナダ・メキシコそれぞれに対する追加関税賦課を3月4日まで延期することを発表。 - 2月1日、中国産の全製品に対して10%の追加関税賦課を発表、2月4日に発動。
⇒2月4日、中国は対抗措置として米国産石炭や天然ガス等に対して15%、原油や自動車に対して10%の追加関税を賦課することを発表、2月10日に発動。 - 2月9日、米国に輸入される鉄鋼・アルミニウムへの25%の追加関税を宣言
- 2月13日、「相互関税」の導入検討を指示。貿易相手国が米国製品に対して課す関税、非関税障壁等に対抗して米国の関税を引き上げるという概念のみ示されており、根拠法等は不明。
- 2月18日、「自動車関税」の発表。追加関税が25%前後になるとの見解を明らかにするとともに、「半導体」や「医薬品」に対する追加関税を検討すると表明。現時点では、概念のみ示されており、相互関税との異同や根拠法等は不明であるものの、第1次トランプ政権における自動車関税においては通商拡大法第232条が使われたため、今回も同様になるのではないかとの声もある。(※なお、米国法令における関税賦課の法的根拠については、次回の連載で取り扱います。)
<相互関税の日本へのインパクト>
相互関税の具体的な品目と税率は明らかではありませんが、日本から米国に輸出される物品で、日本が米国よりも高関税を課している分野については、米国の課税により不利益を受けることが想定されます。
また、そもそも各国(WTO加盟国・地域で166国・地域)で、品目ごとに、税率を変えるような運用ができるのかについても疑義があります。以下では、自動車と酒類についてシミュレーションをします。
■自動車については、相互関税よりも「自動車関税」の懸念が大
例えば、自動車をみると、日本はすでに無税となっているため、この相互関税の影響は、日本からの輸出の3割ほどを占めるとされている日本から米国の輸出には影響がないようにも見えます。むしろ、注意すべきは、日系企業が他国で生産した自動車を米国に輸出している商流での検討だと思われます。しかし、2月18日に25%前後の追加となる旨が示された「自動車関税」が日本車をも対象とする場合には、影響は甚大なものとなることが予測されます。
国名 |
乗用車 |
トラック |
バス |
部品等 (車体及び自動車用) |
日本 |
無税 |
無税 |
無税 |
無税 |
米国 |
2.5% |
25% 車両総重量5t以上20t未満のキャブシャシー…4% |
2% |
2.5% |
中国 |
15% |
15% |
15% |
6% |
一般社団法人日本自動車工業会調べ(同法人ウェブサイト(リンク)を参考に作成)
米国では、米国製の自動車が日本に流通していない状況から非関税障壁等もあるとの声も上がっていますが、改めて日本市場の公正な競争環境を説明していく必要があります。以下は、TPP交渉の際にも行われた日本自動車工業会の意見の抜粋であり、関税がゼロであること、輸入販売の障壁はなく、現に欧州車は日本で成功していると述べています。
2. The Detroit-based auto companies opposed Japan’s participation in the TPP negotiations because they say the Japanese auto market is closed to imports. Is that true?
No. Japan has zero import duties on cars. There are no barriers to the import and sale of foreign-made vehicles in Japan. The Japanese market is highly competitive, but European auto companies that have committed time and resources to selling there have been successful. JAMA has offered on several occasions to be of assistance to the Detroit-based auto companies in connection with difficulties they may have in the Japanese market. So far they have been unresponsive.(日本自動車工業会ウェブサイト)
■日→米の農林水産品輸出には影響か。日本酒では関税率が約14倍に。
日本から米国に輸出される農林水産物では、アルコール飲料(268億円)、ぶり(222億円)、ソース混合調味料 (105億円)、緑茶(105億円)の順に多い(2022年統計:ジェトロ「米国向け農林水産物・食品の輸出 に関するカントリーレポート」参照(リンク))。
日本のアルコール飲料に関して2022年に合意された日米貿易協定の内容をみると、ワイン以外の酒類(清酒、焼酎等)は、日本が関税削減に合意しませんでした。そのため、日本は1リットルあたり70.4円の関税を課しています(WTO協定税率、HSコード2206.00.210)。
これに対し、米国では、同等の品目で日本からアメリカに日本酒を輸出する場合、現在の制度では1リットルあたり3セント、日本円でおよそ5円の関税となっています(NHKニュース記事、米国HTSコード2206.00.45)。そうしますと、これまでの日本の関税率よりも14倍ほどの税率が賦課され、日本酒等の輸出には影響が出る可能性もあります。
さらに、米国は、関税だけでなく、消費税も考慮する可能性があるとされています。消費税は、日本で生産されるものにも平等に課されますので、消費税を考慮することの正当性にはさらに疑義がありますが、仮に文字通り理解すれば、日本の酒類への現行の消費税10%も加算されることになります(「相互」性を正確に考えるなら米国でも課されている消費税との差額のみ課すようにも思われますが、不明です。)。
就任から1ヶ月も満たずに矢継ぎ早に関税政策を実行していますが、選挙戦のときに公言していたものが具体化したものです。そのため、対応にはこれまでの発言からの予測が不可欠となります。
引き続き、今後もトランプ政権による関税政策の行方には予断を許しません。次号では、これらの法的根拠を解説します。法的根拠の正確な理解が、利害関係者となる日本企業の意見表明や、他国政府としての対抗的措置の実施のため重要となります。
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